JR西日本「営業係数ワーストランキング」。輸送密度2000人未満の路線で収支公表

「日本一の赤字線」を越えて

JR西日本は、輸送密度2,000人未満のローカル線について、収支状況と営業係数を公表しました。その内容をランキングにしてみてみましょう。

広告

17路線、30区間を公表

JR西日本が公表したのは、新型コロナウイルスの影響を受ける前の2019年度に輸送密度が2,000人未満だった路線で、合わせて17路線、30区間です。

2017年度から2019年度までの3年間平均で、100円稼ぐのにいくらかかるかを示す営業係数が最も大きいのは、芸備線の東城~備後落合間で25,416でした。次いで木次線の出雲横田~備後落合間の6,596と続きます。

赤字額が最も大きいのは、山陰線の出雲市~益田間で34億5000万円、次いで紀勢線の新宮~白浜間の28億6000万円でした。

詳細は以下の通りです。営業係数の大きい順にランキングにしてみました。

JR西日本30線区営業係数ランキング(2017-2019平均)
順位 路線名 区間 営業係数 運輸収入
(億円)
営業損益
(億円)
輸送密度
(人/日)
1 芸備線 東城~備後落合 25,416 0.01 ▲ 2.6 11
2 木次線 出雲横田~備後落合 6,596 0.04 ▲ 2.7 37
3 芸備線 備中神代~東城 4,129 0.1 ▲ 2.0 81
4 芸備線 備後落合~備後庄原 4,127 0.1 ▲ 2.6 62
5 大糸線 南小谷~糸魚川 2,693 0.2 ▲ 5.7 102
6 福塩線 府中~塩町 2,581 0.3 ▲ 6.5 162
7 因美線 東津山~智頭 1,963 0.2 ▲ 3.9 179
8 加古川線 西脇市~谷川 1,567 0.2 ▲ 2.7 321
9 越美北線 越前花堂~九頭竜湖 1,366 0.7 ▲ 8.4 399
10 姫新線 中国勝山~新見 1,349 0.3 ▲ 3.5 306
11 木次線 宍道~出雲横田 1,323 0.6 ▲ 7.2 277
12 山陰線 益田~長門市 1,314 0.9 ▲ 11.5 271
13 山陰線 長門市~小串・仙崎 1,208 0.9 ▲ 9.5 351
14 小野田線 小野田~居能など 1,071 0.2 ▲ 2.0 444
15 津山線 上月~津山 887 0.5 ▲ 4.0 413
16 芸備線 備後庄原~三次 871 0.3 ▲ 2.5 381
17 山陰線 城崎温泉~浜坂 850 1.6 ▲ 11.8 693
18 山陰線 浜坂~鳥取 849 1.1 ▲ 8.5 921
19 姫新線 播磨新宮~上月 751 0.9 ▲ 6.0 932
20 関西線 亀山~加茂 685 2.5 ▲ 14.6 1,090
21 山口線 津和野~益田 681 0.9 ▲ 5.5 535
22 小浜線 敦賀~東舞鶴 678 3.1 ▲ 18.1 991
23 芸備線 三次~下深川 671 2.3 ▲ 13.2 888
24 美祢線 厚狭~長門市 630 0.8 ▲ 4.4 478
25 姫新線 津山~中国勝山 610 0.8 ▲ 4.1 820
26 山口線 宮野~津和野 566 1.8 ▲ 8.4 678
27 紀勢線 新宮~白浜 525 6.7 ▲ 28.6 1,085
28 山陰線 出雲市~益田 446 10.0 ▲ 34.5 1,177
29 岩徳線 岩国~櫛ヶ浜 394 1.8 ▲ 5.4 1,246
30 播但線 和田山~寺前 340 3.0 ▲ 7.3 1,222

 
なお、この表の収支に管理費は含まれていません。また、輸送密度2,000未満の路線に限ったランキングであることをご承知おきください。JR西日本全線の営業係数ランキングではありません。

芸備線

広告

1日に青春18きっぷ1日分

営業係数ワーストは、芸備線の東城~備後落合間で25,416。1年間の運輸収入はわずか100万円です。1日あたりで計算すると約2,740円にすぎず、青春18きっぷ1日分ちょっとです。

年間の赤字額2.6億円は、費用とほぼ同額です。収入が極端に少ないため、費用≑赤字となっているのです。芸備線の東城~備後落合間は25.8kmあるので、1kmあたり年間1,000万円程度の費用です。

営業係数ワースト2は木次線出雲横田~備後落合間で6,596。芸備線東城~備後落合間の25,416が衝撃的なので低く見えますが、これも相当に悪い数字です。さらに、芸備線備中神代~東城間と、備後落合~備後庄原間が4,000台で続きます。

