肥薩線、八代~人吉の鉄道復旧で基本合意。人吉~吉松の協議も動き出すか

復旧費用235億円

肥薩線八代~人吉間の鉄道での復旧が決まりました。熊本県とJR九州が基本合意しました。人吉~吉松間は未定ですが、今後、協議が動き出すかもしれません。

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JR肥薩線検討会議

肥薩線は2020年7月の九州豪雨で被災し、八代~吉松間86.8kmで不通が続いています。

この復旧について話し合うJR肥薩線検討会議が2024年4月3日に開催され、熊本県とJR九州、国の3者は、八代~人吉間51.8kmのいわゆる「川線」区間について、鉄道で復旧することで基本合意しました。2033年度以降の運行再開を目指します。

肥薩線

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JR九州が地元案を受け入れ

熊本県は、2023年12月に「JR肥薩線復興方針」を公表し、観光に重点を置いた振興策を打ち出していました。

これに対し、JR九州は日常利用の創出を求めて態度を保留。この日の会議で、熊本県が自治体職員の積極的な公務利用や駅周辺の2次交通の充実などの日常利用促進案を示したところ、同社がこれを受け入れ、基本合意にこぎ着けました。

報道によれば、JR九州の古宮洋二社長と熊本県の蒲島郁夫知事が、3月に会談し、合意に向けて話し合っていたということです。

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復旧後の維持費も地元が負担

肥薩線の復旧費用は約235億円と見積もられています。熊本県は一部を国の河川工事に組み込んだり、鉄道軌道整備法の枠組みを利用するなどして、直接費用を約76億円に圧縮、JR九州の負担を約25億円にとどめる案を示しています。

復旧後は上下分離方式を導入し、年間7億4000万円とされる鉄道維持費を沿線自治体で負担します。

復旧方針案では、そのほか、2040年までに官民一体で観光分野に約97億円を投資します。これにより、誘客数を被災前の2019年度比37%増の約246万人に拡大し、肥薩線の輸送密度を同18%増の579人に増加させることを目指します。

今後、観光振興と日常利用の促進に向けた具体策について詳細を詰める方針で、2024年度末(2025年3月)までの最終合意を目指します。

復旧後の維持費を地元が負担する上下分離での復旧は、JRでは只見線で先例があります。只見線で地元が負担する維持費は年2億円程度ですが、肥薩線はその3倍以上となります。

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「山線」協議も動き出すか

人吉~吉松間の「山線」区間35kmについては、今回の協議の対象外で、復旧の見通しは立っていません。同区間は熊本、宮崎、鹿児島の三県にまたがり、それぞれの県で復旧への温度差があります。

今回の川線区間の枠組みは、県が大きく譲歩して費用負担を受け入れた形です。同様の枠組みを宮崎県や鹿児島県が受け入れるとは限りません。また、宮崎県は、新八代~宮崎間の新幹線計画も調査中で、その兼ね合いもあるでしょう。

とはいえ、川線区間の復旧決定は、山線区間の復旧への後押しとなるのは間違いなく、人吉~吉松間の協議が動き出すきっかけとなるでしょう。

肥薩線は、人吉~吉松間も復旧してこそ、その名の通り肥後と薩摩を結ぶ路線としてよみがえります。全線復旧に向け、前向きな議論を期待したいところです。(鎌倉淳)

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