茨城県境町へ、自動運転バスと高速バスに乗りに行く。小さな町の交通革命

バスファンに注目

茨城県境町は、いま、バスファンに最も注目されている自治体のひとつでしょう。日本の自治体として初めて自動運転バスを町内に導入。東京駅~境町間の高速バスも誘致し、圏央道の延伸を契機として開業にこぎ着けました。

11月上旬の平日に、自動運転バスと高速バスに乗りに行ってきました。

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境町~東京駅線

茨城県境町は利根川と江戸川が分流する地点に位置し、古くから舟運で栄えました。そのためか鉄道に縁がなく、最寄駅は町中心部から10km以上離れた古河駅か、東武動物公園駅となっています。両駅へは路線バスがあるものの、鉄道アクセスがいいとはいえません。東京都心から直線距離で50kmに満たないのに、公共交通では行きにくい町でした。

交通事情の改善をもたらしたのが、圏央道の開通です。2017年に境古河インターが開設されたのを受け、境町が高速バスを誘致。2021年7月1日に高速バス「境町~東京駅線」が開設されました。境古河インター近くの境町高速バスターミナルと東京駅八重洲南口を直結する新路線で、1日8往復が設定されています。

まずは、このバスで境町へ行ってみます。筆者が乗ったのは東京駅10時50分発。関東鉄道バスの担当で、三菱ふそうのエアロエースです。

高速バス境町東京駅線

乗客は筆者を含めて3人のみ。先行きが心配になる数ですが、平日午前の下り便なので、こんなものかも知れません。宝町インターから首都高速に入り、東北道・圏央道とも渋滞はなく、快調に進みます。

11時57分、境町高速バスターミナル着。定刻の12時10分より、13分も早着です。東京駅を出て1時間余しか経っておらず、まったく疲れません。

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境町バスターミナル

境町高速バスターミナルは、この路線の開設にあわせて新設されました。圏央道境古河インターから1kmほど。「広い駐車場を備えたバスターミナル」というより、「広い駐車場の片隅にバス停が置かれている」と表現したほうがよさそうな場所です。

境町高速バスターミナル

バス停は二つあり、一つが東京駅行きの高速バス。もう一つが、自動運転バスの停留所です。つまり、このバスターミナルは、東京駅から来た高速バスと、境町中心部へ向かう自動運転バスの結節点になっているわけです。

両路線は接続していて、時刻表上、私の乗ってきたバスは12時10分に境町バスターミナル着。自動運転バスは12時15分発です。

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道路工事で代車

境町の自動運転バスは2020年11月に運行を始めました。国内の自治体として初めての定期運行です。ソフトバンク子会社のボードリーと組み、フランス・ナビヤ製の自動運転バス「ナビヤ アルマ」を3台投入して、町内2路線で運行しています。

しかし、バスターミナルに停車していたのは、トヨタ・ハイエース。自動運転バスではありません。近づくと「代行車」と書かれています。聞けば「道路工事があるので、自動運転バスが走れず代車になっている」とのこと。乗客は筆者一人です。

境町バス代行車

ハイエースの代行車は定刻12時15分に出発。すぐに隣の停留所に到着し、時間調整。自動運転バスのダイヤは余裕を以て組まれているので、手動運転のハイエースでは時間が余るようです。

4つめの「かごや」というバス停で、自動運転バスが駐車場に待機していて、乗り換えます。ここからが自動運転バスの旅です。

さかいアルマ

自動運転バス

自動運転バスは「さかいアルマ」という愛称が付けられています。ハイエースと大差ないサイズで定員は11名。オペレーターが一人乗るので、乗客定員は10人だそうです。といっても乗客は他におらず、筆者だけを乗せて出発します。目的地は、道の駅さかいです。

さかいアルマ路線図
画像:境町役場ホームページ

自動運転バスは電気自動車なので、ガソリンカーのハイエースとうってかわって静かな走り出し。最高速度は20km/hで、ゆっくり進みます。道路のカーブなどは操作なしで自動で進みますが、駐車車両がいると自力では避けられず、停止してしまいます。それをオペレーターが操作して、よけて進みます。

「路上駐車がなければ、もっとスムーズに進むのですけれど」と、オペレーターがぼやきます。

信号も自動停止ではなく、手動で停止し、出発します。信号機と交信する設備が整えば、自動での発着も可能だそうですが、現状は手動運転です。

ひとつひとつ停留所に停まり、ドアを開閉します。乗降はないので通過してもよさそうですし、停まってもドアの開閉は不要に思えます。それを尋ねると、停車と開閉のデータを送信しているとのこと。停車中に、後ろにいるクルマを追い越させる配慮もあるようです。

