東急電鉄が新たな中期経営計画を策定しました。東横線でのワンマン運転や、有料着席サービス「Qシート」の拡充などをうたっています。内容を読み解いて行きましょう。
中期経営計画と新事業戦略
東急電鉄が中期3か年経営計画を策定し、それに基づく新事業戦略を公表しました。
中期経営計画で示された鉄道部門に関する施策のうち、利用者に直接関わる内容として挙げられたのは、ワンマン運転の拡大、需要動向の変化を捉えた運行ダイヤの適正化、東急新横浜線開通、有料着席サービス等のメニュー拡大、ユニバーサルなサービスの進化などです。
また、新事業戦略では、車両の増結・増備、適正なダイヤ設定、有料着席列車の導入などを掲げました。内容を順にみていきましょう。
東横線でワンマン運転
まず、「ワンマン運転の拡大」ですが、新事業戦略によりますと、実施を計画しているのは東横線です。乗り入れ先のメトロ副都心線では、すでにワンマン運転を実施していますので、東横線車両はワンマン運転に対応済みです。
東横線はホームドアもすでに全駅で整備が完了していることから、ワンマン化の環境は整いつつあるとみられます。中期経営計画の期間は2023年度までなので、近い将来に東横線のワンマン運転が実施される可能性は高そうです。
減便と終電繰り上げ
次に、「運行ダイヤの適正化」についてです。こちらも新事業戦略に方針が示されていて、運行本数の適正化や終電時刻の繰上げを行うとしています。
東急は2021年3月のダイヤ改正で、田園都市・大井町線系統を中心に運行本数削減や終電繰り上げを実施しましたが、さらなる適正化、つまり減便をするということでしょう。
ダイヤ改正の具体的な内容は発表されていませんが、田園都市線・大井町線系統は、減便を含む大規模な改正をしたばかりですから、今後3年間で対象になるのは、東横線・目黒線系統でしょう。
中期経営計画期間中の2022年度下期に東急新横浜線が開業し、相鉄線直通を開始することから、これにあわせたダイヤ改正において、東横線・目黒線系統で「運行本数の適正化」を実施する可能性が高そうです。
渋谷~新横浜30分
その東急新横浜線ですが、日吉~新横浜間の新線で、相鉄線と直通運転します。2022年度下期開業予定で、新事業戦略では「開業効果の最大化」を図るとしています。中期経営計画によりますと、渋谷~新横浜間が約30分で結ばれ、現在の菊名乗り換えより11分短縮されるとのことです。
この渋谷~新横浜間が「30分」という所要時間は気になります。現在、渋谷~日吉間は日中時間帯で急行が約19分、各停で約26分です。新横浜線の日吉~新横浜間は5.8kmで、途中1駅。各停でも5~6分で着くでしょう。となると、渋谷~新横浜間は日中時間帯の急行で約25分、各停で約32分程度の所要時間と予測できます。
また、11分短縮されるとのことですが、現状でも渋谷~新横浜間は、東横特急利用なら、乗り換え時間を含めても30分程度です。
要するに、「渋谷~新横浜30分」で、「11分短縮」は、日中時間帯の優等列車とすると計算があいません。となると、各停前提に思えます。現在の菊名折り返しの各停をそのまま新横浜線に移せば、渋谷~新横浜が30分程度になりますので、計算があいます。つまり、相鉄線直通の東横線列車は、各停が中心になるということでしょうか。
一方で、相鉄は東急線直通用に10連の20000系を用意していて、相鉄直通の東横線優等列車が設定されることを示唆しています。少なくとも、朝夕のラッシュ時間帯には、相鉄直通急行が設定されそうです。朝の上り急行なら、渋谷~新横浜間が30分程度になりそうなので計算があいます。
新空港線の早期実現
新事業戦略では、「新空港線の早期実現」も図るとしました。東急蒲田駅と京急蒲田駅を連絡する新線計画で、大田区が強く推進しています。矢口渡駅付近から多摩川線を地下化し、東急蒲田地下駅、京急蒲田地下駅に至り、将来的には大鳥居駅で京急空港線に乗り入れる構想もあります。
事業化は決定していませんが、新空港線を推進する姿勢を、東急電鉄として明確にしたといえます。今後3年間で、着工へ向けた動きが起こるかもしれません。
