「函館新幹線」実現へ5つのハードル。実現のカギは秋田新幹線に?

「新幹線等の函館駅乗り入れに関する調査報告書」を読み解く2

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「新幹線函館駅乗り入れ」計画に無理はないか? 調査報告を読み解いてみた

前の記事で、北海道新幹線の函館駅乗り入れ(函館新幹線)計画について、調査報告書の概要を読み解いてきました。

報告書の要点をもう一度まとめると、以下のようになります。

北海道新幹線函館乗り入れ
画像:「新幹線等の函館駅乗り入れに関する調査業務調査報告書」

 

「函館新幹線」計画の要点

・上り線を三線軌に。
・車両を複電圧対応に。
・新幹線停車駅は五稜郭と函館。
・列車はフル10両、フル7+3両、フル7両+ミニ3両、ミニ10両、ミニ7両を想定。
・運行パターンは、東京、札幌それぞれ直通と、札幌のみ直通を想定。
・東京直通5往復、札幌直通8往復程度を想定。
・時短効果は9分。
・整備費は157~169億、経済効果は114~141億円。
・車両費は別途。
・事業は上下分離、上下一体ともに想定。JR北海道に委託することも想定。
・単年度収支は運行パターンや事業構造により赤字になることも。
・道内利用者は増加見通し。対本州は減る可能性も。
・最短5年で開業可能。

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論点整理

この調査結果を基に、実現のためのハードルとなりそうな論点を整理してみましょう。

技術的なハードルとしては、新函館北斗で分割併合する形での運用ができるのか、そして、複電圧対応の専用車両をどう用意するのか、といった点が挙げられそうです。

費用面では、調査報告書で触れられていなかった車両費がどのくらいかかるのか。それを含めた財源をどう調達するのかが、最大のハードルとなるでしょう。

関連として、事業主体をどうするのか、JR北海道が赤字にならない形で引き受けられるスキームを作れるのか、という点もポイントになりそうです。

もちろん、採算性や費用対効果をクリアできるのか、という点もハードルです。

・分割併合
・複電圧対応車両
・車両費
・事業主体とスキーム
・採算性

以下では、これら5つのハードルについて検討してみます。

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分割併合のハードル

まず、新函館北斗駅で分割併合するという運用方法が実現可能なのか、という点を考えてみましょう。

報告書では、「ケース3」で分割併合を検討していて、7両+3両が想定されています。

しかし、7+3両にした場合、10両編成に先頭車両を4両も組み込むことになります。先頭車両はノーズと運転台を含むため、そのぶん座席数が少なくなります。

現行のE7系にあてはめると、7両編成の場合、普通車6両、グリーン車1両として座席数は「27+98+83+83+52+98+27」で、計468人です。3両編成は、全て普通車として「27+98+27」で計152人にすぎません。「7+3両」の場合、計10両の編成定員は620人にとどまります。

現行のE7系10両編成の定員は710人なので、90人も定員が減ります。仙台以南の「はやぶさ」は、現状でも混雑していますし、東京~大宮間は線路容量が逼迫し増便も容易ではありません。したがって、90席もの減少は、東日本としては受け入れがたいでしょう。

北海道新幹線函館乗り入れ
画像:「新幹線等の函館駅乗り入れに関する調査業務調査報告書」

さらに、「7両」や「3両」といった編成を作れるのか。作れたとして、3両を東京側にする運用ができるのか、という疑問もあります。

東北新幹線系統では、秋田・山形新幹線も分割併合をおこなっていますが、付属編成(ミニ新幹線)は、いずれも東京の反対側に連結しています。

報告書で示された3つのケースのうち、収支予測が最も優れていたのは、分割併合ありの「ケース3」です。その最も採算性に優れる想定が、実現性において不透明感が漂うわけです。これが「分割併合のハードル」です。

分割併合のない「ケース1」や「ケース2」なら解決しますが、フル10連は東京札幌両方面とも供給過剰で採算性に難があるうえに、貨物列車の線路使用料が激減するという問題があります。

