東京メトロ有楽町線の住吉延伸と、南北線品川延伸の実現可能性が高まってきました。国土交通省が交通政策審議会で方針を示したものです。一方、臨海地下鉄は先送りになりそうです。
整備を進めるのが適切
国土交通省は2021年7月8日に交通政策審議会の鉄道部会の「東京圏における今後の地下鉄ネットワークのあり方等に関する小委員会」を開催しました。小委員会では、東京メトロ有楽町線の豊洲~住吉間と、南北線の白金高輪~品川間の延伸について、整備を進めるのが適切という素案を示しました。
一方、都心部と臨海部を結ぶ「臨海地下鉄」については、事業計画が具体化していないこともあり、先送りとなりました。
東京メトロが建設、運営へ
有楽町線の豊洲~住吉間は「豊住線」とも呼ばれる計画で、距離は5.2km。途中、東陽町駅と、豊洲~東陽町間、東陽町~住吉間の中間地点に各1駅の、合計3駅を設けます。
2010年に江東区が事業化に関する検討を開始し、2013年に「東京8号線(豊洲~住吉間)延伸に関する調査報告書」を公表。2016年の交通政策審議会答申第198号にも盛り込まれました。2019年3月には、交通政策審議会により、事業性があることが確認されています。
南北線の品川延伸は「品川地下鉄」とも呼ばれる計画で、白金高輪~品川間の2.5km。途中駅は設置されません。2016年答申198号に盛り込まれ、2019年調査で事業性があると確認されています。
東京都は、東京メトロに対し、有楽町線と南北線の延伸について、それぞれ事業主体になるように求めてきました。しかし、上場を目指す東京メトロは財務の悪化を懸念し、自ら新線を建設しない姿勢を示しています。
これについて、今回の交通政策審議会の素案では、国や東京都が建設費を補助し、東京メトロに建設・運営を求めるべきとしました。
メトロ株上場へ道筋
これまで、都はメトロと都営地下鉄の一元化を目指し、国がメトロ株を売却した場合、都が購入する意向を示してきました。これがメトロ株上場の妨げになっていたのですが、素案では、国と都がそれぞれ保有する東京メトロ株の半分を売却し、上場する方向性を示しました。
国と都が足並みを揃えてメトロ株を売却するという話で、都がこの条件を受け入れるのであれば、大きな転換点となり、メトロ株上場の道筋が立つことになります。
一元化は断念か
要は、都がメトロと都営地下鉄の一元化をあきらめる代わりに、豊住線と品川地下鉄をメトロが建設する、という取引です。メトロとしては、建設費の補助を受けられ、悲願の上場が達成できるのであれば受け入れ可能でしょうから、取引は成立するとみて良さそうです。
懸案だった豊住線と品川地下鉄の開業が近づいたのは歓迎すべきことですが、代わりに東京の地下鉄一元化は実現しないことになります。となると、残念に感じる利用者もいるかもしれません。
有楽町線の住吉延伸、南北線の品川延伸とも、開業予定は示されていません。一般的に、地下鉄建設には10年程度はかかりますので、両路線とも、開業するにしても2030年代前半でしょう。
臨海地下鉄については、今回の素案で建設の方向性が示されなかったことから、実現するにしてもかなり先のことになりそうです。(鎌倉淳)