訪日外国人観光客は「日本旅行」のどこに不満を感じているか。1位は乗り物で「交通費が高すぎる!」

訪日外国人観光客への調査というと、「日本のココが素晴らしい!」みたいな話が多いですが、観光庁が少し変わった調査を行いました。訪日外国人旅行者のSNS投稿を分析し、外国人旅行者が感じている不満を調査したのです。

それによりますと、最も不満を感じているのが「公共交通」。つまり乗り物です。運賃・料金の高さや、ネットワークの複雑さに音を上げているようです。

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SNSの投稿内容を分析

観光庁が公表したのは、「訪日外国人旅行者受入環境に関連するSNSへの投稿等の分析」結果です。中国、台湾、香港、韓国、アメリカからの旅行者を対象に、ツイッターやフェイスブックなどSNSの公開投稿を調査しました。調査期間は2016年7月1日〜8月31日と2017年1月1日〜2月28日です。

要するに、外国人旅行者の日本でのSNS投稿を分析したわけです。SNSの性格上、話題に上がりやすいのはオンタイムで感想を伝えやすい内容で、「公共交通」「通信環境」「言語」「宿泊」「決済」に関する感想が目立ちました。

下表がその投稿数とネガティブ投稿数をまとめたものです。

外国人旅行者SNS分析
出典:観光庁「訪日外国人旅行者受入環境に関連するSNSへの投稿等の分析」

ご覧の通り、ネガティブな投稿は非常に少ないです。

こうした数少ないネガティブな話題を「不満」として取り上げ、日本の旅行者受け入れ環境の改善に役立てよう、というのがこの調査の趣旨です。「不満点をすくいあげる」のが目的の調査なので、「日本スゴイ!」みたいな話はありません。

日本の交通、ここが不満!

さて、投稿数、ネガティブ件数ともに最多となったのが、「公共交通機関」に関する話題。旅行者は公共交通機関との接点が多いので、ポジティブでもネガティブでも、話題となるのは当然でしょう。

以下に、「公共交通」にまつわる、不満の内容を例示してみます。

・日本の交通費が高い話は聞いたことがあるが、こんなに高いと思わなかった。
・タクシー2キロで1000円は高い。
・金額が安いので、空港から都内までの3日パスを買うつもり。
・PASMO/Suicaは関西でも使える。
・交通費が高いので、周遊パスを利用した方が良い。
・乗換アプリは入力方法がよくわからない。漢字で検索できないようだ。
・同じような駅名の駅がたくさんあって、初めての旅行者は混乱するだろう。
・鉄道の仕組みはすばらしいが、迷わずに乗車するのは難しい。
・空港から市内まで時間がかかって、アクセスが悪い。
・運転手さんは中国語が全然わからないみたいで、何を聞いても黙ってた。

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台湾・香港・韓国は「日本の交通費は高い」

日本の交通費を高いと感じるかどうかは、どの国から来たかにもよるでしょうし、どの路線に乗るかにもよるでしょう。たとえばアジア諸国では、地下鉄に乗っても100円以下で済むことが多く、それに比べれば日本の地下鉄が高いのは事実です。日本旅行をする多くのアジア系観光客は、日本の交通費の高さを肌で感じている様子です。

筆者は、現在の日本の交通費は、もはや世界的にみてそれほど高くない、と考えていました。しかし、調査結果をみると、実際に日本旅行をしている観光客の感覚は異なることがわかります。

もちろん、欧米に比べれば、日本の交通費が高いとはいえません。調査でも、鉄道の運賃が「高い」と投稿している割合が高かったのは台湾人、香港人、韓国人といったアジア系で、アメリカ人で「高い」と投稿した人の割合はわずかでした。

ちなみに、上記例示の「空港から都内までの3日パス」は、「WELCOME! Tokyo Subway Ticket」と推測します。都営地下鉄と東京メトロの乗り放題と、羽田空港国際線ターミナル駅~泉岳寺駅の京急線がセットになった乗車券で、京急線が片道で72時間券2,200円。たしかに安いので、外国人にも使いやすそうです。こうしたパスを上手に使って、交通費を節約しようとしている旅行者の姿が目に浮かびます。

