JR羽田空港アクセス線

羽田空港~田町・東京テレポート・大井町間

JR東日本が計画する、羽田空港と田町、大崎、新木場などを経て東京都心を結ぶ鉄道新線です。2023年6月に着工しました。開業予定は2031年度です。

JR羽田空港アクセス線の概要

羽田空港アクセス線は、JR東日本が計画している新路線です。東海道貨物線の一部を旅客化しつつ、新線も建設し、羽田空港から東京駅、上野駅、渋谷駅、新宿駅、新木場駅などに直通列車を運行する構想です。

計画では、羽田空港の国内線第1ターミナルと第2ターミナルの間に「羽田空港新駅」を設け、東京貨物ターミナルまで約5.0kmの「アクセス新線」を建設します。

そこから田町駅付近への「東山手ルート」、大井町駅付近への「西山手ルート」、東京テレポート駅付近への「臨海部ルート」の3ルートを建設します。将来的には、羽田空港国際線ターミナルへの延伸も検討します。

JR羽田空港アクセス線
画像:JR東日本

東山手ルートの概要

最初に着工したのは、東山手ルートです。羽田空港駅から東京貨物ターミナルを経て、田町駅付近で上野東京ラインに合流します。途中駅はありません。

羽田空港~東京貨物ターミナル間は新線(アクセス新線)です。東京貨物ターミナル~田町付近は休止線となっている東海道貨物線(大汐線)を整備・活用します。田町~浜松町間に「大汐短絡線」を建設して、上野東京ラインに合流します。

JR羽田空港アクセス線ルートマップ
画像:JR東日本プレスリリース

羽田空港~合流地点(田町付近)の総延長は12.4キロ。内訳はアクセス新線5.0km、東山手ルート7.4kmです。田町~羽田空港間の距離は12.4kmです。

完成すれば、上野東京ラインの列車が羽田空港に乗り入れ、東京駅と羽田空港間が約18分で結ばれます。

羽田空港駅は1面2線の島式ホームで、改札口は地下1階、ターミナル間通路と同じ平面に設置されます。ホームと改札の間に段差はありません。列車を降りてから第2ターミナルの地下まで、高低差のない完全バリアフリー構造となります。

ホーム長は15両対応の311メートルです。グリーン車併結の上野東京ラインの15両編成が、羽田空港駅まで乗り入れられるように作られます。

JR羽田空港駅
画像:JR東日本プレスリリース

東山手ルートの事業費は2,800億円です。2021年1月20日に国土交通省が鉄道事業を許可。このとき、開業予定は2029年度と公表されました。ただし、2023年に、開業予定を2年後ろ倒しし、2031年度に変更しました。

2023年6月に起工式を実施しています。

東山手ルートの運行系統

羽田空港~新橋~東京~上野~宇都宮、高崎、土浦方面

羽田空港駅を出発し、田町駅付近で上野東京ラインに合流。ただし、新橋駅まで停まりません。新橋駅で上野東京ラインに合流し、宇都宮線・高崎線・常磐線方面への直通を想定します。所要時間は、羽田空港~東京駅間約18分です。

2019年5月に公表された東山手ルートの環境影響評価書によりますと、羽田空港アクセス線の運転本数は毎時8本、1日144本です。片道あたり72本で、計算するとおおむね15分間隔での運転を想定していることになります。

上野東京ラインの列車が、東京駅から15分間隔で羽田空港に乗り入れてくるわけです。

JR羽田空港アクセス線運行系統
画像:JR東日本プレスリリース

臨海部ルートの概要

羽田空港アクセス線臨海部ルートは、東京貨物ターミナル付近で東山手ルートから分かれ、りんかい線に乗り入れて、東京テレポート駅で合流します。そのまま新木場方面に至る路線です。

羽田空港アクセス線はりんかい線の八潮車両基地の横を経由します。そのため、渡り線を設ければ、羽田空港アクセス線から車庫線を経由してりんかい線への乗り入れは容易に実現できます。

