小浜線は北陸新幹線の「並行在来線」になるのか? JR西日本社長の発言に福井県知事は反発

JR西日本の真鍋精志社長が2015年10月21日の定例会見で、北陸新幹線の敦賀以西のルートについて、福井県小浜市を通る若狭ルートになった場合、小浜線が並行在来線になりJRから経営分離されるとの認識を示しました。これに対し、福井県の西川一誠知事は、10月23日の記者会見で、「小浜線は並行在来線に該当しない」と反発しています。

北陸新幹線の並行在来線問題は、敦賀以西のルート決定に大きな影響を及ぼします。いったい、どの路線が並行在来線に該当するのでしょうか?

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「若狭ルートなら小浜線」

福井新聞10月22日付によりますと、JR西日本の真鍋社長は、北陸新幹線の敦賀以西のルートの並行在来線について「米原ルートの場合は敦賀~米原間のJR北陸線、湖西沿いに走った場合は湖西線になろうかと思う」とし、若狭ルートについては「整備新幹線として示されている小浜、亀岡市周辺を通って大阪までというルートであれば、小浜線が並行在来線になると思っている」と述べたとのことです。

米原ルートと湖西ルートの並行在来線については、議論の余地はなく、北陸線または湖西線になるのは明らかといえます。それを第三セクターに移管するかについては、ここでは別の問題として扱います。

では、小浜ルートの場合の小浜線についてはどうなるのでしょうか。それを確認するには、「並行在来線」とは何かを調べなければなりません。

E7系

国土交通省の見解は?

国土交通省の「新幹線鉄道について」というホームページを見ると、並行在来線について以下のように示されています。

『並行在来線とは、整備新幹線区間を並行する形で運行する在来線鉄道のことです。整備新幹線に加えて並行在来線を経営することは営業主体であるJRにとって過重な負担となる場合があるため、沿線全ての道府県及び市町村から同意を得た上で、整備新幹線の開業時に経営分離されることとなっています。』

この文章を見ると、小浜ルート新幹線と小浜線は敦賀~小浜間で並行する形で運行します。つまり、小浜線敦賀~小浜間は「整備新幹線区間を並行する形で運行する在来線鉄道」ですから、並行在来線になるといえそうです。

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根拠法令はあるのか

では、この国土交通省の記述の根拠法令はどこにあるのでしょうか。

じつは、並行在来線に法的な定義は存在しません。並行在来線の扱いについては、1990年12月24日の「整備新幹線着工等についての政府・与党申合せ」で、「建設着工する区間の並行在来線は、開業時にJRの経営から分離することを認可前に確認すること」と明記されたのが最初のようですが、このときに明確な定義は示されていません。

1996年5月の政府与党ヒアリング時における「旧運輸省見解」によりますと、「開業する新幹線と並行し、優等(特急)旅客が新幹線に移る線区で、これを新幹線とともにJRに経営させることは二重投資に当たる線区」とされています。

また、1996年の12月25日の「整備新幹線の取扱いについて 政府与党合意」では、並行在来線について、「具体的なJRからの経営分離区間については、当該区間に関する工事実施計画の認可前に、沿線地方公共団体及びJRの同意を得て確定する」とあります。

話し合いで決めるもの

長野県が、長野以北の新幹線着工前に国土交通省鉄道局幹線鉄道課に聞き取りを行った資料もみつかりました。それによると、「整備新幹線の開業によって旅客輸送量が著しく低下する路線ことが見込まれる路線、又は物理的に区間、経由地を同じくする路線」との回答を得たとのこと。この資料の時期ははっきりとはしませんが、2006年頃のようです。

ということで、いろいろ調べてみましたが、はっきりとした定義はありません。西川・福井県知事は、旧運輸省見解を根拠に「小浜線は特急列車が走っていないから該当しない」と述べたようですが、この見解にも法的裏付けはありません。

そもそも並行在来線移管は、地元自治体とJRとの合意で決まるものなので、法律で縛るよりは、話し合いで決めましょう、ということなのかもしれません。

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過去の例も曖昧

過去の例を見ても曖昧です。たとえば、津軽線の青森~蟹田間は、旧運輸省見解の「開業する新幹線と並行し、優等(特急)旅客が新幹線に移る線区」ですから、並行在来線と解釈することも可能にみえますが、JR東日本は「並行在来線ではない」として、経営移管をしませんでした。

小浜線と似たケースでは、飯山線豊野~飯山間があげられます。この区間は北陸新幹線が長野~飯山間で並行して開業しましたので、小浜線が並行在来線になるのなら、飯山線も並行在来線になるという解釈も成り立ちそうです。

九州新幹線長崎ルートでは、新幹線とルートを異にする長崎線肥前山口~諫早間が経営分離される計画となっていて、反発した鹿島市などが着工に同意しませんでした。結局、肥前山口~肥前鹿島間を今後もJR九州が運営することにし、「経営分離ではない」として鹿島市の同意を得ずに着工しています。

ということで、小浜線の扱いについては、JR西日本の主張が正しいわけでもなく、福井県の主張が正しいわけでもなさそうです。確かなのは、両者が合意しなければ、北陸新幹線敦賀以西は着工できない、ということだけです。(鎌倉淳)

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