日本では会社別運賃になっていて、鉄道会社が変わると運賃が跳ね上がるという面があります。それを避ける意味でも、フリーパスは効果的でしょう。

タクシーの運賃は、その価格に慣れている日本人ですら高いと感じますので、外国人ならなおさらでしょう。タクシーに関する不満は東京エリアが他都市に比べて抜きんでて多いのも特徴です。渋滞が多く、結果として運賃が高く時間がかかることが理由かも知れません。

外国人旅行者SNS分析
出典:観光庁「訪日外国人旅行者受入環境に関連するSNSへの投稿等の分析」

同じような駅名ばかり?

「鉄道の仕組みはすばらしいが、迷わずに乗車するのは難しい」という指摘は、日本人でも感じることでしょう。とくに東京の地下鉄で、初めての区間に乗るときは迷います。

「同じような駅名の駅がたくさんある」というのも、おっしゃるとおり。「新宿」「新宿三丁目」「新宿御苑前」「東新宿」「新宿西口」「西武新宿」とか、不慣れな人から見れば、どこで降りたらいいのかわからないかもしれません。

「上野」「上野広小路」「上野御徒町」「御徒町」「仲御徒町」「新御徒町駅」などは、どういう位置関係なのか日本人でもわかりにくいです。もう少し違う駅名にしても良かったのでは、と思わなくもありません。駅ナンバリング表示のさらなる普及が待たれるところでしょう。

アメリカ人は「アクセスが悪い」

公共交通の不満場所については、東京駅、京都駅、新宿駅といった駅構内が挙げられています。構内が広く、複数の鉄道会社が乗り入れるターミナル駅で、「乗車する電車がわからない」「構内が広くて迷った」などの不満が多いとのこと。

京都駅は東京駅や新宿駅ほど複雑ではありませんが、京都を訪れる外国人観光客が多いので、不満の数も多くなったとみられます。

交通機関全般に対して、国別に不満の傾向を見ると、アジアとアメリカで大きく異なります。中国・台湾・香港・韓国では「交通機関が高い」と感じる人が多いのに対し、アメリカ人は「アクセスが悪い」と感じる人が多数を占めました。

アメリカ人はクルマで動く人が多いので、鉄道アクセスが主体の日本は不便と感じるのかもしれません。一方、アメリカ人で、日本の交通機関を「高い」と感じる人の割合はわずかでした。

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言語表記はここが不満!

言語についての投稿も取り上げてみましょう。日本国内の案内表示は日本語と英語(アルファベット)併記が主流ですが、最近は中国語や韓国語の記載も増えてきました。

これについても、投稿の内容を例示してみましょう。

・道の表示、駅の名前、バス、鉄道情報が漢字で書いてるので大体読める。(中国)
・日本人は英語が苦手だから、英語が喋れる人でも翻訳系のアプリをダウンロードした方がよい。(中国)
・日本の地図は電車と地下鉄の路線図を強調していて見づらい。(韓国)
・駅名が非常に長い音節から構成されるので難しい。(アメリカ)
・英語表記のある看板や出口への地図、そして駅員が親身になってくれるので、がっかりしないだろう。(アメリカ)
・通りではなく、地域に名前が付けられていることを知らないと目的地を探せない。(アメリカ)
・韓国語で書いてあるが不自然な文章で、内容を理解するのが難しかった。(韓国)
・中国語のパンフレットは改札口のすぐ隣にあったのに、韓国語は引き出しの中にあった。(韓国)
・日本の良いところは飲食店にカラー写真付きのメニューがあること。(アメリカ・台湾)
・飲食店に写真付きのメニューがなくて選ぶのが大変だった。(香港)

漢字圏の旅行者は不満が少ない

当然のことですが、言語表記については、旅行者がどの言語圏から来たかによって、感想は異なります。

中国・台湾・香港といった中華圏の旅行者は、日本の漢字をある程度読めますので、案内板表記についての不満は少ないようです。一方、中国語を片言でも話せる日本人は少ないので、話し言葉でのコミュニケーションへで不便を感じているようです。