JR羽田空港アクセス線ルート図
画像:「羽田空港アクセス線(仮称)整備事業」環境影響評価調査計画書より

八潮車両基地からりんかい線への車庫線は、現在一部が単線ですが、これを複線化させ、品川埠頭分岐部信号場でりんかい線に合流します。

臨海部ルートが開業すれば、羽田空港~新木場駅間が約20分で結ばれます。途中の国際展示場までなら15分程度の計算になります。

開業予定は東山手ルートと同じ2031年度です。

臨海部ルートの運行系統

羽田空港~東京テレポート~新木場

羽田空港駅を出発すると、次は東京テレポート駅です。そのままりんかい線を走り新木場駅に到着します。

所要時間は、羽田空港~新木場間が約20分です。計算すると、羽田空港~東京テレポート間が13分程度、同~国際展示場間が15分程度になります。

開業後の運行系統は明らかになっていませんが、おそらく、りんかい線と同じ10両編成の列車が走ることになるでしょう。

りんかい線は、JR京葉線とも線路がつながっています。したがって、羽田空港アクセス線が京葉線に直通し、羽田空港から舞浜や海浜幕張に直通列車を走らせることも、設備のうえでは可能です。

ただし、JR線の間にりんかい線を挟むと、りんかい線の運賃を収受するのが難しくなります。そのため、京葉線直通列車を設定するには、JR東日本がりんかい線を買収するか、特別な運賃分配ルールを策定する必要があります。いずれも不可能ではないが、実現するかは見通せません。

西山手ルートの概要

羽田空港アクセス線西山手ルートは、東京貨物ターミナル付近で東山手ルートから分かれ、「東品川短絡線」を建設し、りんかい線に合流します。合流地点は品川シーサイド~大井町間です。

大井町に停車し、そのまま大崎に至り、埼京線(山手貨物線)に乗り入れ、渋谷、新宿方面に向かいます。新宿から先は未確定ですが、埼京線または中央線方面への乗り入れが想定されます。

現時点では事業着手に至っていません。着工時期も開業予定も未定です。着工するにしても、東山手ルートの開業後の事業着手となるでしょう。

西山手ルートの運行系統

羽田空港~大井町~大崎~渋谷~新宿~池袋、大宮、中野、立川方面

羽田空港駅を出発すると、次は大井町駅です。そのままりんかい線、埼京線を走り渋谷駅、新宿駅に到着します。

所要時間は、羽田空港~新宿間が約23分です。羽田空港~渋谷間が18分程度、同~池袋間が29分程度になります。

西山手ルートは、埼京線乗り入れが基本になるとみられます。ただ、中央線方面への乗り入れ構想もあり、中央線特急「あずさ」「かいじ」の羽田空港乗り入れを求める声もあります。

JR羽田空港アクセス線の沿革

東海道貨物線を使った羽田空港アクセス線構想は、2000年の運輸政策審議会答申第18号(第18号答申)で初めて具体的に示されました。同答申では、「東京臨海高速鉄道臨海副都心線(現りんかい線)の建設及び羽田アクセス新線(仮称)の新設」として、東京テレポート駅から東京貨物ターミナル駅を経て羽田空港に向かう路線を取り上げています。

このときは、「今後整備について検討すべき路線」という「B路線」の扱いでした。「大崎方面からの直通ルートについても併せ検討する」とも添えられました。

同答申では、同じくB路線として「東海道貨物支線の旅客線化等及び川崎アプローチ線(仮称)の新設」も取り上げられ、品川駅および東京テレポート駅から浜川崎駅や桜木町駅に向かう途中に羽田空港口駅を設け、羽田空港への連絡を図ることが盛り込まれていました。

