「離島航路」の運賃値下げは島民対象だけでいいのか? 離島振興を目指すなら、観光客にも恩恵を

2017年4月から一部の離島航路・航空路で運賃値下げが行われます。対象になるのは、「国境離島」。4月に施行される有人離島保全特別措置法によるものです。ただ、値下げされるのは島民向け運賃のみ。観光客も含めた訪問客は据え置きです。

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航路をJR運賃並みに

有人離島保全特別措置法は、2016年に成立し、2017年4月1日に施行されます。同法は、国境に位置する特定の離島を「特定有人国境離島地域」に指定し、その地域社会の維持を目的としています。

特定有人国境離島地域には、北海道の利尻・礼文島から新潟県の佐渡、島根県の隠岐、長崎県の対馬、壱岐、五島列島、鹿児島県の屋久島、種子島、吐噶喇列島など71の島が指定されました。

同法では、これら離島における航路・航空路運賃の「低廉化について特別の配慮」を定めており、これを根拠として、2017年4月から、多くの国境離島において、航路・航空路の運賃が値下げされます。

具体的には、航路運賃をJR運賃並みとし、航空路運賃を新幹線並みに引き下げる措置がとられます。財源として50億円の交付金が創設されました。

五島列島への航路

割引運賃は島民のみ

たとえば、佐渡では、4月以降、島内の港を発着する佐渡汽船の運賃の割引を開始します。高速船のジェットフォイルの両津―新潟間の往復運賃を例に取ると、8,020円が5,450円と約3割安くなります。片道運賃の場合は、6,260円から2,860円と約半額。両津港発着のフェリーでは、大人2等で片道1,330円と約4割安くなります。

隠岐4島を結ぶ隠岐汽船は、2等船室の片道をフェリー2,920円が1,390円に、高速船レインボージェット5,760円が2,960円と、いずれも約半額になります。

航空路では、たとえばANAが、対馬、壱岐などの離島の住民を対象にした割引運賃「長崎アイきっぷ」を、2017年4月1日から最大4割近く値下げします。

ただし、これらの割引運賃は、島民対象です。観光客を含めた訪問客は使うことができません。

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国境離島の振興を目指すなら

とはいえ、国境離島の振興を目指すなら、観光客の増加も重要なはずです。観光客が増えれば観光産業が振興し、雇用が生まれます。法の目的が国境離島の地域社会の維持ならば、雇用増は大切なのはいうまでもありません。

実際、同法では第15条で「雇用機会の拡充」を謳っているのですが、今回の措置にはそうした視点がみられません。

「離島割」でも検討したら?

観光客にとって、離島は訪問しにくい場所です。その理由はいくつかありますが、本土に比べて旅行費用がかさむという点は大きいでしょう。離島振興を目指すなら、観光客の訪問コストを下げる方策も考えた方がいいのでは、と思います。

そもそも、人口減少に悩んでいる直面している離島航路・航空路を維持していくには、島外利用者増が不可欠なはず。にもかかわらず、島民だけが割引対象なのは、予算上の都合もあるでしょうし、全ての旅客の航路・航空路の運賃を、一律に島民と同水準にまで下げるわけにいかないという事情もあるのでしょう。

それならば、「ふっこう割」を模した「離島割」のような、クーポンを使った振興策などでもいいでしょう。あるいは、パッケージツアーへの補助金を創設するなどの方法もあるはずです。島民と訪問客の双方が恩恵を受けられる、実現可能な方策を探って欲しいところです。(鎌倉淳)

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