新千歳空港駅の大改造計画が動き出しそうです。複線化のうえ、駅位置を移転、苫小牧・石勝線方面へ直通運転できるようになります。実現した場合、どのような効果が得られるのでしょうか。
(この記事は2018年5月3日に公開した内容を加筆・更新したものです。2018年の記事はこちら→新千歳空港駅「複線・直通化」で何が変わるか。JR・国交省が検討へ)
輸送力増強に迫られて
新千歳空港駅が開業したのは1992年。新千歳空港ターミナルビルのオープンにあわせて、南千歳~新千歳空港間2.6kmの新線が建設されました。以前の千歳空港駅(現・南千歳駅)から分岐する形でトンネルが掘られ、新千歳空港ターミナルの地下に1面2線が設置されています。
南千歳~新千歳空港間は単線で、行き止まりの盲腸線となっています。新千歳空港駅のホーム長が6両編成までしか対応していないこともあり、輸送力増強が難しく、増加する空港客をどう捌くかが課題となっていました。
千歳線本線のルート変更
この対応策として浮上したのが、新千歳空港駅の機能強化です。南千歳~新千歳空港間を複線化し、新千歳空港から苫小牧、帯広方面へ抜ける新線を建設、新千歳空港の盲腸線状態を解消するという、野心的なプロジェクトです。
北海道新聞2020年1月4日付によりますと、「現駅を千歳線本線に組み込み苫小牧側に貫通させるほか、石勝線ともつなぐ大規模改修の検討に着手」「複線化も検討」するという大がかりなもの。
千歳線本線のルートを新千歳空港駅経由に変更し、南千歳~新千歳空港~苫小牧を直通させることで、同線全列車が新千歳空港を経由することになります。また、石勝線の起点も南千歳駅から新千歳空港駅に変更されます。
道新によりますと、駅位置は「現在から数百メートル西側で、国際線ターミナルビル近くの地下に造る案が有力」とのことで、「新駅は2面4線以上とし、ホームの長さを現駅よりも延ばして現在の快速エアポート(6両編成)より長い列車も停車できるようにする」そうです。
具体的なホーム長はこれからの検討となるのでしょうが、将来的にクルーズトレインの発着も視野に入れるなら、10両程度には対応することになりそうです。
ルートはどうなる?
詳細な経路は未発表ですが、報道内容が事実とした場合、千歳線がどのように変わるかを考えてみましょう。
新線は苫小牧方面と帯広方面の両方向に伸びることから、新千歳空港駅からなるべく早く東へ向かい、旧美々駅(現・信号場)付近まで地下新線を敷くことが考えられます。
これを苫小牧方面への本線とし、途中で石勝線への路線を単線で分岐させ、南千歳~追分間にある駒里信号場付近で現石勝線に接続させるのが、合理的なルートでしょう。
工事内容としては、南千歳駅~新千歳空港駅に複線トンネルを新たに掘り、2面4線以上のホームを備える新・新千歳空港駅を建設します。さらに、新千歳空港~美々信号場付近へ複線トンネルを掘ることになります。
このルートの場合、新線は滑走路の地下を通ります。そのため、滑走路の強度に影響を及ぼさないよう、トンネルは深い位置を掘らなければなりません。そのため地下線の勾配は大きくなりそうで、貨物列車は新線を通さずに、旧線を活かしたままにすると予想します。
国策の側面も
新千歳空港駅の拡大は、国策の側面もあります。政府の観光戦略実行推進タスクフォースは、2018年2月の会議で、「鉄道分野におけるインバウンド受入環境整備について」という資料を公表しました。そのなかで、「外国人に人気の高い北海道における新たな鉄道旅行需要の創出」という項目で、新千歳空港駅整備の方向性を示しています。
同資料では、まず「JR北海道の線路を開放して、外部事業者を国内外から公募し、多様な観光列車を運行させる仕組みを検討」するとしました。マレー半島の「オリエンタルエクスプレス」のような形で、外資が運営するクルーズトレインなどを受け入れる姿勢を示したわけです。
そうした国策に対応するには、北海道の玄関口である新千歳空港駅の機能強化は不可欠です。機能強化された新千歳空港駅は、当然、クルーズトレインが停車できなければならないでしょう。実際、同資料では、「新千歳空港の改修等により、空港アクセス路線のインバウンド向けサービスを改善」すると明記しています。
