JR山田線のきっぷで「106バス」利用可に。実証実験のゴールはどこに?

1年間の利便性向上施策

JR山田線のきっぷで「106バス」を利用できる実証実験を行います。JRきっぷでバスに乗れるという施策ですが、そのゴールはどこを見据えているのでしょうか。

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JRのきっぷでバスに乗れる

JR山田線は盛岡~宮古間を結ぶ路線です。2024年4月1日より、JRの同線内のきっぷを有する場合、並走する岩手県北自動車の「106バス」(106特急、106急行)を利用できるようになります。利便性向上施策の実証実験です。

この施策により、山田線の盛岡~宮古間(上盛岡駅、山岸駅、上米内駅を除く)を有効区間とするJR線の乗車券類を持っている場合、JR線と「106バス」のどちらにも乗車できます。

対象となるきっぷは、普通乗車券、定期券、回数券のほか、発着区間が記載されている割引きっぷです。往復割引、ジパング倶楽部割引、大人の休日倶楽部割引などは対象です。フリーきっぷは対象外です。「大人の休日倶楽部パス」や「青春18きっぷ」では利用できません。

JR線のきっぷで「106バス」に乗る場合、乗車時・降車時に運転手にきっぷを提示します。106バスの乗車券で、JR山田線に乗ることはできません。JRきっぷで県北バスが利用できるという、片務的な施策です。

山田線
画像:JR東日本プレスリリース

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JRとバスの比較

ここで、JR山田線と106バスを、盛岡~宮古間で比較してみましょう。

山田線の盛岡~宮古間直通列車が1日4往復に対し、106バスは12往復です。バスは日中時間帯におおむね1時間おきの運転です。

所要時間は、JR快速リアスが約2時間20分、普通が約2時間30分。106特急は1時間40分、106急行は2時間15分です。

運賃は、JRが1,980円に対し、106バスは2,200円です。106バスは3月1日に運賃値上げを実施しており、同時に特急と急行の運賃を統一しました。

まとめると、所要時間や運転本数ではバスが圧勝で、運賃はJRが少しだけ安い、という形です。

この状況で、JRのきっぷで106バスに乗れるとなれば、バスの割引きっぷになってしまうかもしれません。ただ、106バスには各種割引きっぷがありますので、必ずしもJRきっぷによる乗車が安いわけではありませんが。

山田線106共通時刻表
画像:JR東日本プレスリリース

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徳島、広島に前例

鉄道のきっぷでバスにも乗車できる施策は、徳島県の牟岐線阿南~阿波海南間や、広島県の芸備線広島~備後庄原間で例があります。

牟岐線は「鉄道とバスの共同経営」、芸備線はバスとの共通乗車券という位置づけで行われています。それに対し、今回はJRのきっぷでバスに乗れるだけです。

山田線の施策が片務的な理由は定かではありませんが、この区間はバスのほうが圧倒的に便利なので、鉄道とバスの「双務的」な共同運行にしても、バスチケットで鉄道に乗る人は限られるという実態を考慮したのかもしれません。

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集中工事への対応か

さらに、「山田線昼間集中工事」の実施という事情もあります。

JR山田線では、4月以降の平日に集中工事を実施する予定で、9時から16時頃まで列車を運休します。現時点で、6月までに42日間の実施が決まっていて、振替輸送先として106バスが指定されています。

となると、今回の施策は、振替輸送を発展させて「無条件に乗っていい」という形にしたとも解釈できます。

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輸送密度79

実証実験の終了は2025年3月31日を予定しています。JRでは、実証実験の結果を踏まえて本格的な運用について検討する方針です。

山田線の2022年度の輸送密度は、全線平均で79です。上米内~宮古間に限れば64で、鉄道を維持する意味が問われる水準になっています。

この施策が期間限定で終わるのか、双務的な共同運行に発展するのか、あるいは別の形になるのか。そのゴールは、現時点では何ともいえません。ただ、路線を今後も残すのであれば、きちんとした方針を示さなければならない段階に来ていることは確かでしょう。(鎌倉淳)

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