和歌山市と南海電鉄が、和歌山市内へのBRT導入に向けて共同研究を行います。和歌山マリーナシティへのIR誘致を念頭に置いたものです。
運行形態など研究
南海電気鉄道と和歌山市は、同市内へのBRT(バス高速輸送システム)導入に向け共同研究をすることで合意しました。研究会を立ち上げて、具体的な運行形態や既存交通網への影響などを検証します。
背景として、和歌山県が和歌山マリーナシティへの誘致を目指している統合型リゾート(IR)があります。IRが実現した場合に、多数の来訪者を輸送できる態勢を整える必要があり、BRTがその役割の一部を担うという構想です。
試走ルートとして、JR和歌山駅(和駅)、南海和歌山市駅(市駅)と和歌山マリーナシティを結ぶ路線が検討されています。和歌山市の玄関口である両駅と、市中心部、マリーナシティをつなぎます。下の地図で「ポルトヨーロッパ」とアイコンがあるのがマリーナシティです。
この区間は、現在、南海系列の和歌山バスが、毎時各1本程度で路線バスを運行しています。和駅発着が121/122系統、市駅発着が117系統です。所要時間は、和駅・市駅~マリーナシティ間が、それぞれ40~50分程度です。
これをそのままBRTに置き換えるわけではなく、両路線をベースにして、停車するバス停を減らした形になるのでしょう。その場合、信号制御などを行って、どれだけ時間短縮できるかが、一つのポイントになりそうです。
和歌山軌道線以来の基幹ルート
さかのぼれば、このルートは、1909年に開業し1971年に廃止された和歌山軌道線という路面電車の路線とも多くが重なります。和歌山軌道線は、市駅~海南駅と、和駅~公園前、和歌浦~新和歌浦間の3路線がありました。
市駅への路線は本町通りを経由していましたし、当時マリーナシティはありませんでしたので、現在の117系統とは経路が違います。ただ、市の中心部を東西を貫くけやき大通りと、南北に貫く中央通りを走る点では同じです。
BRTもこのルートを継承しそうです。要するに、伝統的な和歌山の基幹ルートに、BRTを走らせよう、という構想です。
2015年度に研究
実は、和歌山市では、この基幹ルートにLRTを走らせる研究を行ったことがあります。いわば路面電車の復活を模索する研究です。
これは、和歌山市の「夢のある政策研究」というプロジェクトのひとつで、2015年度に行われました。研究タイトルは「『まちのシンボル』次世代交通の導入」です。
この研究では、「和駅から西汀丁交差点を経て市駅方面へとつなぐルート」(2.7km)が、もっとも採算性で優れているとされ、「課題はあるが可能性のある結果」となっています。
さらに、西汀丁から中央通りを南下して掘止に至るルートも検討され、「一定の需要が見込めるが、3系統となるため運行経費が高くなる」という結論になっています。
いずれにしろ、和駅と市駅をけやき通りで東西につないだ上で、中央通りを南下する路線を延ばすという、和歌山市内の伝統的基幹ルートが、LRTを敷く場合でも有力という研究結果でした。
ただ、LRTで専用軌道を敷くとなると、道路の車線を減らすことになります。基幹ルートの多くは6車線ですが、けやき大通りの和歌山城の北にあたる区間は道路幅が狭く、拡幅するにも城の堀とビルに挟まれて難しくなっています。
市の中心部であることから、ここに軌道を敷くと道路交通のネックになってしまいます。採算面でも厳しく、和歌山市内でLRTを走らせるのは簡単ではなさそうです。
BRTの課題
同研究では、LRTではなく、連節バスを投入するBRTに関する考察も付け加え、「軌道を敷設する必要がなく、柔軟な対応ができる」「比較的安価な費用で事業が実施でき、採算性が確保される可能性も高くなる」とメリットを挙げています。
一方で、BRTについて、「あくまでバスであることから、それだけの投資をする必要性 (大量輸送の必要性)があるのかどうかが問われやすい」と指摘しました。BRTで連節バスを導入しなければならないほどの需要が、和歌山市内のバス路線にあるのか、ということです。
そのうえで、以下のような課題を挙げました。
・BRT連節バスは外車であるため、海外からの取寄せ(1台当たり約7,000万円)が必要
・BRT連節バスは特殊車両となるため、専用の整備工場(1億5,000万円)が必要
・一般の路線バスとのすみわけ(役割分担)が必要
・定時性を確保をするため、専用レーンが必要
結論として「全体のバスネットワーク構築の中でBRT(連節バス)を検討することが必要となる」とまとめています。
実現性はあるか
今回の南海電鉄と和歌山市の共同研究は、南海からの申し入れということで、必ずしも2015年度の研究成果を前提としたものではないようです。ただ、これまでの研究が活かされることにはなるでしょうし、上記の課題も検討されるに違いありません。
試走は2020年度中にも予定されていて、南海バスが関西空港内で運行している連節バス(100人乗り)を使用し、既存の交通網への影響などを調べます。上記研究の結論である「全体のバスネットワーク構築の中での検討」を、まさに行うことになります。
実際のところ、マリーナシティへのIR誘致が成功するかは定かでありませんので、それを前提にしたBRT路線が実現する可能性は高いとはいえません。
仮にIR誘致に成功したとして、マリーナシティは海南駅や紀三井寺駅からのほうが近いので、公共交通は両駅からのアクセスに重点を置いた方がいい気もします。ですので、この共同研究にどれだけの現実的意味があるかもわかりません。
それでも、和歌山市内に次世代交通を導入することは、同市の長年の課題でもあり、IRを機に、交通事業者を交えた議論が進むのであれば、意味はあるでしょう。尾花正啓市長は「観光振興にもつながるなど、市全体の活性化に大きなメリットがある」と述べており、IR誘致の成否にかかわらず、進展を期待したいところです。(鎌倉淳)