JR東海ツアーズが圧倒的な回復。9月旅行会社の取扱状況

HISは苦境続く

主要旅行会社の取扱状況の9月速報がまとまりました。JR東海ツアーズが対前年同月比50%を達成し、圧倒的な回復を見せています。業界平均では前年の2割程度で、旅行会社の厳しい状況が続いています。

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国内旅行が96%

観光庁が発表した2020年9月の旅行業者の旅行取扱状況速報によりますと、国内主要旅行会社の総取扱額は約919億円で、対前年同月比21.1%となりました。依然として厳しい状況が続いていますが、8月の670億円(同13.7%)に比べると5割増と急回復しています。

9月の内訳は、国内旅行総取扱額が約884億円で対前年同月比37.2%。海外旅行が約31 億円で同1.7%、外国人旅行(訪日旅行)が約5億円で同2.3%です。国内旅行が総取扱額の96%を占めています。

9月と言えば、下旬の3連休から急に観光地が混雑し始めたことが思い起こされ、国内旅行は「GOTOトラベル事業」が浸透した効果が出ているといえます。一方で、海外旅行と外国人旅行は壊滅的な状況が続いています。

主要旅行会社の2020年9月の取扱高を見てみましょう。

主要旅行会社取扱高2020年9月(単位:百万円)
会社名 海外旅行 外国人旅行 国内旅行 合計
取扱額 前年比 取扱額 前年比 取扱額 前年比 取扱額 前年比
JTB 488 1.0 403 4.0 35,977 43.2 36,869 25.7
HIS 274 0.7 30 1.5 1,989 35.4 2,294 5.2
KNT-CT 419 2.9 42 1.3 7,802 30.3 8,265 19.1
日本旅行 170 1.7 7 0.2 9,549 35.9 9,727 23.8
阪急交通社 64 0.3 0.5 0.2 5423 39.6 5,487 16.1
JALパック 1 0.0 0 5,311 44.5 5,313 31.9
ANAセールス 68 3.2 4 6.9 5,045 36.9 5,119 32.3
東武トップツアーズ 158 5.7 0 2,771 37.2 2,930 26.8
JR東海ツアーズ 0 1 0.5 3,858 53.4 3,859 50.8
名鉄観光サービス 17 1.2 4 3.2 2,539 38.9 2,560 31.6
農協観光 0.2 0 0.2 0.3 613 13.5 614 11.3
ビッグホリデー 0 0 754 17.6 754 16.4
日新航空サービス 148 3.5 76 20.8 224 4.9
びゅうトラベルサービス 0.1 0.2 0.6 0.2 900 24.7 901 22.4
読売旅行 0.3 0.1 0 414 14.8 414 12.0
エムオーツーリスト 216 6.0 0 60 25.5 277 7.2
日通旅行 172 7.4 0.06 0 169 29.6 342 11.1
HTB-BCDトラベル 80 4.6 0 374 35.0 455 16.2
西鉄旅行 37 3.6 0 629 32.7 667 22.2
合計 3,050 1.7 507  2.3 88,386 37.2 91,943 21.1

出典:観光庁「主要旅行業者の旅行取扱状況速報」。上位企業のみ抜粋。

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JR東海ツアーズが業界7位に

対前年同月比でみた場合、トップはJR東海ツアーズの50.8%。同社は東海道新幹線を使ったキャンペーン「ひさびさ旅は、新幹線!」を実施し、「GOTOトラベル事業」にあわせて販売を強化。ネット予約のシステムを一新して使いやすくしたうえで、新幹線を使ったダイナミックパッケージ「新幹線ツアーダイレクト」や「ぷらっとのぞみ」といった新商品を投入し、例年の半分まで売り上げを戻しました。

JR東海ツアーズの総取扱額約39億円は業界7位で、HISや東武トップツアーズを上回りました。ただし、この統計にはじゃらん(リクルート)や、楽天トラベルといったオンライン旅行会社は加わっていません。

JR京都駅新幹線

JR系他社も堅調

JR系は他社も堅調です。JR東日本系列のびゅうトラベルサービスは同22.4%と、業界平均水準を確保。同社はダイナミックパッケージの「GOTO」適用が11月に開始と遅れたこともあり、大きくは伸びませんでしたが、まずまずの回復です。

JR西日本の子会社である日本旅行も同23.8%と同水準の回復です。日本旅行は国内旅行に限れば35.9%と好調でした。

表にはありませんが、北海道旅客鉄道は同28.5%、九州旅客鉄道は同21.5%で、いずれも平均的な回復です。

航空会社系の旅行会社も堅調でした。JALパックが同31.9%、ANAセールスが同32.3%で、ともに例年の3割程度まで回復しています。JALパックは国内旅行に限れば同44.5%と高い水準の回復ぶりです。

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JTBのシェアは4割に

業界首位のJTBは対前年同月比25.7%と、例年の4分の1程度の回復です。ただし、国内旅行に限れば同43.2%と好成績でした。

JTBの総取扱額は369億円で、統計上の業界全体のシェア40%を占めています。7月は48%でしたので、それに比べればシェアを落としました。旅行業界全体が危機に陥る状況で、相対的に安心感のあるJTBに予約が集まる傾向がありましたが、「GOTO事業」により、各社へ予約が分散したようです。

地方、バスは低迷

気になったのは農協観光。国内旅行の対前年同月比が13.5%と低い数字です。同社は地方の顧客が多いと見られますので、地方在住者の旅行意欲が低いことが察せられます。JR東日本の深沢祐二社長社長は、「東京から地方へは回復したが、地方から東京へが回復しない」旨の発言をしていますが、それに通じるところがありそうです。

読売旅行も国内旅行が同14.8%と伸び悩んでいます。同社はバスツアーを主力とする会社のため、新型コロナ禍では敬遠されやすいのかもしれません。

表にはありませんが、ウィラーも国内旅行が対前年同月比7.9%と低い数字です。

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HISの苦境続く

海外旅行を主力とする旅行会社は苦境が続きます。HISは対前年同月比5.2%と低迷。前年は総取扱額で統計上の業界2位でしたが、今年は業界10位に転落しました。

同社の沢田秀雄会長兼社長は、11月10日の「世界経営者会議」に出席。「将来は売上高に占める旅行の割合を現状の9割から2割に下げる」と発言し、リモートトラベルや飲食店経営などのさまざまな新事業への進出をはじめていることを明らかにしました。

HISは、新事業に挑戦する余力のある会社ですが、中小旅行会社はそうもいきません。記載を控えますが、中小旅行会社でも海外旅行を専門にしてきた会社では、対前年同月比一桁の会社も多くあります。

新型コロナの収束がいつになるかは見通せませんが、収束後の旅行会社の業界地図は大きく変わっているかもしれません。

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