2020年8月に予定されている、東急の「ロイヤルエクスプレス」の北海道運行も、こうした流れの延長線上にあるとみられます。新千歳空港は2020年に民営化されますが、空港運営権を獲得した「北海道エアポートグループ」には東急も参加しており、新千歳空港に観光列車が停まれるような機能強化には前向きでしょう。
空港整備勘定を活用
問題は建設費で、総事業費は1,000億円規模になると見積もられています。数キロの新線としては高額です。経営難のJR北海道には、1,000億円を負担するほどの投資余力はありません。
そこで、国の特別会計である「空港整備勘定」の活用が考えられています。
先に少し触れましたが、新千歳空港をはじめとする北海道7空港は2020年に民営化され、北海道空港(HKK)を中心とする企業連合である「北海道エアポートグループ」が運営にあたります。同グループは運営権の対価として2,920億円を国に支払う予定で、このお金が空港整備勘定に繰り入れられます。
空港整備勘定は、文字通り空港の整備や、その運営の円滑化を図ることなど目的としている予算で、本来は鉄道整備に使われるお金ではありません。しかし、北海道の空港運営権で得た収入を原資とするならば、新千歳空港駅の機能強化に使ったとしても、理解が得られやすいということでしょう。
道新は費用負担について、「新駅や路線改修の具体的な内容、HKK連合を含めた費用負担のあり方などについて今後協議を進める」としています。
札幌へ特急でアクセス可能に
新千歳空港駅を千歳線本線に組み込む「直通化」構想は、駅建設時に検討された経緯があります。しかし、工費節約のため、現在のような単線の6両ホームという貧弱な設備になりました。
したがって、今回の直通構想はJR北海道にとっては悲願であるともいえます。そして直通構造にしたほうが、空港駅の能力を高められるのは間違いありません。
では、本当に新千歳空港経由が本線化された場合、利便性でどのような変化が起こるのでしょうか。
最大の変化は、函館、室蘭、帯広、釧路方面の特急列車が、すべて新千歳空港駅を経由するということです。「北斗」「すずらん」「おおぞら」「とかち」といった優等列車が、すべて新千歳空港駅に停車します。
これにより、道南、道東方面から、新千歳空港アクセスの利便性が向上するでしょう。
旧ターミナル時代の状況に
さらに大きな効果として、新千歳空港から札幌駅へ、特急列車でのアクセスが可能になるという点が挙げられます。
特急の所要時間は快速「エアポート」と大きく変わりありませんが、利用者は着席サービスを求めやすくなりますし、JR北海道は特急料金分の増収が見込めます。
札幌~苫小牧間の普通列車も空港経由になりますので、現状のダイヤをそのまま当てはめても、札幌方面へ毎時7~8本の特急・快速・普通列車の設定が見込めます。現状は毎時4本ですから、ほぼ倍増といっていいでしょう。
増発なしで、札幌と新千歳空港のアクセス列車を増やせるのですから、JR北海道にとって大きなメリットがあります。新千歳空港駅の容量が劇的に増えるので、たとえば千歳発着の普通列車を新千歳空港まで延ばすといった、あまりコストのかからない増発もしやすくなります。
そもそも、空港ターミナルが現位置に移転する前の千歳空港駅(現・南千歳駅)は千歳線本線上にあり、石勝線の分岐駅でした。当時は、快速「エアポート」はなく、特急列車が札幌への高速アクセスを担っていました。その状況に完全に戻るわけではないでしょうが、特急が空港輸送に復帰するわけです。
そのほか、国内外の資本の観光列車やクルーズトレインが、新千歳空港に乗り入れることも予想されます。飛行機で新千歳空港に到着し、そのままクルーズトレインに乗って道内各地を周遊する、といった観光ルートが開発されることでしょう。
2030年までの開業へ
気になる開業時期ですが、道新では、「北海道新幹線札幌延伸前の2030年までの完成を目指したい」と記しています。
工事の規模からしても、事業化決定から開業まで少なくとも7、8年程度の期間は見ておく必要がありそうで、2030年というのは現実的です。ちなみに、いまの新千歳空港駅は、事業免許申請から開業まで約5年かかりました。
2030年は、札幌市が冬季オリンピック・パラリンピックの誘致を進めている年でもあります。決定すれば、オリ・パラ前に新幹線開業を前倒しすることになるでしょう。北海道新幹線開業、新千歳空港駅拡張開業、オリンピック開催となれば、北海道にとっては特別な年となりそうです。(鎌倉淳)