札幌市電(路面電車)は、西4丁目やすすきのを起点にして市内を循環しています。これをさらに、札幌駅方面を含む都心地域や、桑園地域、創成川以東地域へ延伸する計画がありました。
2022年9月21日に、札幌市長が延伸断念を市議会で表明し、計画は中止しています。
札幌市電延伸の概要
札幌市では、2010年に「札幌市路面電車活用方針」を定め、市電の延伸について検討しています。延伸先の候補としては都心地域、創成川以東地域、桑園地域の3箇所が挙げられました。このうち、都心地域の一部(西4丁目~すすきの間)については、2015年12月10日に開業し、市電のループ化が実現しています。
札幌市ではさらなる延伸に意欲を見せ、調査を実施。2022年9月に調査をとりまとめ、2023年3月公表しました。それによると、市電延伸ルートは9案ありました。都心地域、都心地域+創成川以東地域、桑園地域の各3ルートずつです。
もっとも多くの利用者が見込めたのは、「都心ルート3+創成川以東ルート」です。西4丁目から札幌駅前通を札幌駅まで走り、東へ転じて新幹線札幌駅前から西2丁目を南下。北3条通りに入り、苗穂駅に至る案です。
下図の緑のラインです。
このルートの場合、1日6,910人の利用者を見込みます。整備費は144億円、30年後の累積欠損金は34億円という試算になりました。
その他のルートでは、30年後の累積赤字が、都心ルートで18億~48億円、都心を含む創成川以東への延伸で34億~73億円、桑園地域で29億~39億円と試算しました。
延伸の課題
延伸は基本的には既存道路上に軌道を敷設します。札幌市街地に多い一方通行道路では、道路中央に軌道を設置すると自動車の車線変更ができなくなるという事情から、軌道を歩道側に設置するサイドリザベーション方式を想定します。
道路沿線には駐車場出入口や地下への出入口、地上機器がありますので、サイドリザベーションでの停留場の配置においては、これら施設を回避する必要があります。
停留場以外でも、沿線施設や駐車場の出入を制限することになります。ループ化区間(西4丁目停留場~すすきの停留場)では駐車場の出入口設置がもともと制限されていたので、このような課題はありませんでしたが、延伸区間の沿道では制限されていません。沿線施設等の出入口の支障は、抜本的な解決方法がなく、沿線の土地利用に制限が生じます。
そのほか、軌道設置によって車線数が減少し、道路混雑が悪化することが見込まれるほか、冬期間の堆雪スペースや、タクシー・荷さばきを行うためのスペースが不足し、経済活動にも影響を及ぼすことがことが想定されました。
採算面でも厳しい数字となっていて、30年間の累積損失は赤字が見込まれます。延伸した場合、更に収支が悪化し、既存線の経営への影響も懸念されます。
検討のとりまとめでは、こうした課題を列挙したうえで「路面電車の延伸を行うことは極めて困難である」という結論を示しました。報告を受け、秋元克広札幌市長は、延伸断念を表明。市電の延伸計画は中止となっています。
札幌市電延伸の沿革
札幌市電は1971年~1974年にかけて多くの路線が廃止され、西4丁目~石山通~すすきの間の袋状の路線を残すのみとなっていました。
この区間に関しても、利用者の減少から経営の悪化が予測されたため、2001年度以降に廃止も含めた検討がされています。
2003年度には「路面電車を存続させるために、経営の効率化や車両更新等の設備投資の内容、料金改定などの課題の整理」をおこなうとし、最終的に2005年2月に路面電車の存続を決定しました。このとき、「都心のまちづくりの中で、路面電車を積極的に活用するため、路線のループ化などについて早急に検討を開始する」としています。
2005年8月、まちづくりの中で市電を活用する方法について学識経験者や札幌市幹部が話し合う「さっぽろを元気にする路面電車検討会議」が発足。2006年9月に報告書を公表しています。
報告書では「『札幌駅周辺』『大通』『すすきの』の3地区を結ぶために、路面電車を延伸する必要がある」とし、「東西方向への面的な広がりを持たせることが望ましい」「JR札幌駅に路面電車を接続することや、基幹となる地下鉄3路線の都心各駅やバスターミナルと路面電車を結び、公共交通のネットワークを形成することで、都心内・沿線への集客機能と回遊性を高めることが望ましい」と指摘しました。
2010年3月には、市電活用に向けた「札幌市路面電車活用方針」を公表。路線延伸の実現可能性を検証し、将来の需要見込みから「都心地域」「創成川以東地域」「桑園地域」の3地域を検討地域としています。検討地域の再開発による新規需要も推計し、結果をまとめました。
その後、2012年1月には、西4丁目~すすきの間の札幌駅前通上を複線で接続する方針が固まったと報じられ、それを含めた「札幌市路面電車活用計画」が4月に公表されました。路線のループ化は、2015年12月に実現しています。利用者が乗降しやすいように、線路を道路の歩道側に敷設する「サイドリザベーション方式」が採用されました。
札幌市路面電車活用計画では、今後の展開として「札幌駅方面への延伸ルートに関する具体的な検討を進めるとともに、『創成川以東地域』『桑園地域』についても(中略)延伸の検討を行っていきます」としました。
この検討結果が2022年9月にまとまり、2023年3月に公表されました。内容の概略は上述のとおりです。検討結果を受け、延伸には多くの課題があり、採算も取れないことから、中止が正式に決まりました。
札幌市電延伸データ
営業構想事業者 | 札幌市 |
---|---|
整備構想事業者 | 札幌市 |
路線名 | 未定 |
区間・駅 | 西4丁目~札幌駅~苗穂駅など |
距離 | 7.0km |
想定利用者数 | 6,910人/日 |
総事業費 | 144億円 |
費用便益比 | — |
累積資金収支黒字転換年 | 発散 |
種別 | 軌道事業 |
種類 | 軌道 |
軌間 | 1067mm |
電化方式 | 直流600V |
単線・複線 | 未定 |
開業予定時期 | 事業中止 |
備考 | — |
※データは『札幌市路面電車の延伸検討結果』(2023)の「都心ルート+創成川以東」を抽出。
札幌市電延伸の今後の見通し
札幌市電の延伸は、2022年9月に秋元市長が正式に断念を表明したことで、実現不可能となりました。
秋元市長は「レールや架線がない仕組みも含めて交通環境に影響が少ない交通システムを検討していきたい」としており、路面電車以外の新たな交通システム導入の検討がされています。