JR桜島線は、西九条駅から桜島駅まで4.1kmを結ぶ路線です。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンへのアクセス路線として知られ、「JRゆめ咲線」とも呼ばれます。
これを舞洲を経て夢洲まで約6km延伸する計画があります。北港テクノポート線計画とのかかわりにも触れながら解説します。
JR桜島線延伸の概要
JR桜島線の延伸構想は、桜島駅~舞洲駅~夢洲駅の約6kmです。2014年にまとめられた『夢洲への鉄道アクセスの技術的検討の報告』によりますと、ユニバーサルシティ駅西付近から地下化し、桜島駅を地下化。北西の舞洲へ地下路線で進み、さらに南西へ折れて夢洲に達するというルートです。
桜島駅~夢洲駅間の途中駅は舞洲駅のみです。大阪駅~舞洲駅の所要時間は約22分。概算整備費は1700億円と見積もられました。建設期間は、標準工期で11年、短縮工期で9年と考えられています。
整備主体や開業予定、運転計画などは未定です。JR西日本は、2022年度までの中期経営計画で「夢洲アクセス検討」を掲げ、IR(統合型リゾート)が実現した場合に、整備を検討する姿勢を明らかにしました。
しかし、新型コロナ禍を経て消極姿勢に転換。2025年までの中期経営計画では、桜島線の延伸にかかわる記載はなくなりました。したがって、現時点では、JR桜島線沿線は構想段階にとどまり、実現の見通しは立っていません。
JR桜島線延伸の沿革
オリンピックとUSJ
ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの西にある島を舞洲、その南西にある島を夢洲といいます。これらの人工島をつなぐ鉄道を敷く構想は、1983年に「テクノポート大阪計画」が発表されたころから具体化し始めたようです。
1989年の運輸政策審議会第10号答申では、海浜緑地(コスモスクエア)~北港南(夢洲)~北港北(舞洲)間を結ぶルートが「北港テクノポート線」として、2005年までに整備に着手することが適当な路線とされました。さらに北港北から此花方面が「今後路線整備について検討すべき方向」として盛り込まれました。
1991年に大阪市はオリンピックの招致活動を開始。舞洲が会場予定地、夢洲が選手村予定地とされました。北港テクノポート線はそのアクセス鉄道としての役割が付与されることになります。当初の構想は、桜島線の延伸ではなく、地下鉄中央線を大阪港からコスモスクエアを経て、夢洲、舞洲まで延ばすというものでした。
1998年になり、北港テクノポート線の計画は新桜島までに拡大されます。ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)の誘致が決まったことを受けたもので、新桜島駅はUSJの北側に隣接する位置に予定されました。
オリンピック招致の失敗
新桜島への接続路線として、JR桜島線の延伸が計画されました。桜島線は、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの整備計画にあわせて、1999年に安治川口~桜島間のルートを変更、桜島駅を移設しています。移設された桜島駅は新桜島駅への延伸を考慮した形となり、大阪市はJR西日本に新桜島駅まで約1kmの延伸を要請しています。
ユニバーサル・スタジオ・ジャパンは2001年7月に無事開業したものの、大阪オリンピックの招致は2001年7月のIOC総会で失敗。北港テクノポート線計画は凍結となり、JR桜島線の新桜島駅延伸も立ち消えとなりました。
一方で、京阪中之島線の新桜島駅延伸計画が浮上。玉江橋(現中之島)~西九条~千鳥橋~新桜島間として建設するルートです。2004年の近畿地方交通審議会答申第8号で、「中期的に望まれる鉄道ネットワークを構成する新たな路線」として記載されました。
まとめると、2000年代前半までの大阪北港への計画路線としては、大阪市内からJR桜島線と京阪中之島線を新桜島駅まで建設し、その先は北港テクノポート線が舞洲、夢洲を経てコスモスクエアをつなぐルートとなっていたわけです。
IR誘致
