上野で注目の洋画展が同時開催されています。フェルメール展、ルーベンス展、ムンク展です。それぞれ特徴ある3展に行ってみました。
上野公園に世界の名画が集結
フェルメール展が開催されているのは上野の森美術館。ルーベンス展は国立西洋美術館。ムンク展は東京都立美術館です。いずれの美術館も上野公園に位置し、JR上野駅公園口から徒歩5~7分ほどの圏内に固まっています。
フェルメール展は2018年10月5日~2019年2月3日。ルーベンス展は10月16日~1月20日、ムンク展は10月27日~1月20日。小さなエリアに、世界の名画がほぼ同時期に集結したわけです。
筆者は11月の平日に、2日間にわけて3つの展覧会を見てきました。
ルーベンス展
最初が国立西洋美術館のルーベンス展。17世紀ヨーロッパを代表する画家の一人、ピーテル・パウル・ルーベンスの作品を集めています。
「ルーベンス展—バロックの誕生」というタイトルが打たれていて、ルーベンスとイタリアとのかかわりに焦点を当てた展示が特徴です。現在のベルギー生まれのルーベンスですが、1600年から8年間、断続的にイタリアで生活していました。そこでイタリア芸術の影響を受けたそうです。
展示はルーベンスの作品と、彼が影響を受けたイタリア芸術家の作品が並行的に紹介されていきます。展示されている70作品のうち、ルーベンスのものは半分ちょっとでしょうか。全体としては宗教画が多く、重厚な印象です。
フェルメール展
次に行ったのが上野の森美術館の「フェルメール展」。17世紀オランダ絵画の巨匠、ヨハネス・フェルメールの作品を集めています。
フェルメールは寡作の画家として知られ、現存する作品は全世界でわずか35点しか確認できていないそうです。今回はそのうち9点までが東京で展示され「日本美術展史上最大のフェルメール展」と銘打たれています。
会場に入ると、最初はフェルメールと同時代の画家として、ブリエル・メツー、ピーテル・デ・ホーホ、ヤン・ステーンらの作品が40点ほど並びます。フェルメールはどこにあるの? と心配になりますが、最後の部屋にまとめてあります。
世界中に散らばっているフェルメールの作品を9作品(展示入れ替えがあり現在は8作品)、一つの部屋に集めたのです。フェルメール本人だって、この様子は見たことがなかっただろう、というくらいの力の入った展示です。
そのなかで目を引くのが、『牛乳を注ぐ女』。今回の展示の目玉です。印象的な構図の傑作で、私のような素人でも見てほれぼれしてしまいます。
ムンク展
最後が東京都立美術館の「ムンク展―共鳴する魂の叫び」。19世紀から20世紀のノルウェーの画家・エドヴァルド・ムンクの作品を集めています。
こちらは「100%ムンク作品の展覧会」と銘打っており、ムンクの作品だけを約100点集めています。オスロ市立ムンク美術館のコレクションがほとんどで、オスロの美術館の一部がまるごと日本にやって来たような雰囲気です。
ムンクの代表作といえば『叫び』。『叫び』は複数枚が描かれていますが、今回展示されているのは、テンペラ・油彩画のもの。この『叫び』は、今回が初来日だそうです。
一人の作家の作品を、年代やテーマにより系統立てて展示しているので、見ていて理解しやすい展覧会になっています。
ルーベンス、フェルメールといった16~17世紀の作品を見た後にムンクを見たので、封建的環境を脱した自由な芸術的世界を感じました。一方で、戦争の多かった近代の雰囲気も伝わってきます。
見応えがあったのは?
