川崎BRTに乗ってみた。速くて快適、さらなる発展に期待大!

運賃収受には課題も

川崎市で運行を開始した「KAWASAKI BRT」に乗ってみました。川崎駅と臨海工業地帯を結ぶBRT路線です。

広告

3月1日運行開始

「KAWASAKI BRT」(以下、川崎BRT)は、川崎鶴見臨港バスが2023年3月1日に運行を開始したBRT(バス高速輸送システム)です。

運行区間は川崎駅東口~水江町間。水江町というのは京浜運河に面した工業エリアの停留所で、BRTは川崎臨海部の工業地帯への通勤客輸送のために開設されました。

川崎市が2021年3月に制定した「臨海部の交通機能強化に向けた実施方針」では、BRTを臨海部の「基幹的交通軸」のひとつとして位置づけています。

3月上旬の平日夕方、さっそく乗りにいってみました。

川崎BRT

広告

平日朝夕のみ運行

川崎BRTが運行するのは、平日朝夕ラッシュ時のみです。朝5時台から8時台までと、夕16時台から19時台まで。それぞれ12分間隔で運行します。

時間帯により運行種別が変わり、混雑方向(朝下り、夕上り)がおもに「BRT特快」、逆方向がおもに「BRT快速」となります。「特快」は川崎駅~臨港警察署前までの停留所を通過します。

市街地の住宅街をノンストップにすることで、川崎駅と工業地帯とをつなぐ通勤輸送に特化します。

川崎BRTルート表
画像:川崎鶴見臨港バス

 

臨海部のバスターミナル

夕方の運行開始は、水江町発16時28分発です。川崎駅を15時20分に出るバスに乗り、水江町に着いたのが16時ごろ。JFEスチールの京浜製鉄所の前です。

水江町は川崎臨海部のバスの終着駅として、複数の路線が集まる終着バス停です。いわば臨海部のバスターミナルですが、周囲には工場以外何もなく、停留所が3つ並んでいるだけです。一つは川崎市バス、一つが川崎鶴見臨港バスで、一つは使われなくなった、昔の市バス停留所です。

京浜運河の方角に、大きな橋脚が建てられています。京浜運河の向かい側にある東扇島とを結ぶ「川崎港 東扇島~水江町地区臨港道路」の橋脚です。道路が完成すれば、BRTも運行区間を拡大し、東扇島に乗り入れる予定です。

水江町

広告

一本見送る人も

バス停には、ロケーションシステムによる発車時刻表示があります。

BRT出発の8分前に、16時20分発の川崎駅行き一般バスが先発します。待っていた数人が乗り込む一方、次発のBRTを待つ人もいました。

川崎BRT

川崎駅の到着時刻は先発バスのほうが早いので、BRTを待つ人は、連節バスのほうが快適だと思っているからでしょうか。

16時23分ごろに、道路の反対側に連節バスが回送車でやってきました。折り返して、16時28分発の川崎行き「BRT特快」になります。

川崎BRT

定員30人以上多く

道路の反対側で少し停まった後、ゆっくりとUターンして入線してきます。川崎BRT、上り夕方の初便です。

川崎BRT

乗り込むと、新車のにおい。走り始めて数日なので、内部はまだぴかぴかです。

川崎BRT車内

BRTの車両は、日野自動車といすゞ自動車が共同開発した連節バスで、全長18メートル、定員は114名です。内訳は座席38名+立席75名+運転席1名。通常のバスより定員が30人以上多く、着席定員は10席以上多くなっています。

まだ退勤時間にはやや早いこともあり、始発の水江町では座席が埋まらず、ゆったりとした雰囲気で出発しました。

日立造船入口、東亜石油前と、工業地帯らしいバス停を通り、一つ一つのバス停で客を乗せていきます。前ドアから一人ずつ順番に乗りるという、一般的なバスの形です。

この時間帯はまだそれほど混雑していませんが、ラッシュのピークでは、乗車に時間がかかると推察します。

広告

池上塩浜

水江町から5つめのバス停が池上町です。川崎市の「実施方針」では、このあたりに「池上塩浜」という交通結節点を設け、臨海部各方面へアクセスできるハブ拠点とする計画です。

川崎区民が臨海部へ通勤する場合、いったん川崎駅に出てから臨海部にアクセスすることが多いですが、乗り換え地点を池上塩浜に転換させることで、川崎駅への集中を軽減しようという考え方です。

川崎BRT
画像:川崎市「臨海部の交通機能強化に向けた実施方針」

池上塩浜は東海道貨物線と交差する付近でもあり、将来的には貨物線旅客化も見据えています。

旅客化が実現しない場合は、BRTを浜川崎駅から池上塩浜を経て羽田空港方面へつなぐ構想もあるようです。

川崎BRT池上

広告

中央レーンを快走

臨港警察署前に着くと、降車する客もいました。このバスは「BRT特快」なので、ここを出ると、次は川崎駅近くまで停まりません。それもあってか、乗り換えるのでしょうか。