Qシート拡充
注目度が高いのは、「有料着席サービス等のメニュー拡大」でしょう。現在、東急での有料着席サービスは、東横線で週末のみ運転している全車指定の「S-TRAIN」と、大井町線の着席サービスである「Qシート」の二つです。これをどう「拡大」するのでしょうか。
東急電鉄の2021年度設備投資計画によりますと、Qシートについて、「実績などをふまえて、他路線への展開など、サービス拡充の検討を深めていきます」とのことです。他路線に拡充する場合、候補となるのは田園都市線、東横線、目黒線でしょう。
もっとも導入しやすそうなのは、8両化が予定されている目黒線でしょうか。増備車両のうち、1両をQシートにするという方法が考えられます。実現すれば、相鉄線から都心へ通勤する遠距離利用客には人気を博しそうですし、新横浜駅で新幹線に乗り換える旅行者にも便利そう。ただし、乗り入れ先のメトロ南北線や都営三田線との調整が必要になるでしょう。
一方、中期事業戦略で示された図では、「有料着席サービスの拡充」は、東横線の日吉~横浜間の下に記されています。これをそのまま受け止めるのなら、東横線での有料着席サービス拡充とみるのが自然です。
東横線の場合、すでに週末に「S-TRAIN」を運転しているので、これを平日にも運転して通勤ライナーにするという選択肢もあります。その場合は、東横線にもクロスシートとロングシートの両方で運転できるデュアルシートの新型車両が必要になりそうですが、現状では何の発表もありません。
2020系投入完了へ
田園都市線系統については、2020系を2021年度に9編成投入し、2022年度に投入完了するとしています。2020系は8500系の置き換えなので、予定通りなら、8500系は、あと2年以内に田園都市線から姿を消しそうです。
また、新事業戦略で、田園都市線地下区間の各駅リニューアルの推進が記されています。池尻大橋、三軒茶屋、駒沢大学、桜新町、用賀の各駅で、駅施設の改装がおこなわれるようです。
田園都市線の用賀~二子玉川間では、折り返し運転施設の増設工事をおこなっており、2021年度中に運用を開始します。完成すれば、渋谷駅~二子玉川駅間で列車の折り返し運転が可能になるほか、二子玉川~中央林間間での折り返し運転についても、運行本数を増やすことができます。輸送障害発生時の支障区間を最小限にする効果が期待できます。
目黒線の奥沢駅では、南北をつなぐ連絡デッキを整備していて、2021年度末に供用開始予定です。また、上り線を改修し、新たな待避線を整備しています。
現状の目黒線では、武蔵小山駅でしか急行の待避ができないので、奥沢駅に待避線ができれば、朝ラッシュ時に急行列車の速達性が向上します。東急新横浜線開業までに完成が予定されています。
ユニバーサルサービス
ユニバーサルなサービスについては、これまで通勤・通学需要に注力していた姿勢から、あらゆる利用者が快適に利用できるサービスを目指すとしています。
具体的には、「便利な定期施策等の検討」「モバイル端末でのPASMOの推進」「キャッシュレス、ゲートレスの推進」「駅通信設備の整備」「段差に配慮した駅空間」「属性や要望に合わせた経路の案内」「子育て世代、高齢者の負担軽減施策」が掲げられています。
2021年度の設備投資では、ホームと車両床面の段差・隙間の縮小や、目黒線車内に液晶モニタを施設する工事が記されています。今後の具体策は記されていませんが、駅構内のWi-Fiの整備なども実施されそうです。
運賃値上げへ
最後に、運賃の話です。東急は2020年度の輸送状況で、運賃収入が30%減少。とくに、定期券利用者の落ち込みが他社より多く、テレワークなどの定着により、今後も以前の水準には戻らないとしています。
そのため、東急は、新中期事業戦略に「運賃改定についても検討」と明記。値上げを示唆しました。具体的な値上げ幅は未発表ですが、各社報道によると、初乗りで10円程度の値上げが想定されているようです。
東急の運賃水準は低いため、受け入れられやすいとは思いますが、利用者にとっては、運行本数削減の上に値上げとなれば、厳しい話となりそうです。(鎌倉淳)