東京国立博物館で開催されている特別展「ポンペイ」に行ってみました。古代ローマを代表する遺跡がテーマの展覧会で、当時の市民の暮らしを伝える展示内容になっています。
世界屈指の古代遺跡
ポンペイといえば、古代ローマの都市遺跡として知られています。西暦79年のヴェスヴィオ山噴火により火山灰で埋まり、「生きた都市」が地中に保存されました。現存する世界の古代遺跡のなかでも屈指の保存度と規模を誇る存在です。観光的知名度も高く、日本人旅行者にも人気です。
発掘調査で見つかった出土品は膨大で、ナポリ国立考古学博物館などに保存されています。そのなかから約150点を選んで展示するのが、東京国立博物館の特別展「ポンペイ」。壁画、彫像、工芸品のほか、食器、調理具などの日用品を取り混ぜて、「2000年前の都市社会と豊かな市民生活をよみがえらせる」というコンセプトで開幕しました。
チケットは日時指定の予約制(当日券あり)。いまのところ予約状況には余裕があり、週末も含めて会期中の売り切れの期日はほとんどありません。筆者もさっそく、夕方の回を予約して見学に行きました。
■特別展「ポンペイ」
会期:2022年1月14日(金)〜4月3日(日)
会場:東京国立博物館 平成館
開館時間:9:30〜17:00
休館日:月曜日(3月21日、28日は開館)、3月22日(火)
観覧料:一般 2,100円、大学生 1,300円、高校生 900円
※中学生以下、障がい者とその介護者1名は無料
ヴェスヴィオ山噴火とポンペイ埋没
展示会場は、国立博物館平成館。2階の展示室に入ると、序章「ヴェスヴィオ山噴火とポンペイ埋没」が始まります。
プロジェクターでの動画の後、出迎えてくれたのは犠牲者の石膏像。火山の噴火で倒れた人の姿をとどめています。ポンペイが悲劇的な大災害であることを、改めて伝えてくれます。
ポンペイの街
第1章「ポンペイの街」では、フォルムの日常風景にはじまり、当時の街の様子を伝える展示が続きます。
「フォルムの日常風景」。当時の活気がうかがえるフレスコ画です。
「槍を持つ人」。ローマ感あふれる彫像で、次第に古代ローマの雰囲気に入り込んでいきます。
ポンペイの社会と人々の活躍
第2章では、「ポンペイの社会と人々の活躍」と題し、上流階級の豪奢な暮らしぶりを伝える展示が。金のランプや青の水差しなど、保存状態のいい貴重な日用品が並びます。
エメラルドの眼のヘビ形ブレスレット。
金貨銀貨もありました。
人々の暮らし
第3章は「人々の暮らし」。こちらはパン屋の店先を描いたフレスコ画です。
商人の道具のひとつ、竿秤。
日用品の作りは細やかで、2000年前にこんなものがあったとは、改めて古代ローマの偉大さを認識させられます。日本では、まだ卑弥呼も生まれていない時代です。
ポンペイ繁栄の歴史
第4章「ポンペイ繁栄の歴史」は、遺跡内の邸宅を紹介。入口を飾るのが、「猛犬注意」という有名なモザイク画です。
そして、今回の目玉展示の一つが、「ファウヌスの家」の「アレクサンドロス大王のモザイク」です。といっても現物ではなく、複製品でもなく、絵があった「談話室」を再現した展示空間にNHKが撮影したモザイク画の8K映像を流しているだけでした。
これはまあ、ちょっと、どうでしょうね。NHKは最新の映像技術を披露したがる傾向がありますが、見ている方はとくに感動しないというか。展示面積の割に中身がありません。別の場所で流されていた、修復をテーマにした動画のほうが面白かったです。
「イセエビとタコの戦い」というモザイク画。
「ライオン」のブロンズ像。
発掘のいま、むかし
第5章は「発掘のいま、むかし」。ポンペイのほか、同時期に埋没した、近隣のエルコラーノ、ソンマ・ヴェスヴィアーナの3遺跡をとりあげます。
なかでも、ソンマ・ヴェスヴィアーナは近年発掘が進んだ遺跡で、日本の発掘隊も協力しており、興味深い発見が続いているようです。
こちらはソンマ・ヴェスヴィアーナで出土した「ヒョウを抱くバックス」。
ローマ時代の暮らしを彷彿
ポンペイに限った話ではありませんが、古代遺跡を実際に訪れた際の最大の見どころは、残された建造物と街並みです。マチュピチュでもアンコールでも同じで、訪問客は何よりも建造物に圧倒されます。
とはいえ、古代遺跡の特別展を他国で開催する際に、建造物を切り取って持ってくるわけにいきません。そのため出土品中心の展示になるのですが、現地の雰囲気をどう伝えるかが大きなポイントになると思います。
その点、今回はフレスコ画やモザイク画など、現地の建造物を彩った装飾を並べつつ、ローマ的な彫像や細やかな日用品を展示して、当時の暮らしを彷彿とさせる工夫がされていました。展示を見終わると、イタリアで遺跡巡りをしてきた気分になれます。
京都、宮城、福岡に巡回
正直なところ、これでポンペイ遺跡の魅力を伝え切れているかというと微妙ですが、それはリアルのポンペイが偉大すぎるからでしょう。ポンペイ遺跡を題材にした「2000年前の都市社会と豊かな市民生活をよみがえらせる」というコンセプトの展覧会としては、十分成功していると思います。
見学所要時間は60分~90分程度でしょうか。混雑回避のため滞在上限は90分とされています。新型コロナで海外旅行ができない状況が続きますが、上野の森でイタリア気分に浸るのもよさそうです。
特別展「ポンペイ」は、東京国立博物館で4月3日まで開催された後、京都市京セラ美術館(4/21~7/3)、宮城県美術館(7/16~9/25)、九州国立博物館(10/12~12/4)を巡回予定です。(鎌倉淳)