北海道新幹線函館乗り入れ
画像:「新幹線等の函館駅乗り入れに関する調査業務調査報告書」

 
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複電圧のハードル

今回の報告書では、在来線の電圧は変えないで、車両に複電圧対応を求めています。整備費を下げるには有効ですが、車両導入面ではハードルとなります。

複電圧対応の車両としては、山形新幹線用のE3/E8系や、秋田新幹線用のE6系がありますが、いずれもミニ新幹線車両です。東北・北海道新幹線の主力車両であるE5系は複電圧対応ではありません。

北海道新幹線札幌延伸にあわせて、JR東日本は次期主力車両を想定した試験車両として、E956形「ALFA-X」を開発し、試験走行をおこなっています。ここでは、この次期主力車両の量産形を仮に「E9系」として表記します(JR東日本の正式名称ではありません)。

フル規格が函館駅に乗り入れるなら、「E9系」を複電圧対応にする必要が出てきます。しかし、わずかな函館駅乗り入れのために、すべての「E9系」を複電圧にするのは無駄な投資です。これが「複電圧のハードル」です。

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新車両を開発するのか?

分割併合と複電圧のハードルは、車両の問題という点で重なり合います。車両問題は、新幹線の函館駅乗り入れ計画を進める上で、もっとも重要な点といえます。

調査報告書をベースに整備するのであれば、函館駅乗り入れには、複電圧タイプの車両を製造する必要があります。しかし、「E9系」を全て複電圧車両にするのは現実的ではありません。

となると、函館新幹線用の新形式が必要になります。JR北海道としては札幌~函館間列車のために必要な車両ですが、JR東日本としては、1日5往復程度の直通のために新形式を追加するのは避けたいところでしょう。運用面での制約も厳しくなります。

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現実的な解決方法は?

筆者の私見として解決策を考えてみると、現実的なのは、秋田新幹線用のE6系またはその後継車両を、函館新幹線にも使用することでしょう。耐寒性能が足りなければ、その点だけは改修します。

耐寒型E6系7両編成を、函館~札幌間の道内列車に主に使います。E6系7両の編成定員は324人。現行の「北斗」が5両編成で230人なので、十分対応できます。

仮に東京へ直通するのであれば、東京~盛岡間でE5系10両を増結し、盛岡で増解結します。E5系10両は東京~盛岡折り返しという形です。

これなら、盛岡以南は「はやぶさ・こまち」と同じ17両となり、仙台以南の座席数減少を避けられます。E6系は新函館北斗方に連結されるので、盛岡での増解結もしやすいでしょう。現状の新青森発着の「はやぶさ」を函館発着にして、盛岡以北をE6系に置き換える、というような考え方です。

この場合、東京~札幌間直通列車は、すべてE10系10両編成です。新函館北斗で、函館発着列車を増解結することはありません。これにより、本州~北海道の供給座席数減少の問題も解決できます。

E6系

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技術的課題はクリアできそう

調査報告書を読む限り、技術的に大きなハードルは、分割併合問題と、複電圧問題にとどまるように感じられます。

ミニ新幹線7両にして盛岡での増解結とすれば、二つのハードルをクリアしたうえで、東京、札幌両方面への直通が可能になりそうです。

ただし、JR北海道としては、保有車両の種類が増えるので、管理の手間が増えるというデメリットがあります。また、盛岡~新函館北斗間で、フル規格10両に比べると輸送力が半減するという課題もあります。

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車両費のハードル

報告書で気になったのは、地上設備の整備費については詳しく試算している一方で、車両費に関して触れられていなかった点です。

車両費は、運行パターンによって導入車両が変わるので、触れたくても触れられないのかもしれません。しかし、車両費は、函館新幹線で大きなウェイトを占めることが予想されます。

例に挙げたE6系の場合、2012年の報道で、7両1編成が26億円程度と報じられています。4編成で約100億円、8編成で約200億円です。10年前でこの価格なので、いまはもっと値上がりしているでしょう。