バス路線は、やや鄙びた中心市街地のメインストリートを貫くように設定されています。人通りはほとんどなく、ときおり駐車車両がバスの行く手を遮っているだけです。

さかいアルマ

メインストリートの南端に、河岸の駅さかいという路線バスのターミナルがあり、立ち寄ります。しかし、ここでも乗降はありません。結局、最後まで、乗客は筆者一人でした。

定刻12時48分、終点道の駅さかい着。カラーコーンの簡易バス停です。

道の駅さかい

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道の駅さかい

道の駅さかいは、これまでの中心市街地の閑散ぷりがウソのように賑やかです。隣接してホームセンターや大型スーパーがあり、この辺に来ればだいたいのものは揃う、という場所のようでした。

自動運転バスは、ここを起点に「高速バスターミナル」行きと「シンパシーホール行き」の2路線を展開しています。道の駅はロードサイドの商業中心地であり、交通の要衝にもなっているようです。

道の駅さかい

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車両の調子が悪く

道の駅で昼食を摂り、1時間待って、14時10分発のシンパシーホール行きの自動運転バスに乗ります。

さかいアルマ路線図
画像:境町ホームページ

今回は、他の自治体の視察グループが乗っていて、さらに近隣から訪れたカップルの試し乗りまでおり、10席が満席で発車しました。

さかいアルマ

満席で重すぎるのか車両の調子が悪く、途中で一度動かなくなってしまいます。「本部」と連絡を取りつつ、再起動のような操作をして、ようやく出発。

河岸の駅さかいでカップルを降ろし、その後、途中乗降はなく、なんとか終点シンパシーホールに到着しました。

定刻14時31分予定のところ、14時38分着。途中でエンコしたわりには7分の延着で済みました。やはり、相当余裕のあるダイヤが組まれているようです。

さかいアルマ

シンパシーホールには自動運転バスの車庫があり、車両の調子が悪かったので、折り返し便は別の車両に変更して出発します。視察一行は乗らず、筆者一人で14時40分発のバスに乗車。

車内でオペレーターに利用状況をたずねると、「うーん」と煮え切らない返事。視察客や試し乗りの人は多いものの、乳幼児連れやお年寄りなど、本来ターゲットにしている「レギュラー」の利用客はわずか。乗客ゼロで走ることも少なくないとか。

筆者はキッズハウス前という途中の停留所で降車。乗客ゼロとなった「自動運転バス」を見送りました。

さかいアルマ

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自動運転バスの評価

境町自動運転バスの評価は難しいところです。技術的な視点でみると、現状はいわゆる自動運転レベル2の段階で、ドライバー主体の「一部自動」に過ぎません。実験段階なので評価は時期尚早ですが、公道で「自動運転」にするのは、そう簡単な話ではないと感じられます。

一方で、専用道ならば、路上駐車がなく信号も少ないので、自動運転バスの実現のハードルはぐっと下がりそうです。ただ、市街地で専用道を作るのも簡単な話ではありません。

利用状況については、筆者は3つの便に乗りましたが、いわゆる「地元住民」は一人もいませんでした。オペレーターの話でも、実用的にはあまり使われていない様子がうかがわれ、「地元の足」として定着しているとは言いがたいでしょう。

現状は日中しか運転しておらず、通勤・通学輸送の役割を果たせていません。次の段階として、朝夕に運転して中高生の通学需要に応えられるかどうかが、地域交通としての存在価値を示す一つのポイントになりそうです。

観光的な視点で見ると、「自動運転バス」には現時点で多少の価値があるのかもしれませんが、コストに見合うほどの集客力はなさそうです。もともとの観光需要が旺盛な土地ならば、プラスアルファの魅力にはなりそうですが。

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路線バスで帰ると

自動運転バスをキッズハウス前で降車した後、筆者は800mほど離れた境車庫のバス停から、朝日バスに乗って東武動物公園駅に向かいました。この路線は日中約30分間隔で運転されていて、境町と鉄道駅を結ぶメインルートとなっています。

朝日バス

境車庫から東武動物公園駅までの所要時間は45分。道の駅さかいからなら38分です。東武動物公園駅から半蔵門線大手町駅まで約1時間なので、乗り換えを含めて、境町の中心部から大手町まで、約1時間50分程度でしょうか。

乗り通してみましたが、境町から路線バスと近郊電車を乗り継いで都心へ向かうのは遠く、疲れます。それに比べると、往路に乗った高速バスなら、1時間余で東京駅まで直行で、快適そのものでしょう。新設された高速バスの利用価値の高さを実感しました。

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交通革命

高速バスで都内への速達ルートを創出し、自動運転バスで町内の足を確保しようとしている境町。東京50km圏にありながら、長らく公共交通に恵まれなかった小さな町で、いま「交通革命」が起きているといってもいいでしょう。

ただ、その持続性については、まだ何ともいえません。交通機関というのは、結局のところ、「どれだけ利用されるか」で評価されます。利用者が多ければ、たとえ赤字でも維持されるでしょうし、そうでなければ存続は危うくなります。

高速バスと自動運転バスという二つの公共交通機関が、これから地域住民のあいだで定着するのか。注目していきたいところです。(鎌倉淳)

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