多摩モノレール(多摩都市モノレール)は、多摩センター~上北台間約16kmを結ぶ路線です。
全体構想は約93kmに及び、上北台~箱根ヶ崎間、多摩センター~町田間、多摩センター~八王子間などの延伸計画があります。
多摩モノレール延伸の概要
1981年に発表された『多摩都市モノレール等基本計画調査報告』によれば、多摩モノレールの構想路線は約93kmとされます。
町田~多摩センター~上北台~箱根ヶ崎の南北軸と、是政~唐木田~八王子の東西軸を中心に、八王子~箱根ヶ崎間や、八王子~立川間などが構想路線に含まれています。このうち、開業しているのは、南北軸の多摩センター~上北台間のみです。
残る区間のうち、箱根ヶ崎、町田、八王子の3方面への延伸計画が、2016年の交通政策審議会答申198号『東京圏における今後の都市鉄道のあり方について』に記載されました。これらの3路線は、今後、開業の可能性があります。
順に見ていきましょう。
箱根ヶ崎延伸
多摩モノレールの上北台~箱根ヶ崎間の「箱根ヶ崎延伸(箱根ヶ崎ルート)」は、事業化が決定しています。上北台から西折れて新青梅街道に入り、JR八高線箱根ヶ崎に至る約7kmの区間です。
沿線には鉄軌道のない武蔵村山市があり、モノレール延伸を悲願として熱心な建設運動を続けてきました。導入空間となる新青梅街道の拡幅が進んでいて、完成すればモノレール用地がすべて確保されます。
こうした状況の進展を受け、東京都は2020年1月に事業化を正式決定。2022年10月に都市計画決定素案が公表されました。建設費は約800億円です。
箱根ヶ崎延伸では、新たに7つの駅を設けます。東大和警察署付近、村山病院北交差点付近、本町1丁目交差点付近、三ツ木交差点付近、武蔵村山高校付近、瑞穂石畑交差点付近、箱根ヶ崎駅です。
2022年11月に公表された環境影響評価計画書によりますと、工事期間は10年です。環境アセスを3年で終了したとして、開業は2035年頃という計算になります。
2022年12月8日の都議会本会議で、小池百合子都知事は、開業予定を「2030年代半ば」と答弁しました。
概算事業費は、インフラ外部が約358億円(税抜)、インフラ部が約900億円(税込)で、総額約1,290億円(税込)を見込んでいます。
町田延伸
多摩センター~町田間の「町田延伸(町田ルート)」は、多摩センターから、小山田緑地、小山田桜台団地、都道47号線を経て町田駅に至る路線です。
東京都が設置した「多摩都市モノレール町田方面延伸ルート検討委員会」がルート選定を行い、2022年1月28日に概要が発表されました。それによると、4つの案が候補として出され、そのうちの「B案」を選定しました。
決定したルート案は、多摩センターから町田市立陸上競技場、日大三高、小山田桜台団地、桜美林学園、町田市民病院、町田高校を経由して町田駅に至ります。総延長は約16kmです。当初構想の最短ルートでは13kmとされていましたが、需要を確保するため3km距離を長く取りました。
都道156号線と47号線を中心に導入空間道路の確保が進んでいて、多摩センター~多摩南野交差点付近と、桜美林大学付近~本町田付近の計約7kmで導入空間が確保されています。
ただ、町田市中心部付近などは、道路用地確保に動き出したばかりの部分もあり、モノレール事業化へはもう少し時間がかかります。
建設費は、当初構想の13kmで約1700億円とされています。
八王子延伸
多摩センター~八王子間の「八王子延伸(八王子ルート)」は、多摩センターから、小田急多摩線唐木田駅付近、京王相模原線南大沢駅付近、多摩美術大学付近を経由して、八王子ニュータウンの横浜線八王子みなみ野駅付近を通り、JR八王子駅へ至る延長約17kmの路線です。
こちらも一部区間で導入空間道路の確保が進められています。建設費は約1900億円です。
その他の延伸区間
このほか、箱根ヶ崎からさらに延伸し、羽村を経て八王子までを結ぶ路線、唐木田付近で延伸八王子ルートから分岐し、若葉台・南多摩を経て是政までを結ぶ路線、八王子から小宮・日野を経て甲州街道までを結ぶ路線が構想されています。