函館新幹線でどれだけの車両増備が必要かについては、報告書で明らかにされていて、札幌~函館間で4編成、東京直通は分割併合なしで5編成、ありで6編成と計算されています。最大で合計10編成が必要なわけです。

北海道新幹線函館乗り入れ
画像:「新幹線等の函館駅乗り入れに関する調査業務調査報告書」

この一部は、函館乗り入れをしなくても札幌延伸に必要なものと重なるので、全てが函館新幹線用に増備しなければならないものではありません。とはいえ、仮に半分の5編成の増備としても150億円程度の費用がかかってもおかしくはありません。地上設備の整備費に匹敵します。

この費用をまるまるJR北海道が持つのは無理なので、その費用の一部を行政が負担するのは避けられません。

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採算性のハードル

地上設備の整備費が約160億円、車両費を150億円程度とすれば、総事業費は約300億円になります。

それでも、近年のフル規格新幹線整備費用に比べれば激安で、この金額で函館駅に新幹線が直通できるのであれば、投資としては悪くありません。

ただ、費用対効果や収支採算性が十分に見込めるかは、現時点ではなんともいえません。

財源のハードル

最大のハードルとなるのが、財源です。とても函館市単独でできる事業ではありませんので、国や道の支援が必要となるでしょう。

整備新幹線のスキームは使えませんので、鉄道の再構築事業に位置づけて、社会資本整備総合交付金の活用などを目指すことになりそうです。

それでも、函館市の負担額は数十億円規模になるとみられますが、その財源は不明確です。大泉市長は、以前はふるさと納税を例に挙げていましたが、それでまかない切れる金額かといえば疑問も残ります。

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事業構造のハードル

運営については、JR北海道が担当するのが現実的です。上下分離の場合は第二種事業者となり、上下一体の場合は運営委託という形になるようです。

いずれにせよ、線路使用料を低く設定しないとJRは引き受けられないという問題があります。しかし、線路使用料を低くすれば、施設を保有する第三セクターの収入は減少します。

さらに、新幹線が走ることにより、制度上、JR貨物から第三セクターに支払われる線路使用料(貨物調整金)が減少します。

前記事で触れたように、旅客列車の車両キロが増えれば貨物の線路使用料が減る仕組みなので、第三セクターとしては、空席の多いフル規格10連などは願い下げという話になるでしょう。

JR北海道、JR貨物、第三セクター会社の経営を成り立たせるための設計は、簡単ではなさそうです。

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一つの仮定

いずれにせよ、調査結果は一つの仮定であり、そのまま現実に当てはめられる話でもありません。大泉市長も「調査結果の数字や一定の仮定の下の結論付けがないと進まない」と述べており、JRや国交省などと協議するうえでのたたき台として位置づけています。

一方で、「北海道新幹線の乗り入れは市民と地域の長年の悲願。可能性がわずかでもあるならば追求すべき」と意気込みを見せています。

事業自体は利用者に歓迎される内容で、費用の絶対額も非現実的な金額ではありません。したがって、JRも国も、前向きには受けとめてくれるでしょう。

並行在来線問題にも影響

「函館新幹線計画」は、北海道新幹線の並行在来線問題にも影響します。函館~新函館北斗間の存続はほぼ既定ですが、新幹線乗り入れは考慮されていません。乗り入れるとなれば、事業構造や利用予測、収支予測が大きく変わります。

並行在来線問題を考慮するなら、「函館新幹線」に着手するか否かは、早く決めなければならないでしょう。

調査報告を見る限り、土地買収も不要とのことです。整備期間も長くはかからないようで、北海道新幹線札幌延伸と同時開業も夢ではなさそうです。秋田新幹線と共通車両なら、車両の増備もしやすいですし、実現に向け動き出すことを願いたいところです(鎌倉淳)

【続きの記事を書きました】
函館新幹線の「現実解」を考える。まずは札幌~函館のみでスタートを

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