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日本初の「観光できない世界遺産」が誕生か。沖ノ島が登録勧告も、有人エリアは除外

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福岡県の沖ノ島が世界遺産に登録される見通しとなりました。ただ、日本政府が求めた8つの構成遺産のうち、4つが除外され、沖ノ島と周辺岩礁だけに限定されることが条件です。このまま登録されれば、日本で初めての「観光できない世界遺産」が誕生することになります。

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無人島だけが登録へ

日本が登録を目指していたのは、「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」。4~9世紀に航海の安全を祈る古代祭祀が行われた沖ノ島の宗像大社沖津宮を筆頭に、沖ノ島周辺の3岩礁(小屋島・御門柱・天狗岩)、宗像大島の宗像大社沖津宮遥拝所、宗像大社中津宮、九州本土の宗像大社辺津宮、新原・奴山古墳群の8件の登録を目指していました。

これについて、国連教育科学文化機関(ユネスコ)諮問機関の国際記念物遺跡会議(イコモス)は、沖ノ島付近の4件についてのみ世界遺産への登録を勧告しました。残る宗像大島と九州本土の4件の関連遺産については除外し、名称も「『神宿る島』沖ノ島」とすることを求めています。

沖ノ島は事実上の無人島で、有人エリアの宗像大島と九州本土の関連遺産は、登録勧告から外されてしまったわけです。

沖ノ島世界遺産推薦書
画像:文化庁

海の正倉院

考古学的にみると、沖ノ島には国家的な祭祀の遺跡が残り、指輪や鏡など大陸との交流を示す奉納品が出土しています。「海の正倉院」とも呼ばれるほど多数の発掘物が見つかっており、約8万点が国宝に指定されました。

宗教的にみると、沖津宮、中津宮、辺津宮の三宮をあわせて宗像大社を構成しています。そのなかで、沖ノ島は全体が神体とされ、今も一般人の立ち入りが原則として禁止されています。

日本政府は、世界遺産への推薦にあたり、沖ノ島の考古学的価値とともに、「現代に続く信仰の場」という宗教的価値を踏まえ、宗像大社の三宮を関連資産に組み込みました。

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考古学的価値は認められたが

イコモスは、沖ノ島を、朝鮮半島やアジア大陸との交流にともなう「古代祭祀の記録を保存する類いまれな収蔵庫」とし、考古学的な価値について高く評価しました。岩礁も一体のものと認定し、世界遺産への登録に含めています。

それに対し、宗教的な価値への評価は低く、一方、中津宮、辺津宮や、新原・奴山古墳群などについては「日本の国家的価値」として、世界遺産登録の要件を満たさないとしました。

イコモスが沖ノ島の考古学的価値のみを評価し、宗教的な価値を認めなかったことで、8件の一体登録はかなり厳しくなったようです。今後、日本政府は、引き続き8件の登録を目指すか、沖ノ島のみの登録を受け入れるかの判断を迫られそうです。

沖ノ島
画像:文化庁

審査厳格化も影響か

近年、ユネスコの世界遺産の認定は厳しくなっています。世界遺産は、2016年7月時点で1052件にも膨らんでおり、ユネスコは適切な管理を理由に新規の登録を絞り込んでいます。本当に世界遺産に値する場所は、すでにおおむね登録されている、という判断もあるようです。

2017年10月には、登録審査件数を2020年に最大年45件から35件に引き下げることを決め、各国の推薦件数も年1件としました。こうした絞り込みを背景に、イコモスの審査も厳しくなっており、今回の勧告もそうした流れに沿った措置とみることもできそうです。

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海外の立入禁止世界遺産は?

沖ノ島は、一般人の上陸が原則として禁止されており、仮にイコモスの勧告通りの登録となると、「沖ノ島」は「立入禁止の世界遺産」になります。一部または大部分が立入禁止の世界遺産は珍しくありませんが、全面的に立入禁止の世界遺産は、日本では初めてです。

海外では、全面立入禁止の世界遺産は存在するのでしょうか。調べてみると、日本の西之島のように、海底火山が島となったスルツェイ島(アイスランド)や、ペンギンの繁殖地としてしられるマッコーリー島(オーストラリア)などは、一般人立入禁止の世界遺産です。

宗教的理由で立ち入りが規制されている世界遺産としては、ギリシアのアトス山があります。女人禁制で、ギリシア正教徒以外の入山は制限されており、また、ギリシア国籍以外の者は1日8名までしか入れないそうです。ただ、アトス山には多数の住人がいますので、事実上の無人島である沖ノ島とは趣が異なります。

いずれにしろ、1000を超える世界遺産でも、一般人全面立入禁止の場所は珍しいようです。

世界遺産らしい世界遺産

沖ノ島が一般人を受け入れるのは年に1度の大祭時だけ。世界遺産登録後も一般公開をする予定はありません。沖ノ島は孤島であり、遠くから眺める以外の観光はできません。そのため、沖ノ島だけの世界遺産となると、観光振興という視点では効果は限定されそうです。

宗教的な面では、宗像三宮を一体とみなさない登録に否定的な意見もあるようですし、辞退も一つの選択肢でしょう。

ただ、今回の世界遺産登録勧告は考古学的なものと割り切って、受け入れてもいいのでは、と思います。

沖ノ島の考古学的価値は抜群で、その意味では世界遺産らしい世界遺産といえます。「全面立入禁止の世界遺産」は世界的にも珍しいようなので、それ自体が一つの価値とみなせるかもしれません。

世界遺産の大きな目的は「次世代に伝えること」であり、立入禁止はその目的にかないます。そうした世界遺産が、日本に一つくらい存在してもいいのではないか、とも思います。(鎌倉淳)


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