山形新幹線の福島・米沢間の新トンネルについて、山形県は200km/h以上で走行するフル規格で整備する方針を示しました。気になるのは、その場合の普通列車の扱いです。
全長23km
山形新幹線の新トンネルは、奥羽本線庭坂~関根間の板谷峠に約23kmの長さで掘る構想です。JR東日本が2015年に基礎的な調査を開始し、2017年11月に山形県に調査結果の概要を説明しています。
山形県は、この「新板谷峠トンネル」の調査費用として2000万円を2021年9月補正予算に計上。JRと共同で、トンネル整備を想定する地域において、地権者の調査などをおこなうと発表しました。
10月20日に記者会見した山形県みらい企画創造部長によりますと、新トンネルは「少なくとも時速200キロのハイスピードで安定的な走行ができる」ことを目指します。200km/hは「新幹線」と定義される速度で、新幹線規格のトンネルとして整備する方針を明確にしました。
事実上の「奥羽新幹線」
当初のJR東日本の調査で、「新板谷峠トンネル」の事業費は約1620億円かかると想定されました。しかし、山形県では、その後の検討で1500億円程度に圧縮できるとの見通しを示しました。
示された資料では、新トンネルのカーブは曲線半径を4000mとしており、200km/hどころか300km/h運転すら可能にみえます。山形県は、従来から新板谷峠トンネルをフル規格新幹線の一里塚と位置づけており、事実上「奥羽新幹線」の一部として建設される方針が明確になったといえそうです。
トンネル建設には着工から15年ほどかかる見通し。調査期間を含めると、完成は早くても20年後で、2040年代前半になりそうです。実現すれば、山形新幹線の所要時間が十数分短縮します。
途中駅はどうなる?
新板谷峠トンネルは、地元自治体の山形県とJRがともに前向きなので、実現可能性は高いでしょう。
気になるのが、在来線途中駅の取扱いです。庭坂~関根間にある板谷、峠、大沢の各駅の扱いは明確にされていません。
これらの駅の利用者数は、2004年のデータで板谷駅が年間5,800人、峠駅が3,700人、大沢駅が1,100人です(『山形県の鉄道輸送』令和2年度版より、2005年以降の無人駅データはなし)。1日あたりでは、数人~十数人の水準です。最新の数字ではもっと少ないとみられ、この利用者数であればバス代替は可能で、廃止になる可能性が高そうです。
笹木野、庭坂、関根の各駅については、新トンネル開業でも直接の影響を受けないので、在来線の普通列車が運行するのであれば、存続するとみられます。新トンネルは整備新幹線として作られるわけではないので、奥羽線福島~米沢間は在来線扱いのままです。
普通列車は運転されるのか
普通列車の運行形態をどうするかは、現時点ではわかりません。全体の列車本数が少ないので、新幹線列車の後に在来線普通列車を続行運転させれば、両立は可能でしょう。
ただ、可能かどうかと実際に運転するかは別の話で、たとえば石勝線の新夕張~新得間のように、在来線扱いながら普通列車が走らないという判断もあり得ます。
とはいえ、福島~庭坂間の普通列車廃止方針を示せば福島県が反対するので、トンネル実現が政治的に難しくなります。そのため、庭坂までの普通列車は残るでしょう。
福島~米沢間全体がフル規格の奥羽新幹線に格上げされれば、福島~米沢間の在来線駅は全廃になる可能性もあります。ただ、それについては、実現するとしても、かなり遠い未来の話で、いま議論するのは早すぎます。(鎌倉淳)