広島電鉄は、広島駅電停から東に迂回をしてから、市の中心部に向かっています。この迂回区間を廃止し、かわりに駅前大橋に短絡線を建設するのが、広島電鉄の「駅前大橋ルート」計画です。
迂回区間の一部を残し、比治山町から的場町を経て市内を循環する路線が「循環ルート」計画です。開業時期は2025年春の予定です。
広島電鉄駅前大橋ルートの概要
広島電鉄駅前大橋ルートは、広島電鉄の広島駅電停が駅ビルのアトリウム内に入り、そこから高架線で駅前大橋を経て、神谷町方面に繋がる新路線です。
広島駅から稲荷町交差点を経て比治山町交差点までが、駅前大橋ルートの新線区間です。
新線開業後は、広島駅~駅前大橋線~稲荷町~紙屋町方面が「本線」になります。また、稲荷町~比治山下が「比治山線」(皆実線)となります。稲荷町~的場町~比治山下は「循環線」に組み込まれます。広島駅~猿猴橋町~的場町間は廃止となります。
広島駅電停が駅ビル内に移設されることで、広島駅でのJRから広島電鉄への乗り換え時間は、約2.1分から約1.3分に短縮されます。
広島電鉄の乗降場には4線が配置され、これまで乗車2カ所、降車4カ所だったのが、乗降とも4カ所になります。広島駅に乗り入れる市内線は4系統ですので、乗降場は各系統別に運用される予定です。
駅前大橋線の開通により、広島駅から八丁堀地区、紙屋町地区への距離が約200m、所要時間が約4分短縮されます。
循環ルートは、的場町から紙屋町、市役所前、皆実町六丁目、段原一丁目を経て的場町に戻る路線です。循環ルートの運行頻度については「地域の利便性が確保できる便数」という曖昧な表現になっています。開業時期は2025年春です。
事業費と費用便益比
広島電鉄駅前ルートの事業費は109億円。うちインフラ部が約83億円で、国と自治体が負担します。インフラ外部が約26億円で、国と自治体が1/6ずつ、事業者(広島電鉄)が2/3を負担します。国負担分は、社会資本整備総合交付金により交付します。
費用便益比は2020年度調査で1.7。社会資本整備総合交付金により手厚い補助を受けることもあって、社会累積資金収支は1年で黒字転換する見通しです。
広島電鉄駅前大橋ルートの沿革
広島電鉄の路面電車は、広島駅から東へ迂回して市街地に向かっているという難点がありました。これを解消しようという考えは、路面電車利用者が減り始めた1960年代から存在していたようです。
具体的な動きになったのは、2000年の広島市『新たな公共交通体系づくりの基本計画について』で駅前大橋線が盛り込まれてからです。2002年には、中国地方交通審議会『広島県における公共交通機関の維持整備に関する計画について』で駅前大橋線が新規路線案として盛り込まれました。2004年12月に、広島市に路面電車の機能強化策を探る検討委員会が設置され、本格的な協議が始まりました。
2010年6月、広島電鉄の社長に国交省出身の越智秀信氏が就任すると、「駅前大橋線」の2016ー17年の運行開始を目指す考えを明らかにします。これを受け、2010年8月に、広島市は「広島駅南口広場再整備に係る基本方針検討委員会」を設置しています。
検討委員会では、広島駅乗り入れ方法について、平面、高架、地下が検討されました。広島市とJR側は広島駅建て替えを含めた高架案を支持し、広島電鉄側は地下案を推しました。ただ、地下案を推していたのは、広島電鉄内では越智社長一人のみだったようです。
危機感を抱いた他の役員が結束して、2013年1月に取締役会で越智社長を解任。新社長に就任した椋田昌夫氏により、広電も高架案に転じ、同年6月に、高架案の採用が決まりました。
当初の計画では、駅前大橋ルートの開業により、東に迂回する区間は廃止される予定でした。しかし、沿線町内会から的場町、段原一丁目電停の存続等を求める要望書が出されます。循環ルートの提案もこのときに出されました。これについて、広島市と広電は受け入れる姿勢を示し、迂回区間の多くが存続することになりました。
最終的に、広島市は、2014年9月2日に「広島駅南口広場の再整備等に係る基本方針」を決定。本線が稲荷町電停から駅前大橋を通るルートに変更となり、駅前大橋で高架に上がり広島駅ビルに乗り入れることが決まりました。
2019年度に軌道法特許取得、都市計画決定となり、2020年度に着工しました。
広島電鉄駅前大橋ルートのデータ
営業構想事業者 | 広島電鉄 |
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整備構想事業者 | 広島電鉄・広島市 |
路線名 | 本線・比治山線 |
区間・駅 | 広島駅~稲荷町~比治山下 停留場1カ所新設、2カ所変更、1カ所廃止 |
距離 | 1.1km |
想定利用者数 | 約32,000人/日(広島駅電停) |
総事業費 | 約109億円 |
費用便益比 | 1.7 |
累積資金収支黒字転換年 | 1年 |
種別 | 軌道事業 |
種類 | 軌道 |
軌間 | 1,435mm |
電化方式 | 直流600V |
単線・複線 | 複線 |
開業予定時期 | 2025年春 |
備考 | 社会資本整備総合交付金 |
※データは主に広島電鉄株式会社からの軌道事業の特許申請(軌道延伸)の審議資料(2019)より
広島電鉄駅前大橋ルートの今後の見通し
広島電鉄駅前大橋ルートは、すでに整備着手済みの事業です。駅ビルに乗り入れる高架路線のため、工事には多少の時間はかかるものの、完成するのは確実となりました。駅前大橋ルートの開業にあわせて、循環ルートも整備されます。
開業時期は、当初は「平成30年代半ば」とされていましたが、特許申請時に「2025年春」とはっきりした時期が明示されました。
【参考資料アーカイブ】
『広島電鉄株式会社からの軌道事業の特許申請』(国土交通省)[PDF]