三陸鉄道の「南リアス線」と「北リアス線」が一体化する可能性が出てきました。JR東日本が、同社の山田線の宮古~釜石間55.4kmの三陸鉄道への譲渡を提案したためです。同区間は東日本大震災の津波被害を受けて運休中。これをJRが復旧させたうえで、三陸鉄道に無償で譲渡する、という内容です。実現すれば、三陸鉄道が盛~久慈間で一本につながる「南北統一」となり、運営が一体化されます。
JRが会議で提案
この譲渡案は、2014年1月31日に開かれた「山田線復興調整会議」で、JR東日本が提案しました。この会議は、東日本大震災で被災し運休が続く山田線の宮古~釜石間の復旧について議論する会合です。JR東日本はこの区間について三陸鉄道に事業を移管し、三陸鉄道が同区間を運営する案を提示しました。三陸鉄道は山田線の運休区間の南北に接続する形で南リアス線と北リアス線を運行しており、運休区間を譲渡すれば、全区間を一体経営できます。三陸鉄道も被災しましたが、北リアス線と南リアス線は4月に全線復旧する予定です。
被災した線路や駅舎を復旧
JR東日本が示した譲渡案によると、被災した線路や駅舎をJRが復旧させ、運行事業を三陸鉄道に、線路などの鉄道施設を三陸鉄道と沿線4市町にそれぞれ無償で移管します。運営形態は運行と施設保有を分ける「上下分離方式」で、これは三陸鉄道の南北各リアス線と同様です。
被災区間の復旧には、JR東日本の試算で140億円が必要で、さらに復興まちづくりに伴うかさ上げや移転費が70億円かかり、計210億円に上るとのことです。JRは、原状回復に必要な140億円を負担し、70億円は国に負担を求めます。
JR東日本は、譲渡後数年間の運営赤字補填なども検討していますが、今回の会議ではその詳細説明には至りませんでした。実際に事業が移管されると、自治体は維持管理費などの負担が増えることになりますし、赤字補填終了後の運営の見通しも立てなければなりません。地元自治体としても、そう簡単に合意するというわけにはいかないでしょう。
JRとしてはかなりの譲歩
とはいえ、この提案はJR東日本としてはかなり譲歩したものになっています。そもそも、復旧させたところで営業赤字が確実な区間です。JRも上場企業である以上、赤字を生むための事業に140億円も投じることはできません。そのため、JRはかねてからこの区間については、BRT(バス高速輸送システム)による復旧を提案してきました。しかし、それを地元が拒否してきた、という経緯があります。
今回の提案では、140億円を払うことで、JR東日本はこの区間から手を引くことができます。140億円は事実上の「寄付」になってしまいますが、JRとしてはギリギリ株主に説明できる範囲と考えたのでしょう。140億円もの金額を出すという点で、JRは大きな譲歩を決断したと評価できます。
地元負担なしで鉄道復旧
地元としては鉄道の復旧を要望していたわけで、それを地元負担なしで実現できるのですから、その点は大きなメリットです。ただ、将来的に三陸鉄道を地元が支え続けなければならないわけですから、手放しで喜べる提案でもありません。地元が提案を受けるかどうかは、まだ不透明です。
しかし、筆者はこの提案は実現すると考えています。というのは、JR、地元、三陸鉄道の3者のいずれにとっても合理性があるからです。JRは「手切れ金」140億円あまりで赤字区間から手を引くことができます。地元は負担なしで鉄道を復旧させることができます。三陸鉄道は南北リアス線の一体経営ができるようになります。三者にとって、受け入れられる何らかの合理性があります。
最終的に地元は受け入れか
もちろん、3者に不合理性も残ります。JRにとっては、140億円という金額は手切れ金と考えても巨額であること。地元としては、将来の三陸鉄道の運営負担のリスクが発生すること。三陸鉄道としては、沿線人口が減って赤字が見込まれる宮古~釜石間を運営しなければならなくなることです。
ただ、一方的に損をする立場がいないことと、JRがサプライズといえるような巨額負担に応じたことから、最終的にはこの提案を地元は受け入るのではないでしょうか。
もし地元が受け入れれば、三陸鉄道は盛~久慈までが一体化され、いまよりは柔軟な営業施策を採ることができるようになりますし、それは旅行者にとっても悪くない話です。この提案をベースに三陸の鉄道が再び一本で結ばれ、多くの旅人が訪れる日が来ることを願いたいものです。