3つの展覧会を2日間かけて見学しましたが、個人的な感想をいえば、一番見応えがあったのはムンク展でしょうか。
日本で開催される洋画の特別展で、100点も同じ作家の作品が集まるというのはなかなかありませんし、それだけに見応えがありました。
「見る価値があった」と満足したのは、フェルメール展でしょうか。『牛乳を注ぐ女』は見る者を吸い込むような傑作で、これを一つ見られただけで、足を運んだ価値があったと納得してしまいます。フェルメール以外の作品が「前座」のような扱いで展示されていたのは、ちょっと気になりましたが。
ルーベンス展は、「イタリア芸術との関わり」を切り口にしていました。ルーベンスが参考にした古代美術なども展示されていて、企画力と構成力に優れていた印象です。ただ、テーマを絞った分、見応えという点では一歩譲る気がしました。
平日でも混雑
ということで、私の個人的な主観ですが、一番のおすすめはムンク展です。ただ、ムンクは日本人に人気があるのか、会場はきわめて混雑していました。平日の午前中に行ったのですが、チケット売り場からして行列です。
内部も大混雑していて、正直なところ、落ち着いて絵画を鑑賞するような状況ではありませんでした。係員に尋ねると、平日でも入場制限がかかることがあるくらい混んでいるそうです。週末は入場制限がかかりっぱなしなので、お出かけの場合はお早めに。
日時指定入場制に注意
次におすすめは、『牛乳を注ぐ女』が圧倒的存在感を放つフェルメール展でしょうか。フェルメール展は、日時指定入場制を採用しており、チケットに指定された日時以外は入場できません。
面倒くさいシステムですが、その時間帯が売り切れていなければ、当日、窓口でも時間指定チケットを買えます。
下の写真は平日14時半頃に会場を訪れたときのもので、15時から入れるチケットを購入可能でした。このように、いまのところ、平日ならば当日、ふらりと訪れても大丈夫そうです。
ただ、購入してから入場できるまで小一時間かかることもありそうなので、できれば事前にチケットを買っておいたほうがいいでしょう。
当日購入の場合は、上野に着いたら先にフェルメール展のチケットを押さえて、ムンク展やルーベンス展へ行って時間を使うか、パンダでも見ていればいいでしょう。
日時指定入場制を取っているとはいえ、会場があまり広くないこともあり、フェルメール展も大混雑です。筆者の感想としては、ムンク展より少しマシ、という程度でした。
フェルメール展の価値
ムンク展もフェルメール展も、どちらも素晴らしい特別展ですが、旅行者的な視点でみれば、フェルメール展のほうが貴重かもしれません。
というのも、ムンクはオスロのムンク美術館に行けば、今回展示されたものを含むたくさんのムンク作品を見ることができます。
しかし、フェルメール展で展示されている作品は、アムステルダムやドレスデン、ロンドン、ニューヨーク、ワシントンなどに散在しており、再び全部見ようと思うと大変な手間になります。したがって、フェルメール展のほうが、いま東京で見る価値がある、といえるかもしれません。
ルーベンス展にはやや余裕
3つの展覧会で、もっともゆったりと見られたのは、ルーベンス展です。もちろん見学客は多かったのですが、国立西洋美術館だけあって、会場スペースが広く余裕があります。また、特別展のチケットで常設展も見られるので、ゆっくりと時間を過ごせます。
ちなみに、ルーベンス展の主催はTBS、朝日新聞社で、音声ガイドが長澤まさみ。ムンク展の主催は朝日新聞社、テレビ朝日、BS朝日で、音声ガイドが福山潤と宇賀なつみ。フェルメール展の主催は産経新聞社、フジテレビジョン、博報堂DYメディアパートナーズで、音声ガイドが石原さとみです。音声ガイドを聞き比べながら回るのも一興です。
ヨーロッパ美術館めぐり気分
3つを全部見て回るなら、少なくとも1日がかりです。混雑しているので疲れますが、見ているうちに、ヨーロッパの美術館めぐりをしているような気分になってきます。
東京でプチ・ヨーロッパ旅行気分を味わえるわけで、旅好きにはそれも魅力。芸術の秋、上野を訪れてみてはいかがでしょうか。(鎌倉淳)