同じ東アジアでも、韓国人は「地図が難しい」「意味がわからない」「パンフがない」など、表示に対するネガティブな反応が多いようです。漢字を読めない韓国人は、アルファベットをたどりながら旅行するほかなく、たしかに不便そうです。

外国人旅行者SNS分析
出典:観光庁「訪日外国人旅行者受入環境に関連するSNSへの投稿等の分析」

「地名」の住所表記は難しい

アメリカ人はコミュニケーションに対する不満は少ないとのことです。案内板での英語表記が充実していることと、日本人の多くは多少の英語を理解するからでしょう。

アメリカ人には日本語の発音にハードルを感じており、「音節が長く難しい」といった感想が出ています。日本語をアルファベット表記にすると、やたら長い駅名があったりするからかもしれません。

また、「通りの名前」ではなく、地域の「地名」で住所表記がされていることが難しいと感じるアメリカ人も多いようです。世界的には「通りの名前」が住所になっていることが多いので、初めて日本に来た人は戸惑うでしょう。

旅行者の立場では、通りの名前が住所になっていたほうが、目的地を探しやすいのは確かです。ならば、観光客の多い通りには「通りの名前の住所番号」を便宜的に導入して、地名住所と併用しても良いのでは、とも思います。

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まだある!外国人旅行者の不満

この調査では、他にも訪日外国人が日本で感じる不満点が明らかにされています。いくつかピックアップしてみましょう。

・入国審査に1時間以上かかった。
・女性が一人で日本に来た場合、入国審査をかなり厳しく行うらしい。
・なんで日本のファストフードは現金しか使えないんだ。
・なぜ日本の銀行ATMではお金を降ろせないんだろう。銀行員に聞いたら、「コンビニで」と言われた。
・案内所で英語が伝わらなくて苦労した。
・韓国とは違い、Wi-Fi環境が良くない。見つけることも難しいし、Wi-Fiエリアも非常に狭い。
・Free Wi-Fiはあるけど、SIMの方が便利。価格も高くもないし。
・空港のSIMカードは値段が高く、通信容量も少ないので諦めた。
・SIMカードの通信速度が速くて、しかもすごい安かった。
・ベジタリアンは大変かもしれない。ほとんどの日本食には豚が入っている。
・出汁には動物性食品(カツオ等)が含まれているので注意が必要。
・朝早く行かないと、ロッカーはいっぱいになってしまう。
・ロッカーを探すよりも、次の宿泊地に送ることがおすすめ。配達日指定もできる。
・人気の観光スポットに行くと、トイレが少なく必ず列ができている。
・公衆トイレは便利だけど、汚い。
・トイレでは毎回、フラッシュボタンを探すのに苦労した。
・駅が複雑でエレベーターを探すのに一苦労。ベビーカー利用者は大変。
・日本の交通インフラは素晴らしいが、相応の対価を支払わなければならない。
・レンタカーを借りると、高速料金の高さや道路が遅いことに気付くだろう。

日本人には見えにくい不満をすくいあげる

日本人からみても「納得」と思う指摘もあれば、意外な感想も見受けられます。

たとえば、日本の主要銀行ATMで海外銀行発行のキャッシュカードが使えない問題点は、外国人旅行者からかねて指摘されていることですが、まだ改善されていないようです。

また、日本では有人の手荷物預かり所が少なく、代わりにコインロッカーが多く設置されています。しかし、観光地やターミナル駅ではロッカーは不足気味なうえ、対応サイズが小さいので、「ロッカー難民」になっている旅行者を見かけることが少なくありません。外国人向けに、有人の手荷物預かりサービスを鉄道駅などで増設してもいいのでは、と思います。

こうした、日本人には見えにくい不満をすくい上げることは大切です。今回の調査が、日本の観光受け入れ体制の整備に、うまく活かされることを願いたいものです。(鎌倉淳)

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