この時点で、車内は満席となり、立ち客も出ています。

臨港警察署前を出発すると、川崎駅近くまで停留所に寄る必要がないので、バスは中央レーンを快走します。

川崎BRT

川崎BRTの走る道路には、「PTPS(公共車両優先システム)」が設けられています。そのせいか、信号待ちのストレスもあまりなく、スムーズに動きます。まだ16時台ということもあって、道路はそれほど混んでいません。

川崎BRTは、下りの川崎駅発は県道101号線と市道皐橋水江町という最短経路を通りますが、上りの水江町発は、労働会館前交差点へ迂回する大回りルートをとります。川崎駅でロータリーに入らずに、大通り(さくら通り)沿いのバス停に発着させるためです。

ただ、往復の所要時間はほとんど変わらず、「特快」の場合、往路は最短22分、復路は最短23分です。

川崎BRTルート
画像:川崎鶴見臨港バス

 

広告

銀柳街で半分降車

終点一つ手前の銀柳街入口に到着すると、半分くらいが降車。ここから終点川崎駅前までは300mほどですが、信号待ちで時間がかかり、ダイヤ上は5分の所要時間が取られています。

銀柳街入口で降りた客が多いのは、この最後の信号待ちを避けるためかもしれません。もう川崎駅前といっていい立地なので、降車バス停としては十分なのでしょう。

終点、川崎駅前到着は16時53分。2分の遅延でした。

川崎BRT

広告

快適な都市内交通

筆者が乗ったのは、夕方ラッシュのピークが始まる前の便ですし、ふだんからこの路線に乗っているわけでもありません。そういうレベルでの感想ですが、川崎BRTは快適な都市内交通と感じられました。臨港警察署前を出ると途中乗降がないので、車内が落ち着いています。

川崎駅から水江町までの距離は約5.4km。そこを約20分で運行していると考えれば、表定速度は約16kmです。「新たなモビリティ(BRT)の利用環境の整備」という国交省の資料をみると、BRTの平均表定速度は約15km/hなので、川崎BRTは平均よりやや上。大都市内の路線としては速いほうでしょう。

端的にいえば、川崎BRTは、速くて快適な都市内交通機関です。

川崎BRT車内

新交通システムと比較すると

新交通システムとも比較してみます。同じ神奈川県内の横浜シーサイドラインは、表定速度約25km/h、1編成の定員は236名です。川崎BRTは、新交通システムの3分の2の速度で、定員半分、といったところです。

川崎臨海部は、通勤需要が多いものの沿線人口はそれほどでもなく、利用動向に偏りがあります。少し離れますが京急大師線やJR南武線浜川崎支線といった鉄道もありますので、臨海部中央だけのために地下鉄を掘るほどの需要はありません。

新交通システムでも持て余すでしょうから、既存のバスを強化するという方向性は正しいように感じられます。

 

広告

乗車時間がかかる

改善点もありそうです。なにより、上り便の場合はとくに、乗車時間がかかる、という点でしょう。

川崎BRTは、下りの川崎駅前には係員を停留所に配置して、後ろドアからも乗車できるようにしていますが、それ以外は前ドアからのみです。運賃収受の問題でそうせざるを得ないのでしょうが、定員が多い分、どうしても乗車に時間がかかってしまいます。

せっかくの快速運転を、乗車時間増で打ち消してしまっては、もったいない話です。

川崎BRT

川崎BRT
画像:川崎鶴見臨港バス

できれば、全バス停に簡易改札口を設けて運賃収受を車外でおこない、3つあるトビラの全てで乗降可能にするのが理想です。「BRT」と銘打って一般路線バスと一線を画すのなら、そのくらいの差別化を目指して欲しいところです。

とはいえ、それもすぐには難しいでしょうから、せめて川崎駅前以外の停留所でも、後方トビラからのICカード乗車を認めていいのではないか、と思います。一種の信用乗車になりますが、カメラを設置して運転席から見えるようにはできるでしょうし、人の目もあります。

決まった人が利用する通勤路線ですから、不正乗車を過度に心配しなくてもいいのでは、と思います。

広告

JR鶴見線方式は?

あるいは、他の方策として、川崎駅前と銀柳街入口のバス停のみ、簡易改札口を設けた専用バス停にできないか、とも考えてしまいます。

川崎BRTは均一運賃で、多くの乗客が川崎駅前と銀柳街入口で乗降するという利用形態です。したがって、この両バス停で、下り便は乗車時払い、上り便は降車時払いの改札をおこなえば、運賃収受の課題はおおむね解決します。

いわば、以前のJR鶴見線鶴見駅方式です。下りの途中乗車、上りの途中降車があれば、運転席で支払うことにすればよいでしょう。

駅前だけであっても、専用改札付きのバス停を設けるのは容易でないかもしれません。それでも、LRTや新交通システムを作るのに比べれば、ハードルは低いでしょう。

一般バスと一線を画したシステムを導入し、「BRT」として、さらなる発展に期待したいところです。(鎌倉淳)

広告