不通がつづいている米坂線が、鉄道復旧へ向け動き出しました。自治体との検討会で、JR東日本が鉄道による復旧の検討を明言しました。
2022年8月に被災
JR米坂線は、米沢~坂町間90.7kmを結ぶローカル線です。2022年8月の大雨で鉄橋が崩落するなど112箇所で被害があり、今泉~坂町間67.7kmで不通が続いています。
JR東日本は復旧費用を約86億円、工期を5年と見積もっています。2023年4月には、JR新潟支社長が「(JRが)単独で復旧することは、非常に判断のしづらい額」「復旧のみを議論の対象とするだけでなく、さまざまな可能性が検討されるべき」などと述べ、バス転換も視野に入れていることを示唆しました。
米坂線復旧検討会議
これに対し、自治体は鉄道での復旧を要求。課題を話し合うため、沿線自治体とJR東日本は「米坂線復旧検討会議」を設け、2023年9月8日にその初会合を開催しました。
会合には、山形県、新潟県、沿線7市町村のほか、オブザーバーとして国土交通省が出席。被災後、沿線全自治体とJRの関係者が一堂に会するのは初めてです。
会合は冒頭を除き非公開でしたが、終了後に担当者が取材に応じました。
JR東日本の担当者は、「復旧ではない選択肢を考えるのではなく、まずは鉄道での復旧に向けて全力で検討してまいりたい」と明言。一方で、「多額の復旧工事費の負担と、利用状況が厳しいという問題意識を持っている」と述べ、費用負担で自治体の支援を求める姿勢も示しました。
災害復旧補助制度
前述したように、米坂線の復旧費用は約86億円と見積もられています。そのうち山形県内分は55億円で、崩落した小白川橋梁の新設費用が16億円を占めます。一方、新潟県内分が31億円です。
鉄道軌道整備法に基づく災害復旧補助制度では、国と地方自治体が4分の1ずつ、鉄道事業者が2分の1を負担します。
試算を当てはめると、国と地方が21.5億円ずつ、JR東が43億円の負担になります。さらに、被害状況に応じて地方負担分を算出した場合、山形県側は約13.75億円、新潟県側は約7.75億円の負担となります。
補助率かさ上げの特例
災害復旧補助制度では、国土交通大臣が特に必要と認める場合には、国の補助割合を3分の1に引き上げることが可能です。要件としては、「災害を受けた鉄道の地域の交通手段の状況」や「事業構造の変更による経営改善の見通し」などが示されています。
JR東日本は、会議の席上、只見線がこの特例を受けて復旧したことを紹介しました。米坂線においても適用できるよう、自治体に要請したようです。
只見線のスキーム
災害復旧補助制度を適用するには、「10年以上の長期的な運行の確保に関する計画」を添付しなければなりません。言い換えれば、10年以上の存続を保証するスキームが必要になります。
只見線の復旧スキームでは、JR東日本が線路や駅などの鉄道施設を復旧させ、復旧後に、福島県に無償譲渡しました。鉄道施設の維持管理は、福島県がJRに委託しています。年間の維持管理費は約2億円で、その7割を県が負担し、沿線自治体が3割を負担しています。
つまり、鉄道施設は公有となり、その維持のため年間2億円を地元自治体が負担し続けていくわけです。
同様のスキームにするのならば、復旧後の米坂線にかかる年数億円の維持管理費を、沿線自治体が負担し続けることになります。
民営化から7、8割減
しかし、米坂線の利用状況は芳しくありません。コロナ前の2018年度の輸送密度は、今泉~小国間が274、小国~坂町間が180です。
国鉄が民営化された1987年は、それぞれ833、864だったので、7~8割減にまで落ち込んでいます。
これだけ利用状況の悪い路線に対し、多額の税金を投じて復旧させ、さらに維持管理に税金を拠出し続けることに関しては、議論のあるところでしょう。
今後の焦点
今後の焦点は、復旧費用の負担割合もさることながら、運行再開後の費用負担に自治体が応じるか、応じない場合にJRがどう判断するか、という点になりそうです。
JRの担当者は「民間会社だけに負担を押しつけるというのは持続可能ではないといった意見をいただいた」とも述べ、運行再開後の支援へ期待をにじませています。
前向きな議論を
復旧が危ぶまれた米坂線が、とにもかくにも復旧へ向け動き出したことは何よりです。担当者の発言を聞く限り、JR東日本として、少なくとも復旧費用の3分の1にあたる約29億円の負担に関しては、容認するようです。
ただ、運行再開後の赤字に対する負担についての話し合いはこれからのようす。前向きな議論になることを願いたいところです。(鎌倉淳)