沖縄鉄軌道

那覇~名護

沖縄県では、沖縄本島を縦貫する那覇~名護間に鉄道を敷設する計画があります。これが沖縄鉄軌道です。「沖縄縦貫鉄道」とも呼ばれたりします。

沖縄の鉄道計画には、沖縄県が計画を進めている計画と、内閣府による調査・検討がありますが、ここでは沖縄県が進めている計画を中心に紹介します。現時点では計画段階で、開業予定などは未定です。

沖縄鉄軌道の概要

沖縄鉄軌道計画は、那覇~名護間を1時間で結ぶものです。沖縄本島南部都市圏の交通渋滞緩和が主な目的で、本格的な計画案づくりは2014年に開始されました。

2018年3月までに、おおざっぱなルート案が確定しました。「C派生案」と呼ばれるもので、那覇、浦添、宜野湾、北谷、沖縄、うるま、恩納、名護の8市町村を経由するものです。「中部東海岸、北部西海岸」を経由するルートです。

沖縄鉄軌道ルート
画像:『沖縄鉄軌道の構想段階における計画書』より

 

那覇~うるま間は主に地下路線、うるま~名護は主に山岳トンネルです。高架区間は宜野湾~北谷と、うるま~恩納の一部のみで、全体的にトンネルだらけの鉄道路線です。

総延長は67~68kmで、那覇~名護間を59分で結びます。

駅の配置については、経由する市町村に、最低1箇所は拠点駅を設置する方針を示し、拠点駅間距離が長い場合や、市街地が続く地域では、必要に応じて拠点駅間に中間駅を設定するとしています。

また、市街地地域においては、おおむね2~3kmに1箇所程度の駅を配置。郊外では、5~7kmに1箇所程度としています。

快速列車は、経由する市町村で各1箇所を快速停車駅として想定。運転本数は、那覇~うるまといった都市部では、ピーク時に毎時「各駅7本+快速3本」、オフピーク時に「各駅4本+快速2本」を運転します。

うるま~名護といった郊外部では、ピーク時に毎時「各駅2本+快速1本」、オフピーク時に「各駅1本+快速1本」という想定です。

想定するシステムは、那覇と名護の約70kmを約1時間で結ぶスピードを確保するものという条件が課されています。そのため、専用軌道を有するシステムで、小型鉄道程度の輸送力が必要です。検討対象として、リニア式の小型鉄道と専用軌道のLRTなどが取り上げられています。

総事業費と費用便益比

ルート案は、那覇近郊を330号線(内陸)を通る案と、50号線(海沿い)を通る案があります。総事業費は、ルート決定時点(2018年)で国道330号線ルートが6,100億円、国道50号ルートが6,000億円とされました。その後、2019年にコスト縮減案が示され、330号ルートが5,810億円、50号ルートが5,930億円とされています。

費用便益比は、ルート決定時の試算では、入り込み観光客を1,000万人と見込んで、0.39~0.59と算出しました。2019年の試算では、観光客数を1,350万人とし、選考接近法で算出すれば、330号ルートで1.04となり、1を超えるとしています。

観光客数は2018年度に1.000万人に達していて、その後のインバウンドの伸びを考えれば、1,350万人も荒唐無稽な数字とはいえません。

費用便益比が1を超えるのは330号ルートなので、基本的には同ルートを軸に検討されていくとみられます。ただ、現時点では構想段階で、事業化の可否は決まっていません。当然、開業時期などはまったく未定です。

沖縄鉄軌道の沿革

沖縄本島には戦前、県営の軽便鉄道が走っていましたが、沖縄戦で被災し、戦後も復旧されていません。新たに鉄道を敷設しよういう意見は本土復帰時からありましたが、具体化しはじめたのは2012年「沖縄県総合交通体系基本計画」(第4次)が公表されてからです。

同計画には「需要の規模や特性を踏まえた観光地への鉄軌道を含む新たな公共交通システムの導入」が施策として明記されました。これをうけて、2013年6月には「鉄軌道を含む新たな公共交通システム導入促進検討業務」報告書(平成24年度報告書)が公表されました。

2014年10月からは、沖縄県が鉄軌道導入に向けて「沖縄鉄軌道計画検討委員会」などを組織し、計画案づくりをスタート。2018年3月に『沖縄鉄軌道の構想段階における計画書』(沖縄鉄軌道計画検討委員会案)がまとまりました。2020年8月に費用便益分析検証委員会を開催し、需要予測や費用便益比の試算を公表しました。

ここまでの検討で、費用便益比はケースによって1を超えるものの、採算性おいては特例制度の創設が必要という結論でした。そのため、沖縄県は、全国新幹線整備法を参考にした特例制度の創設を国に要請。国は2022年度の「沖縄基本方針」において、その検討をする旨を明記しました。

一方、「沖縄基本方針」には、2012年度の旧方針から沖縄鉄軌道の検討が盛り込まれていて、内閣府はそれに基づいて、沖縄県とは別に沖縄鉄軌道の調査を毎年実施しています。検討結果としてのルートは沖縄県案と大きくは変わらず、費用便益比は1を超えられないとしています。

2022年度からの新基本方針に基づいて、内閣府調査でも整備新幹線を参考にした新制度を検討する方針です。ただ、整備新幹線方式であっても、費用便益比が1を超えることが必要です。これまでの内閣府調査では、費用便益比をクリアできないとして、採算性にかかわる新制度論には踏み込んでいません。

沖縄鉄軌道
画像:「鉄軌道を含む新たな公共交通システム導入促進検討業務」報告書


 

沖縄鉄軌道のデータ

沖縄鉄軌道データ
営業構想事業者 未定
整備構想事業者 未定
路線名 未定
区間・駅 那覇~名護
距離 67~68km
想定利用者数 68,000~77,000人/日
総事業費 5,810~5,930億円
費用便益比 0.91~1.04(観光客1,350万人、所得接近法)
累積資金収支黒字転換年 発散
種別 未定
種類 普通鉄道
軌間 未定
電化方式 未定
単線・複線 複線(一部単線案もあり)
開業予定時期 未定
備考 全国新幹線整備法に準ずる補助を要望

※データは主に『沖縄鉄軌道の構想段階における計画書』(2019年)、『沖縄鉄軌道費用便益分析に係る検証委員会資料』(2020年)より。

沖縄鉄軌道の今後の見通し

沖縄鉄軌道は現時点では構想段階です。県を挙げての取り組みでもあり、実現性は低くなさそうですが、事業化に向けて、超えなければならないハードルはいくつもあります。

最大の課題は普天間基地の返還でしょう。沖縄鉄軌道計画は普天間基地の返還を前提にしており、ルートも普天間基地を通ります。しかし普天間基地の返還の道筋は不透明で、現時点ではいつになるか見通せません。

仮に普天間基地の返還が実現したとしても、建設費の問題もあります。約70kmで6000億円規模の事業の予算化は容易ではありません。近年の建設費の高騰をみれば、実際には1兆円規模のプロジェクトになるでしょう。

沖縄県では、整備新幹線並みの手厚い補助金を要請していて、国も応じる構えを見せていますが、現時点では具体化していません。

とはいえ、沖縄県中南部の道路渋滞はひどく、鉄軌道がとくに必要とされているのは事実です。時間はかかりますが、いずれ実現へ向け前進する鉄道計画と信じたいところです。

【参考資料アーカイブ】
沖縄鉄軌道の構想段階における計画書(2018)』[PDF]