いずれも、具体化する見通しは立っていません。
多摩モノレール延伸の沿革
1981年度に『多摩都市モノレール等基本計画調査報告』が発表され、約93kmの路線構想が明らかにされました。1987年12月には、多摩都市モノレール(株)が軌道法に基づく特許取得。1期区間の立川北駅~上北台駅が1998年に開業し、2期区間の立川北駅~多摩センター駅間が2000年に開業しています。
2000年の運輸政策審議会答申第18号では、上北台~箱根ヶ崎間について、「2015年までに整備に着手することが適当」とされ、多摩センター~町田、八王子に関しては「今後整備について検討すべき路線」とされました。
2016年4月20日の交通政策審議会答申第198号『東京圏における今後の都市鉄道のあり方について』では、箱根ヶ崎、町田、八王子への延伸が「地域の成長に応じた鉄道ネットワークの充実に資するプロジェクト」として答申されています。
2020年1月23日に、東京都は上北台~箱根ヶ崎間の延伸事業に着手することを正式に発表。2022年10月に、箱根ヶ崎延伸について都市計画素案が公表されました。2022年11月には環境影響評価計画書が公表され、12月には小池都知事が開業目標を2030年代半ばと答弁しました。
多摩モノレール延伸のデータ
営業構想事業者 | 多摩都市モノレール |
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整備構想事業者 | 東京都 |
路線名 | 多摩モノレール |
区間・駅 | 上北台~箱根ヶ崎 多摩センター~町田 多摩センター~八王子町 |
距離 | 約7km(箱根ヶ崎延伸) 約16km(町田延伸) 約17km(八王子延伸) |
想定利用者数 | 約75,000人/日(町田延伸) |
総事業費 | 1,290億円(箱根ヶ崎延伸) |
費用便益比 | 1.0~1.1(箱根ヶ崎延伸) 1.1(町田延伸) |
累積資金収支黒字転換年 | 1年(箱根ヶ崎延伸) |
種別 | 軌道事業 |
種類 | モノレール |
軌間 | — |
電化方式 | 直流1500V |
単線・複線 | 複線 |
開業予定時期 | 2030年代半ば(箱根ヶ崎延伸) |
備考 | 社会資本整備総合交付金 |
※データはおもに『鉄道ネットワークのプロジェクトの検討結果』(2016年、交通政策審議会)、箱根ヶ崎延伸にかかわる環境影響評価書(東京都)、「多摩都市モノレール町田方面延伸ルート検討委員会」資料(町田市)より
多摩モノレール延伸の今後の見通し
箱根ヶ崎延伸については、すでに事業化が決定しています。2022年に都市計画決定、環境アセスの着手と進んでおり、順調にいけば2025年度着工、2035年度末開業というスケジュールになるとみられます。導入空間の確保は完了していますので、用地買収に時間がかかることはなさそうです。
ただ、工事に遅延はつきもので、不確定要素も残るため、小池都知事の答弁の通り「2030年代半ば」が開業目標ということになります。
町田延伸については、答申198号で「導入空間となりうる道路整備が前提となるため、その進捗を見極めつつ、事業化に向けて関係地方公共団体・鉄道事業者等において具体的な調整を進めるべき」とされました。まずは道路整備を優先すべきとの姿勢です。2022年1月にルートが決定しましたので、導入区間となる道路整備が順調に進めば、町田延伸は実現性のある計画とみられます。
八王子延伸については、答申198号で「事業性に課題があるため、関係地方公共団体・鉄道事業者等において、事業計画について十分な検討が行われることを期待」とあります。事業性に課題、という表現は後ろ向きで、すぐに事業化する見通しは立っていないとみていいでしょう。
それ以外の区間については、構想の域を出ておらず、実現へ向けて可能性が高まっているようにはみえません。
【参考資料】
『多摩モノレール箱根ヶ崎延伸環境影響評価調査計画書(部分)』(PDF)
『多摩都市モノレール町田方面延伸ルート検討委員会資料』(PDF)