石狩市ロープウェイ

石狩新港~麻生

北海道石狩市は、新たな軌道系交通として都市型ロープウェイの導入を計画しています。

国土交通省の「先導的官民連携支援事業」に採択され、検討が進められることになりました。石狩市が導入可能性調査を実施しています。

石狩市都市型ロープウェイの概要

石狩市では、公共交通として、路線バスとタクシーが運行されています。路線バスは2023年11月現在で全26系統が存在しますが、いずれも市内で完結せず、札幌市と跨いだ運行となっています。

しかし、バスやタクシーでは積雪期に安定した運行ができませんし、交通渋滞の問題もあります。そのため、札幌市とを結ぶ軌道系交通機関の構想が断続的に検討されてきました。ただ、採算性などがカベとなり、実現にいたっていません。

一方、「石狩湾新港地域開発基本計画」や「石狩湾新港地域土地利用計画」では、札幌市中央部との連絡や通勤の円滑化を図るため、鉄軌道系交通やバス路線など公共交通網の整備について検討を行うこととなっています。

そこで新たに浮上したのが、都市型モノレールの建設計画です。渋滞・気候に関係なく安定して利用できる移動手段として、新たな軌道系交通の導入を目指すものです。

この計画は、2023年度に国土交通省の「先導的官民連携支援事業」に採択され、石狩市は補助金1394万円を得て、調査に着手しました。

2023年11月に事業概要が公表され、3つのルート案が明らかになりました。「手稲ルート」「麻生ルート」「栄町ルート」の3案です。いずれも石狩湾新港地区を起点とし、石狩市中心部の花川地区を経由してJRや地下鉄の駅を結びます。栄町ルートは、緑苑台を経て丘珠空港までを結ぶルートを想定しています。

石狩市都市型ロープウェイ計画
画像:石狩市


 

2024年2月には「官民連携手法による新たな軌道系交通の導入可能性調査報告書」がまとまり、同年9月に公表されました。それによると、年間乗車人員は麻生ルートの305万人が圧倒的で、手稲ルートの76万人、栄町ルートの58万人を大きく引き離しました。

概算事業費は麻生ルート266億円、手稲ルート232億円、栄町ルート252億円です。麻生ルートが高いものの大差はありません。利用者を勘案すれば麻生ルートが圧倒的に優勢で、事実上選定ルートに決定したとみてよさそうです。

麻生ルートの距離は12.5kmで、途中12駅を設けます。駅位置などは未発表です。下図は、起点を石狩新港のコストコ付近、終点を麻生駅付近として、筆者が独自に当て込んだものです。実際の想定ルートとは異なりますが、参考までに掲載します。

石狩市ロープウェイ
画像:Googleマップを加工

 

今後の予定は、2025~26年度に整備・運営事業者の公募・選定をおこない、2027~32年度に設計・施工を実施、2032年度の開業を目指すスケジュールです。工事着手から開業まで5年と短いのが特徴です。

石狩市都市型ロープウェイの沿革

石狩市の鉄道計画は古くからあります。1956年には石狩鉄道が設立され、石狩市街地と札幌市北十条(桑園)とを結ぶ路線の免許も取得、起工式まで行われました。しかし、資金不足で開業には至りませんでした。

1985年には石狩モノレール構想が打ち出され、栄町駅や麻生駅から石狩市中心部を結ぶ3つのルート案も公表されました。その後も、新交通システムや鉄道による整備案など、数多くの鉄軌道計画が浮上しています。しかし、いずれも事業性に難があり、実現には至っていません。

そうしたなかで浮上してきたのが、都市型ロープウェイ計画です。2023年に、石狩市が国土交通省の「先導的官民連携支援事業」の補助金を用いて都市型ロープウェイなどの軌道系交通機関について再検討することを表明しました。

この計画は、石狩市内で発電された再生可能電力を活用した脱炭素型の運営とするのが特徴です。軌道ルートを用いて電力網を構築し、近隣市町村への配電も行う計画となっている点が「先導的」とみなされたようです。

2023年11月には、3つのルート案が公表され、供用開始の目標を2032年度とすることが明らかになりました。2024年2月に調査報告書がまとまり、同年9月に公表されています。


 

石狩市都市型ロープウェイのデータ

石狩市都市型ロープウェイデータ
営業構想事業者 未定
整備構想事業者 未定
路線名 未定
区間・駅 石狩新港~麻生駅
距離 12.5km
想定利用者数 年間305.5万人
総事業費 266億円
費用便益比
累積資金収支黒字転換年
種別 索道事業
種類 索道
軌間
電化方式
単線・複線
開業予定時期 2032年度
備考 先導的官民連携支援事業

※データは『官民連携手法による新たな軌道系交通の導入可能性調査報告書』(石狩市)より

石狩市都市型ロープウェイの今後の見通し

石狩市の都市型ロープウェイ計画については、2024年に調査結果が公表された段階です。実現性については、まだ何とも言えません。

ロープウェイ(ゴンドラ)はスキー場に多く設置されているように、風雪に強く、北海道のような過酷な環境でも稼働できます。ただ、基本的には直線でしか敷設できないので、設置可能な区間が限られるという問題がありました。

そこへ、カーブも設定できる「Zippar」という自走式ロープウェイがベンチャー企業によって開発されることになりました。石狩市の計画もZippar導入を前提としているようですが、2024年現在では実験段階の技術で、実用化されるかは定かではありません。

Zipparを導入するのであれば、試験線を市内に作るなどの事業を先行させるかもしれません。試験のうえ、問題ないということであれば、札幌市の協力を得て、麻生ルートで実現を図ることになるでしょう。

ただ、目標とする2032年度開業が可能かというと、やや難しい印象もあります。