東京メトロ有楽町線では、豊洲から住吉まで延伸する計画があります。「豊洲」と「住吉」の頭文字を取って「豊住線」ともいいます。有楽町線は「東京8号線」のも呼ばれますので、「東京8号線延伸」と表記されることもあります。
1972年の都市交通審議会答申第15号で豊洲~住吉~押上~亀有間が盛り込まれたのが最初です。2016年国土交通省交通政策審議会答申には豊洲~住吉間が記載されました。2022年3月に鉄道事業許可を受け、2024年6月に工事に着手。開業予定時期は2030年代半ばです。
東京メトロ有楽町線延伸の概要
東京メトロ有楽町線の延伸区間は、豊洲~住吉間は5.2kmです。既存の有楽町線豊洲駅から分岐して、半蔵門線の住吉駅に至ります。5.2kmのうち、トンネル建設区間は約4.8km、豊洲駅改良区間が0.2kmです。
東京メトロ有楽町線の豊洲駅から、区道と運河の地下を進みます。東西線と交差する東陽町駅付近からは都道465号(四ツ目通り)に沿って北方向に進み、半蔵門線の住吉駅に至ります。途中駅は枝川、東陽町、千石の3駅(いずれも仮称)です。
延伸区間の駅構造
有楽町線豊洲駅のホームは分岐線の建設に対応できるよう2面4線で建設されており、中央側の2線が空いています。さらにホームに1面を追加して3面4線となります。追加ホームの最大幅員は約8mです。
枝川駅は相対式ホームで最大幅員が約4m。東陽町は島式ホームで最大幅員が約9m。千石駅も島式ホームで最大幅員が約7mです。
半蔵門線の住吉駅ホームは上下2層式の2面4線となっており、このうち2線が分岐線用として確保されています。
豊住線が完成すれば、有楽町線池袋方面と、半蔵門線押上方面へ直通できる構造になります。開業した場合、池袋方面から住吉方面への直通列車が運転されます。
総事業費と費用対効果
交通政策審議会が2021年7月にまとめた答申第371号『東京圏における今後の地下鉄ネットワークのあり方等について』の参考資料によると、総事業費は1500億円、輸送密度は10万3200~10万5400人、費用便益比(B/C)は2.0~2.1で、累積資金収支は25~26年で黒字化するとしています。
ただし、総事業費は、鉄道事業申請時に2690億円に修正されています。これを基に計算すると、費用便益比は1近くに下がるとみられます。
工事予定期間は約10年を見込みます。工事が順調にいったとして、有楽町線延伸(豊住線)の開業は2035年頃になりそうです。
東京メトロ有楽町線延伸区間の運転計画
2023年に公表された環境影響評価書によりますと、開業後の運転計画は、毎時最大上下各12本。つまり、朝ピーク時に5分間隔の運転です。終日で上下各150本を運転します。
交通政策審議会が2019年3月にまとめた『東京圏における国際競争力強化に資する鉄道ネットワークに関する調査』では、運行頻度は朝ピーク時に毎時12本、夕ピーク時に毎時10本、日中に毎時8本とし、各時間帯で毎時4本は豊洲駅において有楽町線市ヶ谷方面との直通運転を想定しています。
これらの情報を総合すると、朝ラッシュ時5分間隔、夕ラッシュ時6分間隔、日中は7.5分間隔での運転になりそうです。2019年調査では、各時間帯で毎時4本は豊洲駅で有楽町線市ヶ谷方面との直通運転を想定しています。15分に1本は有楽町線直通ということです。
一方、半蔵門線押上方面への乗り入れは想定されていません。全列車が住吉折り返しになるようです。
ホームは20m車10両編成に対応しますので、有楽町線の現行車両がそのまま乗り入れることができます。
豊住線が開業すれば、豊洲~住吉間が9分で結ばれます。錦糸町駅~豊洲駅間の所要時間は11分程度となり、現在の21分から10分短縮されます。
運賃体系は東京メトロと同等とし、東京メトロの既存線とは通算運賃と考えられています。
東京メトロ有楽町線住吉延伸の沿革
1972年の都市交通審議会答申第15号にて、東京8号線計画に豊洲~東陽町~住吉町~押上~亀有間が追加されたのが、有楽町線住吉延伸の始まりです。1982年には、営団地下鉄が8号線豊洲~亀有間 (14.7km) の鉄道事業免許を申請し、実現への期待が高まりました。しかし、この免許は未交付に終わりました。
1985年の運輸政策審議会答申第7号では、「東京8号線の建設及び複々線化」として、豊洲~住吉~押上~亀有~武蔵野線方面への延伸が答申されました。このとき、住吉~四ツ木間は東京11号線(半蔵門線)と共用する計画となっています。豊洲~亀有間の計画の目標年次は2000年とされました。
1988年には有楽町線が豊洲駅まで開業し、住吉方面への分岐に備えた2面4線の構造となりました。ただ、その後も豊住線区間は着工に至らず、2000年の運輸政策審議会答申第18号では、豊洲~住吉間と押上~四ツ木~亀有~野田市間が2015年度までに整備に着手するのが適当な路線(押上~四ツ木間は東京11号線と共用)とされました。
