「新幹線函館駅乗り入れ」計画に無理はないか? 調査報告を読み解いてみた

「新幹線等の函館駅乗り入れに関する調査報告書」の概要

北海道新幹線の函館駅乗り入れに関する調査報告書が公表されました。実現すれば函館~札幌が直通1時間23分で結ばれますが、実現へのハードルは低くありません。内容を読み解いていきましょう。

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新幹線の函館駅乗り入れ

北海道新幹線は、現在、青森~新函館北斗間が開業済みで、札幌まで延伸工事中です。ただし、札幌まで延伸しても函館駅は経由しません。

そこで、新函館北斗~函館間の在来線(函館線)に新幹線車両を走らせて、東北・北海道新幹線に直通させようというのが「北海道新幹線の函館駅乗り入れ計画」です。この記事では「函館新幹線」と呼ぶことにします。

函館新幹線の旗振り役は大泉潤函館市長です。2023年の市長選で目玉公約として掲げて当選し、就任後、千代田コンサルタントに調査を依頼。その調査報告書が、このほど公表されました。

北海道新幹線函館乗り入れ
画像:「新幹線等の函館駅乗り入れに関する調査業務調査報告書」

 
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三線軌か改軌か

在来線の線路幅は1067mmの狭軌、新幹線の線路幅は1435mmの標準軌です。函館新幹線を実現するには、在来線を狭軌と標準軌を一体にした三線軌とするか、新幹線専用に改軌する必要があります。

函館線付近の在来線は複線なので、改軌をする場合は、1本の線路のみを標準軌にします。結果として標準軌と狭軌の単線が並列する形になりますが、在来線には貨物列車も走るため、単線では線路容量が逼迫します。

そのため、調査報告書では、在来線上り線のみ三線軌とする形を採用しました。

北海道新幹線函館乗り入れ
画像:「新幹線等の函館駅乗り入れに関する調査業務調査報告書」

在来線の上り列車は現行通り上り線を走り、新幹線は同じ線路を上下線列車が走ります。

追加する「三線め」の線路は、新函館北斗~五稜郭間では、函館に向かって右側に設置します。既存ホームはすべて向かって左側にあるので、線路を右側に増やせば、ホームとの支障が生じません。五稜郭~函館間では左側設置です。

下り線との間隔(軌道中心間隔)が狭くなりすぎる区間は、線路全体を外側に寄せます。

北海道新幹線函館乗り入れ
画像:「新幹線等の函館駅乗り入れに関する調査業務調査報告書」

 

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函館駅は1、2番線利用

新函館北斗駅では、既存の新幹線保守基地線から渡り線で在来線につなぎます。

北海道新幹線函館乗り入れ
画像:「新幹線等の函館駅乗り入れに関する調査業務調査報告書」

新在合流地点から函館駅手前までの上り線が三線軌となります。

ただし、五稜郭駅構内は容量に余裕があるため、4番線を新幹線専用ホーム(上下)とし、その部分は標準軌に改軌します。対向の3番線ホームを在来線上り専用とします。新幹線ホームは延長・かさ上げなどの改修をします。

函館駅では1、2番線を新幹線専用ホームとします。こちらも標準軌に改軌のうえ、ホームの延長やかさ上げをします。また、1、2番線とも非電化のため電化する必要があります。

在来線の既存の電化設備はそのままです。新幹線と在来線では電圧が異なりますが、車両側で対応します。したがって、乗り入れには複電圧対応車両が必要となります。

北海道新幹線函館乗り入れ
画像:「新幹線等の函館駅乗り入れに関する調査業務調査報告書」

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跨線橋で支障も

フル規格の新幹線の車両は在来線より大型です。そのため、建築限界の空間が拡大します。建築限界とは、列車の走行に支障がないように、建造物が入ってはならない空間です。

また、新幹線の建築限界は、在来線より広く取られています。新幹線は速度が速いので、建物との距離も広めに取らなければならないのです。

函館新幹線で建築限界を支障する可能性があるのは跨線橋です。報告書によると、全ての跨線橋について、水平方向では新幹線基準の建築限界を確保しています。しかし、新幹線基準で見ると、鉛直方向では確保できていない跨線橋が7つあり、全て掛けかえた場合、70億円の費用がかかります。

ただし、在来線基準でみれば、建物との間隔は確保できています。そのため、報告書では、跨線橋の掛けかえを想定していません。

函館~新函館北斗間は、新幹線車両であっても、在来線と同等の最高速度120km/hで走ります。そのため「車両は新幹線でも在来線スピードで走るから、建築基準も在来線」という理屈で乗り切っています。

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運行パターンは?