しかし、オリンピック招致失敗の後、大阪湾岸の開発が停滞したこともあり、これら鉄道計画は全く進展しませんでした。状況が変わったのは、2008年に大阪府知事に橋下徹が就任してからです。
大阪府知事就任後、橋下知事は、大阪ワールドトレードセンタービルディング(WTC)の再建問題に絡み、JR桜島駅からニュートラムのトレードセンター前駅まで約4kmの延伸を検討。2009年9月の各社報道によれば、舞洲や夢洲に寄らず、桜島駅からトレードセンターへ海底地下路線で直結するルートが考えられていたようです。
この計画は具体化しませんでしたが、 その後、大阪府市が夢洲に統合型リゾート(IR)の誘致を進めるにあたり、鉄道アクセスとしてJR桜島線の延伸が改めて検討されました。
2014年9月には、IR立地準備会議「夢洲への鉄道アクセスの技術的検討の報告」で、JR桜島線の延伸計画の概要が明らかにされました。桜島駅~舞洲駅~夢洲駅の約6kmのルートで、新桜島駅を経由しません。報告ではこのルートのほか、舞洲へは「京阪中之島延伸案」も検討されました。つまり、JR桜島線で確定した話にはなっていません。
また、2014年1月に公表された大阪府の『公共交通戦略』には「JR桜島線延伸については、まずは、夢洲、咲洲、舞洲地区の開発の具体化を⾒極める」と記されるにとどまり、具体的な方向性を示すに至りませんでした。
中期経営計画記載と削除
2018年4月には、JR西日本が2022年度までの中期経営計画で、「夢洲アクセスの検討」を記載。2018年11月には、2025年大阪万博が夢洲で開かれることが決定し、JR桜島線延伸の機運は高まりました。
ただし、JR西日本の来島達夫社長は、万博開催のみでの延伸はせず、IR誘致決定が路線延伸の前提という姿勢を見せました。
2019年の大阪府『公共交通戦略』改訂版では、「夢洲まちづくりの主体が夢洲の段階的な土地利用の状況に応じた鉄道整備を検討」という記述に変わりました。IRの展開次第で鉄道整備の検討を促す記述になっています。
その後、新型コロナウイルス感染症の流行を経て、JR西日本の経営状況が悪化。桜島線延伸は議論の俎上にのぼらなくなります。2023年4月に発表された2025年度までの中期経営計画では「夢洲アクセスの検討」の記載はなくなり、「万博アクセス」と表現されるのみになっています。夢洲延伸への前向きな表現が消えたように感じられ、実現は見通せなくなりました。
北港テクノポート線計画という視点で見ると、コスモスクエア~夢洲間3.0kmについては、大阪メトロ中央線が建設することが決まっています。しかし、夢洲~舞洲~新桜島間の計画は残されたままで、JR桜島線の延伸によって実現するかは定かではありません。
JR桜島線延伸のデータ
営業構想事業者 | JR西日本 |
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整備構想事業者 | 未定 |
路線名 | 桜島線(ゆめ咲線) |
区間・駅 | 桜島~舞洲~夢洲 |
距離 | 約6km |
想定利用者数 | — |
総事業費 | — |
費用便益比 | — |
累積資金収支黒字転換年 | — |
種別 | 未定 |
種類 | 普通鉄道 |
軌間 | 1,067mm |
電化方式 | 直流1500V |
単線・複線 | 複線 |
開業予定時期 | 未定 |
備考 | — |
JR桜島線延伸の今後の見通し
JR桜島線の舞洲・夢洲延伸は、夢洲IRの実現が決定することが前提でした。2023年4月にIRが正式決定したことで、その前提は充たされました。
しかし、新型コロナ禍による社会情勢の変化や、JR西日本の経営状況の悪化を受け、延伸実現は見通しづらくなりました。夢洲でのまちづくりなどが成功し、多くの利用者が見込まれる状況になり、初めて実現に向け動き出す形となりそうです。
新桜島~舞洲~夢洲の路線計画は、もともとは北港テクノポート線の枠組みとして構想され、地下鉄中央線を大阪港から延伸する形が想定されていました。この案については、梅田から北港への利便性に難があるため、おそらくは採用されないとみられます。
【参考資料アーカイブ】
『夢洲への鉄道アクセスの技術的検討について』(2014年、大阪府)[PDF]