「札幌市総合交通計画」の改定作業が進んでいます。計画素案には、札幌市電の延伸に前向きな表現がみられる一方で、地下鉄東豊線の清田延伸は先送りになりそうです。
中間改定素案が公表
「札幌市総合交通計画」が最初に策定されたのは2012年1月。札幌市の20年後を想定した交通に対する基本的な考え方を示したものです。札幌市では、現在、その中間改定に向けた検討を行っていて、このほど改定版の「計画素案」が公表されました。
そのなかで、各交通モードについて、基本的な考え方が示されましたので、内容をご紹介しながら、札幌市の交通網の将来像について読み解いていきましょう。
地下鉄南北線ホーム増設
札幌市の交通網の基軸となるのは、なんと言っても地下鉄です。近年の地下鉄は、沿線人口の増加などにより、定期券客を中心に利用者が増加傾向にあります。経営状況についても、運賃収入の増加や駅業務の委託化などで収支は改善傾向にあります。
課題として、バリアフリー法の改正や訪日外国人観光客の増加、超高齢社会への対応などがあります。このため、エレベーターの増設や案内表示の多言語化、利用者の多い駅でのエスカレーター設置といった環境整備に力を注ぎます。また、北海道新幹線の札幌延伸を見据え、地下鉄南北線の駅ホームを増設します。
東豊線延伸には後ろ向き
現在の地下鉄経営状況は堅調ですが、今後の人口減少や少子高齢化により、将来的には運賃収入の減少が見込まれます。一方で、地下鉄施設の老朽化が進むため、更新費用の設備投資は増大します。こうした前提に立ち、計画素案では、将来に向けて「計画的に投資を行い財務面の健全性を保っていくことが必要」とも指摘しています。
札幌市で最も古い地下鉄である南北線は、開業から 50 年近くが経過しており、施設や設備の老朽化が進んでいます。そのため、車両基地等の大規模施設や土木構造物(トンネル)、走行路面等の施設の老朽化対策、高架橋の耐震化などを計画的に実施していきます。
注目の東豊線清田方面延伸については、近年、清田区の人口が減少していることなどを理由として、「事業採算性などを勘案した慎重な検討が必要」と後ろ向きな表現となりっています。
篠路駅周辺高架化
地下鉄と並び、札幌市の鉄道網を支えるのはJR線です。JR線においても、札幌市内の乗車人員は、近年増加傾向にあります。駅周辺人口の増加や、新千歳空港からの利用者の増加がその原因です。ただし、郊外部の一部の駅では減少傾向にあります。
JR北海道は札幌圏を含む道内全ての線区で赤字となっており(2019年上半期は札幌圏のみ黒字化)、計画素案では「鉄道運輸収入の確保に向けた取り組みが求められている」と分析をしています。
札幌市内のJRの今後の取り組みとして、「駅舎のバリアフリー化や交通結節機能の強化」「快速エアポート輸送力の増強による新千歳空港とのアクセス強化」などの利便性向上策が挙げられています。
また、耐震化や老朽化対策などを実施し、篠路駅周辺については高架化に向けた取り組みを進めます。
市電は延伸検討
路面電車(市電)については、「営業損失(赤字)が継続しており、企業債残高も増加傾向」と現状の課題を挙げ、「少子高齢化や人口減少に伴う乗車料収入の減少、施設の更新等に伴う支出の増加」などを長期的な課題として挙げています。
今後については、「計画的に設備投資を進める」としたうえで、「訪日外国人旅行客の増加や超高齢社会に対応するため、案内表示等の多言語化や停留場のバリアフリー化、低床車両導入など路面電車のLRT化」などに取り組む姿勢を示しました。
さらに「都心」「創成川以東」「桑園」の3地域への延伸検討を継続すると明記。地下鉄と違い、路面電車の延伸には前向きな姿勢を示しています。「経営基盤の強化や安全管理体制の維持・継続、新たな事業者による柔軟な事業展開を図ることで、路面電車を将来世代へ継承」するとの意気込みを見せました。
バス路線は縮小示唆
バスについては、「将来的な人口減少やバスの乗務員不足を見据え、現状のバス路線の適切な維持を基本に、需要に応じたバス路線の見直しや限られた乗務員で効率的な運用を可能にするデマンドバス等の新たな運行手段の検討など、地域の移動手段の確保を図る」としています。
全国各地で顕在化しているバス運転手不足を避けられないものとし、札幌市内においても路線網の一部縮小を示唆し、代替交通機関を模索する表現となっています。
そのほか、ICT を活用した情報提供の拡充やバスの待合環境の改善、ノンステップバスの導入推進なども進めるとしています。
札幌駅交通結節点の整備
交通結節点については、老朽化したバスターミナルなどの施設の計画的な維持・改修をすすめ、「交通結節点ごとの役割に応じた機能の在り方、施設配置の適正化について検討」します。
ポイントになるのが、札幌駅の交流拠点です。2030年度末予定の北海道新幹線札幌開業を見据え、「乗継機能の強化やバスターミナル再整備」などをおこない、「利便性の高い一大交通結節点を形成」するとしています。
その他のバスターミナルについては、「施設整備はほぼ充足してきている状況」と分析した上で、「今後は既存施設のバリアフリー化や、老朽化対策を計画的に進める」としました。
計画素案には書かれていませんが、円山バスターミナルの建て替えの検討などが報じられています。
関連して、冬期間における歩行者の安全性向上にかかる取り組みとして、主要な交通結節点においては、冬期間でも、交通機関を快適に乗り継ぎできるようバリアフリー動線の確保を目指します。
北海道新幹線の記述は乏しく
札幌市の交通網に大きなインパクトを与えるとみられるのが、2030年度に予定されている北海道新幹線の新函館北斗~札幌間延伸開業です。ただ、新幹線は札幌市の事業ではないので、計画素案に記述は乏しく、「建設事業を円滑に推進」「市民等への啓発・PR活動や積極的な情報提供を実施」といった、当たり障りのない内容にとどまります。
丘珠空港は新路線誘致
丘珠空港については、空港ターミナルビルの機能拡充や、丘珠空港からの2次交通の充実を図り、新規路線の誘致を推進します。滑走路拡大などの方針は示されませんでした。
道路については、創成川通(国道5号)を骨格道路として、引き続き検討を実施するとしています。札幌は市の中心部に高速道路がないため、創成川通を整備して高速道路アクセスを改善する方針です。
創成川通の機能強化については、北海道開発局の札幌都心アクセス道路検討会で検討が続けられています。札幌北インターチェンジと札幌都心部の間約4kmを、高架や地下構造で道路整備する案が検討されています。
人口減少時代を見据え
「札幌市総合交通計画」の改定案に記された内容をざっくりまとめると、人口減少時代を見据え、今ある交通インフラをいかに維持していくかに重点が置かれています。また、高齢化社会に対応したバリアフリー化の推進や、外国人の増加に対応した多言語化もすすめられます。
大きなトピックスとなる北海道新幹線札幌延伸関連では、札幌駅周辺に大規模な交通結節点を設け、地下鉄南北線の駅ホームを増設するといったことが実現しそうです。地下鉄東豊線の清田延伸は実現しそうにありませんが、路面電車の札幌駅延伸などは今後、議論が進みそうです。
そのほか、バスターミナルの建て替え、改修なども進められていきます。
道路に関しては、創成川通の整備が議論の中心になりそうです。実現すれば、札幌駅周辺から札幌北インターへ高規格道路が通ることになります。(鎌倉淳)