2004年に営団地下鉄が民営化され東京メトロになると、同社は副都心線を最後に新線建設を行わない方針を表明します。これにより住吉延伸の建設期待はしぼみましたが、2010年に地元江東区が事業化に関する検討を独自に開始。2013年に『東京8号線(豊洲~住吉間)延伸に関する調査報告書』を公表します。
2015年7月10日、東京都が『広域交通ネットワーク計画について≪交通政策審議会答申に向けた検討のまとめ≫』を公表。そのなかで、住吉延伸を「整備について優先的に検討すべき路線」のひとつとしました。
198号答申記載から事業化へ
さらに、2016年4月20日の交通政策審議会答申第198号『東京圏における今後の都市鉄道のあり方について』では、豊住線は「国際競争力の強化に資する鉄道ネットワークのプロジェクト」に位置づけられました。これにより、住吉延伸は建設に向け大きく前進しました。
2019年3月には交通政策審議会が『東京圏における国際競争力強化に資する鉄道ネットワークに関する調査』を公表。総事業費1559.5億円(建設費1420億円、車両費139.5億円)と想定しました。30年間での費用便益比(B/C)が2.60~3.03、50年間で2.85~3.33になるとしました。
収支採算性については、累積資金収支が19~29年目に黒字に転換し、累積損益収支は 1年目の黒字転換が見込まれました。したがって、基準とされる開業後40年以内に累積赤字が解消される見通しで、事業採算性に問題はないという結論になりました。
ただし、有楽町線が住吉まで延伸すると、東西線など東京メトロの既存路線で減収が生じます。それを考慮すると、単年度の黒字転換はなく、開業後40年以内で累積資金収支は黒字となりません。そのかわり、東西線の混雑率は木場→門前仲町間で20ポイント、有楽町線の混雑率は豊洲→月島間で16ポイント減少すると見込まれるなど、既存路線の混雑緩和に貢献するとされました。
答申371号
こうした結果を受け、2021年7月に交通政策審議会答申第371号『東京圏における今後の地下鉄ネットワークのあり方等について』がまとめられ、東京メトロ南北線の白金高輪~品川間と、有楽町線の豊洲~住吉間の延伸について、それぞれ整備を進めるのが適切と示されました。これにより、事実上、東京メトロ有楽町線の住吉延伸が決まりました。
答申371号では、延伸について、国や東京都が建設費を補助し、東京メトロに建設・運営を求めるべきとしました。一方で、国と都がそれぞれ保有する東京メトロ株の半分を売却し、上場する方向性も示しました。要は、東京都が東京メトロ株上場を認め、株を放出する代わりに、メトロが有楽町線と南北線の延伸を自力で建設するという取引をさせたわけです。
これを都、メトロが受け入れ、有楽町線の住吉延伸が、南北線の品川延伸とともに、実現することになりました。
2022年1月28日に有楽町線豊洲~住吉間4.8kmと南北線品川~白金高輪間2.5kmの延伸について、鉄道事業許可を国土交通大臣に申請。同3月28日付で許可を受け、建設に着手しています。
さらなる延伸計画も
有楽町線(東京8号線)延伸は、豊洲~住吉間だけの計画ではありません。住吉から先は、亀有、八潮、越谷レイクタウン、野田方面への延伸計画もあります。
おおざっぱにいうと、有楽町線延伸計画のうち、江東区部分だけを切り取ったのが「豊住線」です。ただし、押上以北の構想実現は、現時点では望み薄です。
東京メトロ有楽町線住吉延伸データ
営業構想事業者 | 東京メトロ |
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整備構想事業者 | 東京メトロ |
路線名 | 未定 |
区間・駅 | 豊洲~枝川~東陽町~千石~住吉 |
距離 | 約5.2km |
想定輸送人員 | 約10.3~10.5万人/日 |
総事業費 | 2690億円 |
費用便益比 | 2.0~2.1 |
累積資金収支 | 25~26年 |
種別 | 第一種鉄道事業 |
種類 | 普通鉄道 |
軌間 | 1067mm |
電化方式 | 1500V |
単線・複線 | 複線 |
開業予定時期 | 未定 |
備考 | 地下高速鉄道整備事業費補助、都市鉄道融資(財政融資資金) |
※総事業費は鉄道事業申請時(2022年)のもの。費用便益比などは『東京圏における今後の地下鉄ネットワークのあり方等について』の参考資料(2021年)による。このときの想定総事業費は1500億円。
東京メトロ有楽町線延伸の今後の見通し
東京メトロ有楽町線の住吉延伸(豊住線)は、2022年1月に東京メトロが鉄道事業許可を申請し、国交省が3月に許可しました。2024年6月16日には東京都が都市計画決定を告示。これを受け、東京メトロは工事に着手しました。
そのため、建設されること自体は確定しています。開業予定時期は2030年代半ばとされています。
住吉以北の亀有、八潮、野田方面への延伸については、現時点では未定です。