しかし、これらの計画については、永らく進展がありませんでした。

転機となったのは、2013年10月29日にJR東日本が発表した『グループ経営構想V(ファイブ)「今後の重点取組み事項」について』という中期経営計画です。この経営計画に「今後の羽田空港の利用客増加を見据えた、空港アクセス改善策の検討」が盛り込まれています。JR東日本が、羽田空港への鉄道新線について整備の検討に入ることを宣言した形です。

2014年8月19日に開かれた、国土交通省交通政策審議会の「東京圏における今後の都市鉄道のあり方に関する小委員会」で、JR東日本は羽田空港アクセス線の計画を正式に公表しました。同時に、この計画に関連して、東京都が保有している東京臨海高速鉄道(りんかい線)の株式をJR東日本が買収する意向も示しました。りんかい線をJR東日本に組み込み、京葉線と直通運転させる意向を表明したことになります。

2015年7月10日、東京都は『広域交通ネットワーク計画について≪交通政策審議会答申に向けた検討のまとめ≫』を公表。そのなかで、羽田空港アクセス線は整備効果が高いとして「整備について優先的に検討すべき路線」のひとつと位置づけられました。これにより、東京都としては明確にJR羽田空港アクセス線の建設を促進する態度を表明したことになります。

2016年4月20日、交通政策審議会の「東京圏における今後の都市鉄道のあり方に関する小委員会」は『東京圏における今後の都市鉄道のあり方について』(答申198号)をまとめ、国土交通大臣に答申しました。そのなかで、JR羽田空港アクセス線は「国際競争力の強化に資する鉄道ネットワークのプロジェクト」に位置づけられました。これにより、国交省としてもJR羽田空港アクセス線の建設にお墨付きを与えたことになります。

2018年7月には、JR東日本は、羽田空港アクセス線の開業時期を「早ければ2028年」と公表しました。2019年5月には、JR東日本が「環境影響評価調査計画書」を東京都に提出。同31日に公表されました。2021年1月21日に鉄道事業許可がおり、2023年3月24日に工事施行認可を受けました。

これを受け、2023年4月4日に、JR東日本は、羽田空港アクセス線の東山手ルート・アクセス新線について「本格的な工事」に着手することを宣言。同時に、開業目標を2031年度と2年後ろ倒しにしたことを明らかにしました。2023年6月2日に起工式をおこなって、工事に着手しています。

JR羽田空港アクセス線データ

JR羽田空港アクセス線データ
営業構想事業者 JR東日本
整備構想事業者 JR東日本
路線名 羽田空港アクセス線(仮称)
区間・駅 東山手ルート:東京貨物ターミナル-田町駅付近
西山手ルート:東京貨物ターミナル-大井町駅付近
臨海部ルート:東京貨物ターミナル-東京テレポート駅付近
アクセス新線:東京貨物ターミナルー羽田空港
距離 7.4km(東山手ルート) 5.0km(アクセス新線)
想定輸送密度 3.8万人
総事業費 2800億円(東山手ルート)
費用便益比 1.1
累積資金収支 18年
種別 第一種鉄道事業
種類 普通鉄道
軌間 1067mm
電化方式 1500V
単線・複線 複線
開業予定時期 2031年度(東山手ルート、臨海部ルート)
未定(西山手ルート)
備考

※想定輸送密度、費用便益比、累積資金収支は『鉄道ネットワークのプロジェクトの検討結果』(2016年)による。

JR羽田空港アクセス線の今後の見通し

JR羽田空港アクセス線の開業時期は、東山手ルートと臨海部ルートが2031年度とされています。

西山手ルートの開業時期は未定です。西山手ルートは、深い地下にトンネルを掘らなければならないため、工事の難易度はやや高そうです。

JR東日本が本気になって取り組んでいる事業ですし、3路線とも土地収用などの問題も少ない臨海部の路線ですので、着手すれば大きな問題もなく開業できるのではないでしょうか。

西山手ルートの開業時期は気になりますが、JR東日本は東山手ルート開業後の着手を示唆していますので、全線開業は2040年以降になるかもしれません。