赤字ローカル線を「JR運行のBRT」に転換へ。「地域モビリティ検討会」論点整理を読み解く2

出口論を考える

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BRT導入に向けて

今回示された、「最大の論点」は、BRTについてでしょう。「BRT導入の課題、制度的・財政的枠組みの設置の必要性」と強い調子で論点が提示されました。

BRTとは「バス高速輸送システム」のことです。国交省の定義では「連節バス、公共車両優先システム、バス専用道、バスレーンなどを組み合わせることで、速達性・定時性の確保や輸送能力の増大が可能となる高次の機能を備えたバスシステム」を指します。

こうした高機能バスを、ローカル鉄道の代替交通として導入しようという議論です。

BRTは道路運送法に基づき運行します。一方、ローカル鉄道は鉄道事業法に基づいて運行しています。まずは、この違いを乗り越えるための制度的対応は必要ないか、という論点を示しました。

たとえば、三陸の気仙沼・大船渡線BRTは、JR東日本が一般乗合旅客自動車運送事業の許可を受けた上で、ミヤコーバスや岩手県交通に運行を委託しています。運賃は鉄道と別立てのバス運賃が設定されています。

明確には書かれていませんが、ここで示された論点は、鉄道会社が旅客自動車運送事業者にならないでBRTを運行できるような、制度的な枠組みを検討する、というように読み取れます。

気仙沼線BRT

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JRが運行、自治体が支援

こうした制度的な対応をしたうえで、BRTで運行を継続する場合について、「鉄道路線存続の負担が軽減される鉄道事業者が責任を持つことができないか」と指摘しました。

ローカル鉄道を廃止すれば経費が浮くのだから、BRTくらいは責任持ってJRが運行を継続しなさい、という話です。

一方で、「利便性・持続性を高める方策を講じる場合には、沿線地域も、受益の範囲で一定の負担をすることは考えられないか」としました。

具体的には、駅(停留所)の移設や新設、運行本数の増加、高性能・省エネ車両の導入、新料金収受システムの導入などに際し、自治体の費用負担を求めた形です。

これまで、JRが赤字ローカル線を切り離した場合、地域のバス会社が代替バスの運行を担い、JRは手を引くことが一般的でした。これに対し、論点整理では、JRがBRTとして運行を継続し、自治体が一部費用を負担するという形を提示したわけです。

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前面に押し出す

今回の論点整理では、「デジタル技術も活用して鉄道と同等またはそれ以上の利便性を確保したBRTの導入を1つの選択肢として、制度面・財政面など多様な観点からの支援ができないか」と、はっきりした形でBRT導入を前面に押し出して推進する姿勢をみせています。

導入イメージとして、「鉄道事業者が運行するか運行費用を負担し、鉄道と同等の水準の通し運賃を維持し、鉄道と同等以上の便数を設定し、利便性を向上し、鉄道時刻表へも掲載する」とまで例示しました。

要は、車体はバスになるけれど、それ以外の制度はできるだけJR鉄道路線のままにする、ということです。地方では鉄道に象徴性を求める人が多いので、そうした想いにも応えるアイデアといえるでしょう。

また、JRが運行事業者として残るということは、運行で生じる赤字の一部または全部をJRが負担することを意味し、地域の負担は限定的です。JRが責任を持つのであれば、将来的にバスも廃止されるのではないかという、沿線住民の不安を払拭できる効果もありそうです。

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国の支援は?

最後の論点は、「全体を通じた国の支援のあり方」です。

これについては、「鉄道事業者と沿線地域の合意に基づき、必要な構造改善策を講じる場合、国として何らかの支援を検討できないか」「鉄道事業者と沿線地域の双方にインセンティブを持たせて早期に対策を進めるため、こうした支援は短期集中的に行うべきでは無いか」という二つの論点を提示しています。

「支援やインセンティブを、何か急いで考える」というぼんやりした姿勢です。国として、新たな補助金などを設けたり、抜本的な制度改革を考えたりはしないようです。

昨今のローカル鉄道の問題に関して、国は一貫して新たな費用負担に後ろ向きな姿勢を示していて、それはこの「論点整理」にも明確にあらわれています。

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まとめてみると

ここまでが、第4回会合で示された論点整理の概要と解説です。

簡単にいえば、「鉄道特性のないローカル線」を鉄道として存続する場合には、上下分離を導入し、地方自治体が応分の費用負担をすることを求めています。

バス転換する場合はBRT化し、JRの責任で運行を継続することを求め、自治体に大きな費用負担が生じないよう配慮しています。

そのために、鉄道維持の場合はJRが上下分離を導入しやすし、バス転換の場合は地元が不利益を受けにくくなるような制度的枠組みを、国が検討していくようです。

国交省が地方自治体に対し、バス転換にはJR運行というアメを、鉄道維持には上下分離の負担というムチを用意して、「BRT」という名のバスへの転換を促していくように感じられます。

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ローカル線問題の出口は

前回会合と今回会合の論点整理を踏まえて、鉄道ローカル線問題がどういう方向に向かうのか、筆者なりの解釈で、おおざっぱに予想をまとめてみましょう。

まず、輸送密度4,000人以上の路線は、赤字であっても、JR線として存続していくでしょう。ここは何も変わりません。

輸送密度4,000人未満の路線のうち、特急列車や貨物列車が走る地方幹線や、ピーク時の輸送量が多い線区なども、JRが運行を継続するでしょう。ただ、設備投資に対して地域の負担が求められたり、地域限定運賃が加算される可能性はあるでしょう。

それ以外の輸送密度4,000人未満の鉄道路線を維持する場合、地元が上下分離を受け入れることが条件となりそうです。

上下分離のうえJRが運営を継続しますが、地方自治体が運行費補助も求められることもあるでしょう。路線にもよりますが、年間数億円単位の負担が自治体に生じることになりそうです。

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JR運営のBRTに

地方自治体が鉄道維持費を負担しきれない場合はモード転換、つまりバス転換となります。バス転換後も、JRは事業者として運行にかかわります。JRの鉄道路線との通算運賃は維持され、時刻表にも「JR線」として掲載され、駅(停留所)は増えるのでしょう。

転換バスの全てが「BRT」になるわけではないでしょうが、比較的輸送量の多い路線はBRT化されるのでしょう。その場合、鉄道用地の一部が専用道になるかもしれません。

国鉄末期の特定地方交通線の廃止時と異なり、転換交付金はなさそうです。しかし、JRが鉄道撤退後もバス運行に関与し、その路線の存続を保証するのであれば、交付金と同等の価値があるといえます。

その場合、鉄道からバスに「モード」が変わるものの、都会の黒字路線の利益で地方路線を維持するという「内部補助」は継続することになります。

こうした配慮がなされれば、鉄道廃止に反対する地元政治家も挙げた拳を降ろしやすくなり、地元として受け入れる雰囲気が作られていきそうです。

となると、JRの経営状況や、地元の財政状況を考えれば、今後、JRの赤字ローカル線は、「JR運営のBRT」に転換されていくケースが増えるのではないでしょうか。

夏までに結論へ

地域モビリティ検討会は、今後、2022年夏までに結論をとりまとめ、2023年度予算の概算要求に反映させる予定です。今後も議論は続きますし、国交省の示した「論点」通りに話が進むとも限りません。

議事録がまだ開示されていないので、全く違う方向へ議論が進んでいる可能性もあります。筆者の予想が外れることも当然あり得るでしょう。

なんであれ、鉄道ローカル線が、国鉄末期以来の大転換期にさしかかっていることは間違いありません。今後数年で、多くのローカル鉄道が姿を消す可能性は高そうです。(鎌倉淳)

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