つくばエクスプレス(TX)の茨城県内延伸構想で、第三者委員会が延伸先を土浦方面とする提言を大井川和彦知事に提出しました。提言には、東京駅延伸と抱き合わせて検討する方針も盛り込まれました。
第三者委員会が提言
茨城県が設置した「TX県内延伸に関する第三者委員会」は、2023年3月31日に、「TX県内延伸に関する提言書」を公表し、大井川知事に提出しました。茨城県はパブリックコメントを経て延伸先を正式に決定し、延伸ルートの詳細調査に着手します。
委員会では、土浦のほか、茨城空港、水戸、筑波山の計4方面に関して延伸を検討。比較のうえ、土浦方面への延伸を最善と判断しました。4方面について、定量的・定性的な分析結果にもとづいて中立的な観点から検討した結果としています。
提言書の内容を読み解いていきましょう。
土浦方面の検討
まず、決定した土浦方面ですが、つくば駅から常磐線土浦駅に至る計画で、直線距離は8.4km。概算事業費を約1,400億円と見積もりました。1日8,600人の利用を見込み、輸送密度は7,800人と予想しています。
延伸後の土浦~東京間は65分を見込みます。JRの普通列車より5分ほど短いですが、特急よりは20分長くかかります。常磐線の利用者は1日1,000人減、TXの利用者は1日8,000人増を見込みます。
採算性は年間3億円の赤字、費用便益比B/Cは0.6です。B/Cを1.0以上にするには、1日12,500人の利用者増が必要です。
神立駅方面の検討
関連して、神立駅でJR常磐線に接着するルートも検討しました。土浦駅接着では工事費がかさむため、隣駅の神立駅で接着した方が安上がりではないか、という指摘があったためです。
この場合、駅への接着は確かに神立案のほうが安いのですが、全体の直線距離が13.0kmに延びることもあり、総工費が1,300億円に達し、土浦駅接着案に比べ事業費は100億円低いだけにとどまります。
一方、拠点性の高い土浦駅に乗り入れないことで輸送密度は4,800人にとどまると見通しています。結果として、年間20億円の赤字、B/Cは0.2にとどまり、土浦駅接着案に比べて優位性は認められませんでした。
茨城空港方面の検討
茨城空港方面は、つくば駅から常磐線高浜駅を経て茨城空港に至る仮定で、直線距離は28.5km。概算事業費を約2,400億円と見積もりました。1日4,900人の利用を見込み、輸送密度は2,900人と予想しています。
延伸後の茨城空港~東京駅間は約80分を見込みます。高速バスより約20分短くなります。常磐線とは高浜駅で接続し、常磐線は1日2,000人の利用者増を見込み、TXの利用者は1日4,000人増を見込みます。
採算性は年間50億円の赤字、B/Cは0.0です。B/Cを1.0以上にするには、1日21,600人の利用者増が必要です。
水戸方面の検討
水戸方面は、つくば駅から常磐線石岡駅を経て水戸に至る仮定で、直線距離は45.5km。概算事業費を約4,800億円と見積もりました。1日19,000人の利用を見込み、輸送密度を8,500人と予想します。
延伸後の水戸~東京駅間は約105分を見込みます。JR常磐線特急より約25分長くかかり、普通列車より約35分短くなります。水戸~東京間の想定運賃は2,100円で、JR普通列車より210円高くなります。常磐線は1日8,000人の利用者減を見込み、TXは1日16,000人の利用者増を見込みます。
採算性は年間58億円の赤字、B/Cは0.1です。B/Cを1.0以上にするには、1日64,100人の利用者増が必要です。
筑波山方面の検討
筑波山方面は、つくば駅から筑波山麓に至る仮定で、直線距離は約13.5km。ロープウェイやケーブルカー駅との接続は、勾配の問題があり、できません。
概算事業費を約1,400億円と見積もりました。1日11,900人の利用を見込み、輸送密度は5,400人と予想します。
延伸後の筑波山~東京駅間は約70分を見込みます。現状のTXとバスとの乗り継ぎより、約20分短くなります。TXは1日2,000人の利用者増を見込みます。
採算性は年間22億円の赤字。B/Cは0.2です。B/Cを1.0以上にするには、1日41,400人の利用者増が必要です。
4方面の検討要旨
以上の要点をまとめると下表のようになります。
延伸先 | 土浦 | 茨城空港 | 水戸 | 筑波山 |
---|---|---|---|---|
直線距離 | 8.4km | 28.5km | 45.5km | 13.5km |
輸送人員(人/日) | 8,600 | 4,900 | 19,000 | 11,900 |
輸送密度(人・キロ) | 7,800 | 2,900 | 8,500 | 5,400 |
東京駅への所要時間 | 約65分 | 約80分 | 約70分 | 約70分 |
常磐線への影響(日) | 1,000人減 | 2,000人増 | 8,000人減 | なし |
TXへの影響(日) | 8,000人増 | 4,000人増 | 16,000人増 | 2,000人増 |
事業費 | 1,400億円 | 2,400億円 | 4,800億円 | 1,400億円 |
B/C | 0.6 | 0.0 | 0.1 | 0.2 |
採算性(年) | ▲3億円 | ▲50億円 | ▲58億円 | ▲22億円 |