気になるのは、どういう運行パターンで函館から東京や札幌まで直通するか、という点でしょう。これについては、やや複雑です。

札幌開業時の北海道新幹線は、当然のことながら「新青森~札幌」が本線で、新函館北斗~函館間は支線的な位置づけとなります。

東京方面と直通するには新函館北斗駅での方向転換(スイッチバック)も必要です。一方、札幌~函館間はスムーズに直通できます。後述しますが、利用者も道内方面が本州方面より上回ると予想されています。

そうした前提で、調査報告書では、運行パターンを次のように想定しました。各ケースとも、新青森~新函館北斗間を1日15往復、函館~札幌直通を同8往復と想定しています。

【ケース1】東京~函館直通なし、札幌~函館直通のみ
【ケース2】東京~函館直通あり、分割併合なし
【ケース3】東京~函館直通あり、分割併合(7両+3両)あり

下図のようになります。

北海道新幹線函館乗り入れ
画像:「新幹線等の函館駅乗り入れに関する調査業務調査報告書」
北海道新幹線函館乗り入れ
画像:「新幹線等の函館駅乗り入れに関する調査業務調査報告書」
北海道新幹線函館乗り入れ
画像:「新幹線等の函館駅乗り入れに関する調査業務調査報告書」

分割併合とは、東京~札幌間の列車と東京~函館間の列車を併結して運行し、新函館北斗駅で分割併合することを意味します。「ケース3」では、東京~新函館北斗間を「7両+3両」で運行し、7両が札幌方面へ向かい、3両が函館駅に乗り入れることを想定しています。

実際には「7両+3両」という編成に現実味がありませんが、それについては次の記事で触れます。

一方、秋田・山形新幹線と同形態の「10両+7両」は想定されていません。盛岡より北の東北・北海道新幹線のホーム設備が10両までしか対応していないためです。

各ケースとも、函館~新函館北斗間でミニ新幹線を使うかどうかで、さらに分類されています。函館直通をミニ新幹線車両のみとすると、設備の改修費用が安くなるというメリットがあります。

北海道新幹線函館乗り入れ
画像:「新幹線等の函館駅乗り入れに関する調査業務調査報告書」

 

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所要時間は?

函館~新函館北斗間の所要時間は現在の特急列車の平均所要時間(16分)と同じです。

札幌開業後の新函館北斗~札幌間は最速約65分と想定されています。新函館北斗駅の停車時間を2分、函館〜新函館北斗間16分とすると、函館〜札幌間の所要時間は83分となります。

現状の特急「北斗」では平均3時間50分程度を要していますので、函館~札幌間が83分(1時間23分)となれば、驚くような時間短縮です。

ただ、新幹線が開業すれば、函館駅乗り入れがなくても92分程度なので、乗り入れによる時間短縮効果は9分程度にとどまります。

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利用者は増える?

新幹線の函館駅乗り入れにより、函館~新函館北斗間の輸送密度は、乗り入れない場合の予測5,100人から、6,400~6,600人に増加が見込まれます。

北海道新幹線の新函館北斗~札幌間の利用者も、1,000~1,500人程度の増加が見込まれます。

一方、対本州(新青森~新函館北斗)の利用者はほとんど変わりません。ケース1や2では、むしろ減少するという見通しです。料金が高くなること、東京~札幌直通の供給座席数が減ることなどが理由のようです。

新幹線が函館駅に乗り入れたとしても、本州~北海道という視点で見ると、必ずしも利用者が増えるわけではなく、減る可能性もある、ということです。JRから見れば、道内利用者や本州~函館の利用者が増えることは増収要因ですが、本州~札幌の利用者が減れば減収要因です。

北海道新幹線函館乗り入れ
画像:「新幹線等の函館駅乗り入れに関する調査業務調査報告書」

 
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整備費は?

