JR西日本が、芸備線の今後のあり方について「特定の前提を置かない」議論を要請しました。廃線も視野に入れた協議を求めたと受け止められています。一方で、広島県知事は、内部補助による存続を求め国交省に提言書を手渡しました。
備中神代~山ノ内間の検討会議
JR芸備線では、JR西日本と沿線自治体による利用促進検討会議が2021年8月より開催されています。
芸備線のなかでも利用者の少ない、新見市、庄原市の備中神代~山ノ内間75.2kmを対象とした会議で、自治体側は岡山県、広島県、庄原市、新見市が参加しています。その第4回会議が、2022年5月11日に開かれました。
会議では、自治体側からこれまでの取り組みと、新たにICカード乗車券を沿線住民に配布する案などが報告されました。
「利用促進が結びつかず」
これに対し、JR西日本の岡山副支社長は、会議の最後に「今回の利用促進の取り組みでも、日常生活の利用、地域の足としての利用については、十分に結びつくことができなかったと受け止めている」と発言。さらに、「みなさまとは利用促進にとどまらず、地域の実情を踏まえて、特定の前提を置かないうえで、将来の地域公共交通の姿についても、ぜひ速やかに議論を開始させていただきたい」と提案しました。
会議の終了後、報道陣から「存続だけでなく廃線も含めた議論ということか」と問われた副支社長は、「すべての前提をなくしたうえで、将来の公共交通のあり方について、話し合いをしていけたら」と返答。廃線の可能性について否定しませんでした。
自治体の担当者は「特定の前提を置かない議論というのは、この場で初めて聞いた」とし、持ち帰って検討する姿勢を示しました。
年間9.2億円の赤字
検討会議の対象となっている区間の輸送密度は、備中神代~東城が80、東城~備後落合が9、備後落合~備後庄原が63、備後庄原~山之内~三次が348にとどまります(2020年度)。全国でも屈指の低輸送密度区間で、あわせて年間9.2億円の営業損失を計上しています(2017-2019年度平均)。
輸送密度がここまで低いと、小手先の利用促進策で効果があったとしても知れています。身も蓋もないことを言ってしまえば、「利用促進に取り組んでも成果が出ない」ことは、やる前からわかっていたことです。
検討会議初開催から1年あまりを経て、利用促進策を型どおりこなしたタイミングで、JRが廃線を含めた協議を地元に持ちかけたということでしょう。
内部補助継続を求める
赤字ローカル線といってもいろいろありますが、芸備線の岡山~広島県境区間は利用者が極端に少なく、この区間を残すとすれば、国鉄分割民営化時に国が保証した「既存路線をできる限り維持する」という約束、つまり内部補助に頼るほかありません。
実際、年間10億円程度の赤字であれば、新型コロナ前のJR西日本の営業利益1507億円(2018年度、単体)からみれば小さく、内部補助が不可能とまではいえません。国鉄民営化の経緯を振り返れば、JRとしても民間企業の論理だけで赤字ローカル線を切り捨てるわけにもいかないでしょう。
一方の広島県の湯崎英彦知事らは、同じ11日に国土交通省を訪れ、鉄道ローカル線の維持を求める緊急提言を山田邦博事務次官に手渡しました。提言は28道府県知事の連名で、ローカル線維持への取り組みを求めています。
具体的には、JRの不採算区間のみを切り出して扱わないこと、経営が悪化している場合には国の責任で適切な支援を講じることなどを盛り込み、内部補助の継続と国の支援を求めました。
政治力で解決できるか
国交省ではローカル鉄道路線の見直し方を検討するため、「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会」を開催していて、内部補助の問題についても論点を整理しています。
この検討会の報告書は夏頃にはまとまる予定で、国として、ローカル線を内部補助でどこまで維持すべきかの方針も示される見通しです。
広島県知事の動きは、こうした状況下で国交省を牽制する政治運動と受け止めたほうがいいのかもしれません。ただ、輸送密度がふた桁の路線は政治力で解決する段階を過ぎている気もします。芸備線の存廃は、いよいよ正念場にさしかかってきたといえそうです。(鎌倉淳)