かつて「日本一の赤字線」として有名になった北海道の美幸線の廃止直前(1984年度)の営業係数が4,731でしたので、「日本一レベル」の数字です。

備後落合を中心とした中国山地の各線の利用者が少ないのは、すでに知られた話ですが、今回、いずれも営業赤字が年間2~3億円に達することが明らかにされ、収支面の厳しさも浮き彫りになりました。

赤字額ワースト

赤字額ワーストは山陰線出雲市~浜田間34.5億円で、紀勢線新宮~白浜間28.6億円が続きます。これらは特急が走る線区のため、赤字額が大きくなっているようです。収入もローカル線としては多く、山陰線で年間10億円、紀勢線で同6.7億円です。

今回収支が明らかにされたのは、輸送密度2,000以下の区間ですが、赤字額だけなら、もっと金額の大きい区間もあるでしょう。輸送密度と赤字額は比例しません。

広告

新型コロナの影響は?

新型コロナの影響を受けた2020年度を含むデータも公表されました。2017-19年度の3年間と、2018-20年度の3年間の赤字額と輸送密度を比べた表が以下です。

17-19と18-20の比較
路線 区間 営業損益(億円) 輸送密度(人/日)
17-19 18-20 17-19 18-20
小浜線 敦賀~東舞鶴 ▲ 18.1 ▲ 16.9 991 782
越美北線 越前花堂~九頭竜湖 ▲ 8.4 ▲ 8.1 399 260
大糸線 南小谷~糸魚川 ▲ 5.7 ▲ 6.1 102 50
山陰線 城崎温泉~浜坂 ▲ 11.8 ▲ 11.7 693 506
山陰線 浜坂~鳥取 ▲ 8.5 ▲ 8.1 921 798
山陰線 出雲市~益田 ▲ 34.5 ▲ 35.5 1,177 725
山陰線 益田~長門市 ▲ 11.5 ▲ 12.2 271 238
山陰線 長門市~小串・仙崎 ▲ 9.5 ▲ 9.6 351 290
関西線 亀山~加茂 ▲ 14.6 ▲ 15.7 1,090 722
紀勢線 新宮~白浜 ▲ 28.6 ▲ 29.3 1,085 608
加古川線 西脇市~谷川 ▲ 2.7 ▲ 2.6 321 215
姫新線 播磨新宮~上月 ▲ 6.0 ▲ 6.2 932 750
姫新線 上月~津山 ▲ 4.0 ▲ 4.3 413 346
姫新線 津山~中国勝山 ▲ 4.1 ▲ 4.2 820 663
姫新線 中国勝山~新見 ▲ 3.5 ▲ 3.5 306 132
播但線 和田山~寺前 ▲ 7.3 ▲ 6.7 1,222 714
芸備線 備中神代~東城 ▲ 2.0 ▲ 1.8 81 80
芸備線 東城~備後落合 ▲ 2.6 ▲ 2.2 11 9
芸備線 備後落合~備後庄原 ▲ 2.6 ▲ 2.8 62 63
芸備線 備後庄原~三次 ▲ 2.5 ▲ 2.8 381 348
芸備線 三次~下深川 ▲ 13.2 ▲ 13.0 888 929
福塩線 府中~塩町 ▲ 6.5 ▲ 6.7 162 150
因美線 東津山~智頭 ▲ 3.9 ▲ 3.9 179 132
木次線 宍道~出雲横田 ▲ 7.2 ▲ 6.9 277 198
木次線 出雲横田~備後落合 ▲ 2.7 ▲ 2.6 37 18
岩徳線 岩国~櫛ヶ浜 ▲ 5.4 ▲ 5.6 1,246 1,090
山口線 宮野~津和野 ▲ 8.4 ▲ 9.3 678 353
山口線 津和野~益田 ▲ 5.5 ▲ 6.0 535 310
小野田線 小野田~居能など ▲ 2.0 ▲ 1.9 444 344
美祢線 厚狭~長門市 ▲ 4.4 ▲ 4.7 478 366

 
ご覧のように、新型コロナの影響を受け、輸送密度が低下しているのは各線共通ですが、それにともなって赤字額が増えているとは限りません。線区によって増えた区間もありますし、減った区間もあります。3年間平均なのでコロナの影響が見えにくい部分もありますが、運転本数の削減など、コスト削減の効果もあるのでしょう。

JR西日本は2021年3月期に2,455億円の営業赤字となりましたが、赤字転落の主要因は都市圏や新幹線での利用減で、利用の少ないローカル線の赤字額が大きく増えたわけではなさそうです。(鎌倉淳)

広告