整備費はケースによって異なり、157億円から169億円となっています。

ミニ新幹線しか乗り入れない場合は費用が安くなりますが、フル規格が乗り入れると高くなります。もっとも高い169億円はフル規格10連が乗り入れる形(ケース2F)で、もっとも安いのはミニ新幹線3-7両(ケース3M)の157億円です。最大と最小の12億円の違いにとどまります。要は、どのケースでも大きな差はありません。

北海道新幹線函館乗り入れ
画像:「新幹線等の函館駅乗り入れに関する調査業務調査報告書」

実際に函館新幹線を走らせるには、車両も必要です。それについては次の記事で触れますが、整備費と同額程度はかかると思われます。つまり、地上設備とあわせて、総事業費は少なくとも300億円規模になるとみられます。

一方、経済波及効果は114億円から141億円となりました。ケース3(分割併合あり)が最大になります。

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事業主体

事業主体は、上下分離、上下一体があり、上下一体には第三セクターが新在ともに保有・運行する場合と、新幹線のみJR北海道に運行委託をする場合があります。

上下分離の場合は第三セクターがインフラを保有し、JR北海道が新幹線を第二種鉄道事業者として運行します。

北海道新幹線函館乗り入れ
画像:「新幹線等の函館駅乗り入れに関する調査業務調査報告書」

 

収支予測

JR北海道が運行して、線路使用料負担をなしとすれば、JRは年1.8~3.7億円の単年度黒字となります。ケース3(分割併合あり)の収支が良好で、ケース1(東京直通なし)の収支が最低です。

北海道新幹線函館乗り入れ
画像:「新幹線等の函館駅乗り入れに関する調査業務調査報告書」

しかし、線路使用料がないと、施設を保有する第三セクターの経営は苦しくなり、2.3億~3.6億円の単年度赤字が見込まれます。

一方、第三セクターによる上下一体の場合は、道南いさりび鉄道が運営にあたることになるでしょう。

その場合、年1.2億円の赤字~2億円の黒字まで、幅があります。上下一体の場合、ケース3(分割併合あり)の収支が良好で、ケース2(分割併合なし)の収支が最も悪くなっています。

北海道新幹線函館乗り入れ
画像:「新幹線等の函館駅乗り入れに関する調査業務調査報告書」

なお、上表の収入部分の「線路使用料」のマイナスは、貨物列車の線路使用料(貨物調整金)の差額を示しています。

貨物線路使用料については、「ケース1」で年間6,100万円、「ケース2」で同9,500万円、「ケース3」で同3,600万円が減少すると試算されています。細かい説明は割愛しますが、旅客列車の車両キロが増えれば貨物の線路使用料が減る仕組みのため、フル規格10連が走る「ケース2」で収入減が最大になります。

施設整備に係る費用を見込んだ場合の30年累計収支は、上下分離の場合は全てプラスとなります。上下一体の場合は、ケース3のみ黒字となります。

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整備期間

整備期間としては、工事は3年半程度で済むそうです。そのため、最短5年程度で開業が可能としています。

北海道新幹線の札幌延伸は2030年度末の予定です。それと同時に函館新幹線を開業するには、2026年度に事業着手すれば間に合う計算です。

実際には、札幌開業は数年後ろ倒しになりそうなので、函館新幹線整備の時間的な余裕は十分にありそうです。

北海道新幹線函館乗り入れ
画像:「新幹線等の函館駅乗り入れに関する調査業務調査報告書」

 

要点をまとめると

ここまでが、報告書で示された、函館新幹線の概要です。要点をまとめると、以下のようになります。

・上り線を三線軌に。
・車両を複電圧対応に。
・新幹線停車駅は五稜郭と函館。
・列車はフル10両、フル7+3両、フル7両+ミニ3両、ミニ10両、ミニ7両を想定。
・運行パターンは、東京、札幌それぞれ直通と、札幌のみ直通を想定。
・東京直通5往復、札幌直通8往復程度を想定。
・時短効果は9分。
・整備費は157~169億、経済効果は114~141億円。
・車両費は別途。
・事業は上下分離、上下一体ともに想定。JR北海道に委託することも想定。
・単年度収支は運行パターンや事業構造により赤字になることも。
・道内利用者は増加見通し。対本州は減る可能性も。
・最短5年で開業可能。

整備費が160億円前後、経済効果が130億円前後となれば、実現可能なプロジェクトに感じられます。

ただ、もっとも採算性の高いケース設定が、現実味の乏しい7両+3両編成の新幹線を想定していることや、整備費に車両費は含まれていないことなど、この調査にはやや都合のいい部分もみられます。また、対本州の利用者が減少する可能性があり、三セク会社の貨物線路使用料も減らされてしまうという、「不都合な真実」も含まれています。

こうしたことから、実際に「函館新幹線」を実現できるかというと疑問もあります。技術面や採算面、制度面のハードルは残されているといえそうです。

それについては、次の記事でご紹介しましょう。

【続きはこちら】
「函館新幹線」実現へ5つのハードル。実現のカギは秋田新幹線に?

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