つくばエクスプレスの東京駅延伸が、新たな局面を迎えるかも知れません。高市内閣の「日本成長戦略」の原案に、AX関連のインフラとして、鉄道整備が盛り込まれたためです。成長戦略で示された投資目標の総額は200兆円と膨大で、これを使えるのであれば、延伸実現への後押しになるかもしれません。
期成同盟会が決議
つくばエクスプレス(TX)の東京駅延伸計画は、秋葉原~東京間の約2kmを建設するものです。計画中の都心部・臨海地域地下鉄に乗り入れて、有明・東京ビックサイトまで直通運転する構想もあります。
東京駅までの延伸計画はTX開業当初からありますが、現在まで実現していません。そこで、TX沿線自治体は東京駅延伸へ向けた期成同盟会を結成し、2026年4月6日に、東京駅延伸と、臨海地下鉄への接続を求めるよう決議しました。
このときの決議文では、①国の成長戦略への位置づけ、②財政支援を含めた国による新たなスキームの策定、③沿線全自治体の連携強化と合意形成への働きかけ、の3項目を求めました。

原案を公表
このうち、①の「日本成長戦略」の原案が、2026年6月30日に公表されました。それによりますと、鉄道に関する記述は、AX(AI Transformation、エーアイ・トランスフォーメーション)関連に盛り込まれていました。
「AX実現に向けたデジタル産業基盤の確保などグローバル立地競争力の強化」という項目で、「産業クラスター形成などのため、産業立地に必要な工業用水、道路、鉄道、港湾
施設等の整備・機能強化に加え、(中略)産業を支える人材を集め、その活動・交流や生活を支えるまちづくりを推進する」とされました。
鉄道に絞って文意を読み解くと、「先端分野の産業立地に必要な鉄道の整備をおこない、そこで働く人たちの生活を支えるまちづくりをする」ということになります。

AI研究拠点が集中
期成同盟会は、国の成長戦略への位置づけを求める理由として、TXと臨海地下鉄の沿線に、AI関連の研究開発拠点が集中していることを挙げていました。
茨城新聞クロスアイ(2026年4月26日付)によれば、「両線を一体的に整備すれば投資促進や国際人材の呼び込みに資する」として、期成同盟会が閣僚へ要望したそうです。
つまり、「AI関連企業の投資促進や人材獲得に、TX東京駅延伸と臨海地下鉄直通は重要」という理屈で、成長戦略に盛り込むことを求めたわけです。
その回答として、成長戦略に記載されたのが、先ほど引用した「鉄道(中略)整備」という文面ということになります。
どれほどの意味があるのか
このわずかな記載が、どれほどの意味があるのかは、定かではありません。
会議資料を見てみると、「産業立地に必要な工業用水、道路、鉄道、港湾施設等の整備・機能強化」という文面は、地域未来戦略の「戦略産業クラスター計画」における「道路、工業用水、鉄道など必要なインフラ整備」という表記が基になっているようです。
この戦略産業クラスター計画の文面は、 熊本県菊陽町のTSMCや北海道千歳市のラピダスを支えるクラスターを念頭に置いているようですので、豊肥線や千歳線の輸送力強化につながるものです。つまり、特段にTXのために作られた文面ではないようです。
邪推すれば、豊肥線や千歳線向けに新たな補助の枠組みができることを見越して、それをTX延伸にも適用したいと、沿線自治体が考えたのかも知れません。その理由付けとして、沿線にAI関連企業が多いことを掲げたというわけです。
したがって、成長戦略の「鉄道」の記載が、TXにどれほどの意味があるのかは、正直、筆者にはわかりかねます。ただ、沿線が鉄道延伸を求める理由にAIを掲げて運動し、成長戦略に合致するような記載がなされたのは事実なので、一定の成果があったとはいえるでしょう。
膨大な投資額
じつは、今回の成長戦略全体で「鉄道」関連の記載はこれだけです。
石破内閣時の戦略(新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画)に記載されていた、リニアも整備新幹線も幹線鉄道ネットワークもローカル線の再構築も、すべて外されています。
いっぽうで、成長戦略に記された投資目標は膨大です。AX関連を含む「8つの分野横断的課題の解決」として記された投資目標は、2030年度135兆円、2040年度200兆円にのぼります。
国内の新幹線基本計画路線を全部作ってもお釣りが来そうな投資額ですので、このごく一部がTXに回されるだけで、東京駅延伸は実現できてしまうかもしれません。
骨太2026にも
国家成長戦略の原案が発表された同日に、「経済財政運営と改革の基本方針2026」(骨太の方針2026)の原案も公表されました。
骨太2026では、「都市鉄道」が「成長投資を支える基盤」に位置づけられました。これも、つくばエクスプレス沿線選出議員が、記載を求めていたものです。
さらに、骨太2026には、「国際空港アクセス鉄道」の整備も盛り込まれています。TXが臨海地下鉄に乗り入れた場合、国際展示場駅でりんかい線に接続します。りんかい線は羽田空港アクセス線の臨海部ルートとして、羽田空港まで乗り入れる予定です。
すなわち、「国際空港アクセス鉄道」の記載も、TX東京駅延伸の後押しとなるわけです。
確保されたものではない
いうまでもありませんが、成長戦略や骨太の方針に記載されたからといって、ただちに実現するわけではありません。「200兆円」についても、日本全体への投資目標の総額であって、TX延伸に対して確保されたものではありません。
本当に実現させるには、成長戦略に沿う形で事業に落とし込むためのスキームが重要になりますが、現時点では、沿線自治体間での協議すら始まっていません。
困難の裏返し
さらにいえば、沿線の自治体や政治家が、TX延伸に関し、成長戦略や骨太の方針への記載を求めてきたのは、事業の実現が難しいことの裏返しにもみえます。
既存の枠組みでは実現困難なため、「国策」に位置づけてもらい、新たな枠組みを求めざるを得ない、ということでしょう。
そうして考えてみると、成長戦略への記載は、スタートラインから半歩踏み出した程度の話にも思えます。調査予算を要求する際の理由付けにはなるでしょうが、TX東京駅延伸が事業化に向け動き出すかといえば、なんとも言えません。(鎌倉淳)






















