埼玉高速鉄道の岩槻延伸、ラストチャンスで実現するか。さいたま市が本腰

採算性は怪しいけれど

埼玉高速鉄道の岩槻延伸について、さいたま市長が、事業化へ向けた手続きに入る方針を示しました。人口減少へ向かうなか、延伸をするなら今がラストチャンスですが、実現するのでしょうか。

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鉄道事業者へ延伸要請

埼玉県さいたま市の清水勇人市長は、2021年6月14日の市議会6月定例会で、埼玉高速鉄道の岩槻延伸について、「2023年度中に鉄道事業者に対する要請を行い、4年の(市長)任期内のできるだけ早い時期に、鉄道事業者が国への申請手続きに入れるように努める」と述べました。市長が鉄道事業者への要請時期を具体的に表明したのは初めてです。

鉄道事業者が延伸を国に申請するには、事前に地元自治体が鉄道事業者に事業化を要請する手続きが必要です。埼玉高速鉄道の岩槻延伸の場合は、地元さいたま市が、埼玉高速鉄道に事業化要請をしなければなりません。その際に、整備期間や費用などを盛り込んだ計画素案を作る必要があります。

清水市長は「市としては、2023年度までに計画の素案を作成できるように、鉄道事業者や国などの関係機関との協議を行う」と表明。計画素案を2023年度までに作成する方針を明確にしました。

埼玉高速鉄道
画像:埼玉県

B/Cは1を超えるけれど

埼玉高速鉄道延伸計画は、浦和美園~岩槻間の7.2kmです。途中に中間駅を一つ設ける予定で、埼玉スタジアム近くにも駅の設置を検討しています。

2016年の交通審議会答申では「地域の成長に応じた鉄道ネットワークの充実に資するプロジェクト」と位置づけられました。それを受け、さいたま市では、「地下鉄7号線(埼玉高速鉄道線)延伸協議会」を設置。「沿線開発で人口が増加し、快速電車が運行された場合」に、費用便益比(B/C)が1を超えるとの結論を得ています。

その際の議論はこちらで記事にしましたが、正直なところ、そんなに人口が増えるのか、そもそも快速運行できるのか、という点からして、やや無理のある仮定に基づいています。ベーシックな仮定の試算ではB/Cが0.81にとどまり、実現は難しいのではないか、というのが筆者の認識でした。

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心配な面はある

ただ、無理のある仮定であっても、B/Cが「1」を超えたというのは錦の御旗になるようで、その後、さいたま市は延伸に向けて、県や埼玉高速鉄道などと協議を進めてきました。

試算では、事業費が総額860億円、県・市の負担合計はその3分の1の約300億円とされています。本当にこれだけの予算でできるのか、できたとして黒字になるのかは疑問が残るところですが、いよいよ、実現へ本腰を入れる姿勢を見せてきたといえます。

埼玉高速鉄道は、かつて事業再生ADRという私的整理で負債を処理したという過去があります。新線建設が、またも同社を経営難に陥らせないか、心配な面があるのは確かでしょう。

ただ、鉄道の価値は費用便益比や収支採算性だけで図られるものでもありません。7km路線を延ばせば、大宮地区と浦和美園地区が岩槻を経由して鉄道だけで結ばれます。このことに、さいたま市として意義を見いだすことは可能でしょうし、もちろん一定の利用者はいるでしょう。

人口減少が急速に進むことが確実な状況で、都市鉄道を延伸するなら、今がラストチャンスなのは確かです。さいたま市長の意気込みは、実を結ぶのでしょうか。(鎌倉淳)

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