紀勢自動車道のすさみ南IC~串本IC間(すさみ串本道路)が2025年春に開通します。これにより、大阪市内と紀伊半島南端が高速道路でつながります。新宮市までの延伸も着手済みで、ドライバーには便利になりそう。一方、JR特急「くろしお」には暗雲が漂います。
細切れで整備中
紀勢自動車道(近畿自動車道紀勢線)は、三重県の勢和多気JCT~大阪府の松原JCT間の約335kmを結ぶ、紀伊半島一周高速道路計画の総称です。区間により名称や整備方式が異なり、たとえば松原JCT~南紀田辺間は「阪和自動車道」と呼ぶのが一般的です。
三重県側が国交省中部地方整備局、和歌山県側が同近畿地方整備局の管轄で、それぞれ工事を進めています。三重県側は勢和多気JCT~尾鷲北IC間などが開通済み、和歌山県側は松原JCT~すさみ南IC間などが開通済みですが、紀伊半島南部ではぶつ切りの部分開通にとどまっています。
下図は、「紀宝熊野道路」の計画図ですが、細切れで整備していることがわかります。
串本まで開通へ
これら紀勢道の未開通区間のうち、国交省は、すさみ南IC~串本IC間の「すさみ串本道路」19.2kmについて、2025年春(2024年度末)の開通予定と発表しました。これにより、大阪市内から紀伊半島の南端部の串本町までが、高速道路でつながります。
すさみ南IC~串本IC間の所要時間は15分です。現状で、大阪市内の長堀IC~すさみ南IC間を検索すると2時間34分と出てきますので、長堀IC~串本IC間の所要時間は単純計算で2時間50分程度となります。
新宮へも整備中
串本ICの先は「串本太地道路」として、串本IC~太地IC間18.4kmが2018年度に事業化されています。開通予定は示されていませんが、費用便益比の試算では開業年が「平成40年度(2028年度)」とされていて、工事が順調なら2020年代後半には完成するとみられます。
太地IC~新宮南IC間の「那智勝浦道路」はすでに開通済みですので、「串本太地道路」が完成すれば、大阪市内~新宮市内が高速道路でつながります。
しかも、下図の通り、田辺以南の既開業区間は無料となっています。
名古屋~熊野は今夏開通
三重県側は、勢和多気JCT~尾鷲北IC間55.3kmのほか、尾鷲南IC~熊野大泊IC間18.6kmが「熊野尾鷲道路」として開通済みです。尾鷲北IC~尾鷲南IC間がミッシングリンクになっていますが、この区間は2021年夏頃の開通予定です。これにより、名古屋市内から熊野市までが高速道路でつながります。
その先、「熊野道路」の熊野大泊IC〜熊野市久生屋町間6.7kmと、「紀宝熊野道路」の熊野市久生屋町~紀宝IC間15.6kmが、2019年度までに事業化されています。
さらにつながる「新宮紀宝道路」紀宝IC~新宮北IC間2.4kmについては、2024年秋に開通することが、このほど公表されました。その先、新宮北IC~新宮南IC間の4.8kmは「新宮道路」として事業着手しています。
2030年頃には全通か
細切れでわかりにくいですが、おおざっぱな開通見通しをまとめると、2021年夏に三重県側が熊野市まで、2025年春に和歌山県側が串本町まで、それぞれ高速道路ネットワークにつながります。名古屋市~熊野市と、大阪市~串本町が高速道路で直結するわけです。
新宮市までについては、三重県側、和歌山県側のそれぞれで、おおむね2030年頃までには高速道路がつながるとみられます。
紀勢道では2車線区間の4車線化も進められていて、たとえば有田IC~印南IC間は2021年内に完成予定です。大阪から見ると紀伊田辺の手前まで、4車線の高速道路が整備されるわけで、紀伊半島のドライバーには朗報でしょう。
特急「くろしお」に影響も
一方、ライバルの鉄道には暗雲が漂います。紀伊半島南部は高速道路整備が遅れていたこともあり、鉄道輸送が強い地域でした。JR特急「くろしお」は、天王寺~串本間を約3時間、天王寺~新宮間を約4時間で結んでいます。高速道路が未発達の時代は、和歌山市~新宮市間をクルマなら4時間はかかったので、JR特急の速さには価値がありました。
しかし、高速道路の延伸にともない、近年はクルマと比較して特急「くろしお」の所要時間の優位性が失われつつあります。紀勢道の南紀白浜IC~すさみIC間が2015年に8月に開通すると、紀南の鉄道利用者は急減。JR紀勢線白浜~新宮間の輸送密度は、2013年度に1461だったのが、2019年度は1085にまで落ち込んでいます。
JR西日本は特急「くろしお」の新宮発着便を2018年3月ダイヤ改正で1往復減らし6往復とし、2021年3月改正ではうち1往復を不定期化しました。今後、高速道路の延伸を受けて、特急の利用者減少が進めば、「くろしお」のさらなる減便もありそうです。(鎌倉淳)