JR桜島線の夢洲延伸と、京阪中之島線の九条延伸が、実現に向け一歩を踏み出しました。大阪府市が発表した試算で、費用便益比と収支採算性が、建設の基準を満たすことが明らかになりました。延伸は実現するのでしょうか。
答申路線と検討路線
大阪府と大阪市が、夢洲アクセス鉄道に関する検討について、試算を公表しました。
試算の対象となったのは、1989年の運輸政策審議会答申第10号に記載された北港テクノポート線と中之島新線延伸のほか、新たな検討路線と位置づけられたJR桜島線延伸と、京阪中之島線延伸です。
【答申路線】
・北港テクノポート線(新桜島~舞洲~夢洲)4.3km
・中之島新線延伸(中之島~西九条~新桜島)6.7km
【検討路線】
・JR桜島線延伸(桜島~舞洲~夢洲)4.9km
・京阪中之島線延伸(中之島~九条)2.1km
概算事業費は、「答申路線」が約3,700億円、「検討路線」は約3,510億円と試算しました。検討路線のうち、JR桜島線延伸が約2,850億円、京阪中之島線延伸が約660億円です。
検討路線が優位
輸送人員は、答申路線が1日69,100人、検討路線は121,000人と想定しました。検討路線の内訳は、JR桜島線が94,400人、京阪中之島線が30,000人です。
費用便益比は答申路線が0.7~0.8、検討路線は1.1~1.2で、JR桜島線延伸が1.0~1.3、京阪中之島線延伸が1.1~1.2です。また、収支採算性は、答申路線では40年以内の黒字転換ができない一方、検討路線はいずれも概ね良好とされました。
結論として、費用便益分析と収支採算性に関する試算のいずれにおいても、JR桜島線と京阪中之島線延伸は鉄道新線の建設基準を満たし、答申路線よりも優位であることが確認できました。
整備効果
JR桜島線の整備効果としては、新大阪駅と夢洲駅を直結することにより、広域交通のハブ拠点から国際観光拠点へのアクセスが向上することを挙げています。また、USJとの直結により、一大観光拠点を形成できるとしています。開業すれば、新大阪~夢洲間が25分、大阪~夢洲間が20分、夢洲~桜島間が6分で結ばれます。
京阪中之島線の整備効果としては、京阪本線から中之島や大阪臨海部をつなぐ東西軸を形成し、都市機能を強化できるほか、神戸方面へのネットワークを強化できることも挙げています。開業すれば、中之島~夢洲間が九条での乗り換えで22分、祇園四条~夢洲間が同78分で結ばれます。
建設基準を上回る
今回の試算は、30年以上前の運輸政策審議会の答申区間と比較して、新たな検討区間に優位性があることを示すことが、目的のひとつのようです。言葉を換えれば、過去の答申路線を覆し、現在必要な区間を建設するための理由付けとなるものです。
そのなかで、JR桜島線と京阪中之島線延伸のそれぞれで、費用便益比と収支採算性の数字が建設基準を上回ったことが注目点といえます。とくに、利用者数が伸び悩んでいる京阪中之島線について、延伸に着手できる可能性が高まったのは、大きなポイントといえます。
概算事業費の疑問
概算事業費についてみてみると、キロ当たり単価が、JR桜島線の581億円に対し、京阪中之島線が314億円と、やや低めに見積もられているのが気になります。東京メトロ有楽町線住吉延伸(560億円)や南北線品川延伸(524億円)と比べても低いです。
海底トンネルで深い位置を掘る桜島線に比べて、中之島線の工事費が安いのはわかるとしても、都心部の地下新線がこの価格でできるのか、という疑問は残ります。
2008年に開業した天満橋~中之島間3.0kmが、総事業費1307億円、キロ当たり435億円でしたので、それより低い数字です。駅の建設費が少ない(九条駅のみ)といった要因もあるのでしょうが、そんなに安く作れるのか、という気もします。
資料には、概算事業費ついて「鉄道事業者からの提供情報を基に一定の前提の下で試算した消費税等を除いた概算値で、車両費を含まない」とあるのみです。

また、便益については、中之島線は「乗換利便性の向上等」が最も大きな要因になっています。京阪線沿線から、臨海部方面だけでなく、神戸方面とのアクセス向上も便益に貢献しているようです。ただ、どれほどの人が、中之島線経由で臨海部や神戸に向かうのか、という疑問もあります。
利用者数の想定
利用者数については、JR桜島線が9万人以上を見込んでいるのが目を引きます。東京メトロ南北線品川延伸の見込みが7万人程度ですので、それを上回る数字です。
似た路線として、りんかい線やみなとみらい線が、それぞれ約20万人ですので、その半分程度です。ポートライナーが7.5万人、ゆりかもめが12万人くらいですので、近い数字です。
京阪中之島線は3万人程度です。既開業区間(天満橋~中之島)の利用者数は2万人台のようですので、新規開業により、数千人が上乗せされるとみているようです。
開発人口の想定
利用者数に関しては、臨海部の開発がどこまで進むのかに依存します。
開発人口をみてみると、夢洲の来訪人口を1日86,400人と見込んでいます。従業人口が、夢洲と舞洲を合わせても14,300人なので、夢洲への来訪客、すなわち統合型リゾート(IR)へ向かう観光客を、圧倒的に多く見積もっているわけです。

1日8万人規模というのは、大型テーマパーク2つ分くらいです。それだけの訪問客が来るのであれば、JR桜島線の9万人(片道4.5万人)という需要見積もりは過大とまではいえません。つまり、JR桜島線延伸に関していえば、夢洲IRが計画通りに集客できるかが、成否の鍵を握っているといっていいでしょう。
IRが計画通りに集客できなければ厳しい結果に終わるでしょうし、計画以上に賑わえば、採算性の高い路線ができるわけです。JR桜島線延伸は、鉄道の新規事業というよりは、IRの関連施設として捉えたほうが適切で、個別の費用対効果や採算性を計算することにあまり意味はなさそうです。いわば、IRと一蓮托生の路線で、一抹の不安も漂います。
京阪中之島線延伸の事情
京阪中之島線は、先ほども述べたように、延伸しても、1日数千人の利用増にとどまると判断しているようです。つまり、JR桜島線とは事情が違い、IR需要の取り込みは限られていると、現実的に判断していることがうかがえます。
それでも、九条まで延伸すれば、中央線を介して臨海エリアへ、阪神電鉄を介して神戸方面へとつながります。IR需要が限られていたとしても、メトロや阪神への乗り換え客が多少なりとも増えるのは確かでしょう。
京阪としては、IRを大義名分に、中之島線の盲腸線状態を解消し、利用状況を改善させる狙いが大きいのかもしれません。
2040年代の開業目指す?
ということで、JR桜島線と京阪中之島線では、同じIR関連路線といっても、性格はだいぶ異なるようです。IRに密接に関連しているのはJR桜島線です。京阪中之島線は、現状の惨状の救済が隠れた目的にも感じられます。
なんであれ、報道をみるかぎり、JR、京阪とも建設に前向きです。ただ、事業着手するにしても、近年の人手不足を考えれば、本格着手は、なにわ筋線建設工事終了後にならざるを得ないでしょう。となると、開業は早くても2040年代になりそうです。(鎌倉淳)