沖縄縦貫鉄道で「整備新幹線方式」を検討。内閣府最新調査、B/Cに課題

物足りない内容に

沖縄縦貫鉄道計画の調査で、内閣府が2022年度の報告書を公表しました。新たな沖縄振興基本方針が決定して初めての報告書で、「整備新幹線方式を参考にした制度」について検討し、論点が整理されました。

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沖縄鉄軌道調査

内閣府では、沖縄本島に鉄軌道をはじめとする新たな公共交通システムを導入するための基礎調査(沖縄鉄軌道等導入課題検討調査)を2012年度から行っています。いわば、「沖縄縦貫鉄道」に関する調査ですが、その2022年度の調査報告書がまとまりました。

内容を紹介する前に、まずは、これまでの調査で固まったルート案(基本案)を振り返ってみます。

沖縄縦貫鉄道の想定区間は糸満市~名護市の約80kmです。那覇市と名護市を約60分で結ぶことを目標としています。

南の起点である糸満市から、那覇市、宜野湾市、沖縄市、うるま市を経て、西海岸の恩納村に転じ名護市に至る「本線」と、那覇空港へ分岐する「空港接続線」で構成され、本部町へ延伸する「北部支線軸」も検討されています。

那覇~普天間間では、国道330号線沿いの地下(ケース2・11)と国道58号線沿いの高架(ケース7)の2案があります。どちらのルートを採用するかについては決まっていません。

沖縄縦貫鉄道ルート図
画像:令和4年度 「沖縄における鉄軌道をはじめとする新たな公共交通システム導入課題詳細調査報告書」より
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費用対効果も採算性も悪く

これまでに検討された導入システムは多岐にわたります。普通鉄道のほか、トラムトレイン、スマートリニアメトロ、高速AGT、HSST(磁気浮上方式)、小型鉄道(粘着駆動方式)といった輸送機関が候補にあがっています。

しかし、いずれのシステムでも、建設による費用便益費(B/C)が鉄道新線の建設基準である「1」に遠く及ばない状況で、累積損益収支も赤字の見通しです。

費用対効果も収支採算性も悪く、どう工夫しても基準をクリアできないことから、調査は行き詰まりをみせていました。

新基本方針を受け

動きがあったのは、2022年です。政府が新たな「沖縄振興基本方針」を制定し、沖縄鉄軌道について新たな方針を盛り込みました。

その内容は、鉄軌道調査について「全国新幹線鉄道整備法を参考とした特例制度を含め、調査・検討を行う」というものです。この意味するところは、整備新幹線並みの手厚い補助制度を、沖縄縦貫鉄道に適用できないか検討をするということです。

2022年度の沖縄鉄軌道計画調査は、この新方針決定を受けて、「全国新幹線鉄道整備法に定める制度スキーム等について」の項目が加わりました。

いわば、行き詰まりを見せつつある沖縄縦貫鉄道調査について、新たな論点として全国新幹線鉄道整備法(全幹法)スキームを調査対象に加えたというわけです。

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全幹法を直接適用はせず

その調査報告書の内容を見てみましょう。

まず、大前提として、沖縄縦貫鉄道について、全幹法そのものを適用できるかについては、「実現性が低い」としています。

その理由として、全幹法が「全国的な鉄道網の整備」を目的としていることを挙げています。「全国の中核都市を有機的かつ効率的に連結するもの」(第3条)という趣旨で制定されていますので、沖縄縦貫鉄道は趣旨に合致しません。

そもそも、都市鉄道を想定する沖縄縦貫鉄道が「新幹線」である必要性もありませんから、全幹法を直接適用することができないのは当然でしょう。

計画主体と整備計画

検討すべきは、「全幹法の特徴や規定内容を参考」とした特例制度です。全幹法に類する制度を新たに設け、沖縄に鉄道を整備する場合の「制度上の論点・課題」を探ることが、調査の目的といえます。

最初に問題になるのが、「計画主体」です。これについては、「国鉄民営化後、都市鉄道については、民間・自治体等による整備が基本」としていて、国が計画主体となることには後ろ向きの表現となっています。

沖縄の鉄道新線を純民間資本というわけにもいかないでしょうから、基本的には自治体、つまり沖縄県が計画主体となることが前提になりそうです。

また、新幹線には「基本計画」や「整備計画」が定められていて、それに沿って建設が進められています。こうした基本・整備計画については、「沖縄単一県内の鉄軌道整備に必要かどうか、今後、更に調査・検討が必要である」という記述にとどめました。

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上下一体か上下分離か

建設スキームについては、「鉄道事業法、軌道法、全幹法のいずれにおいても、上下一体方式、上下分離方式のどちらも採用可能」としています。

営業主体と建設主体のあり方については「沖縄で営業主体・建設主体を担える者がいるかどうか等、今後、更に調査・検討していく必要がある」と課題を指摘しました。

要するに、上下一体であれ上下分離であれ、ゆいレール以外の鉄軌道が存在しない沖縄で、「鉄道運行を担える主体をどうするか」が課題と指摘したといえます。

建設スキーム

全幹法スキームによる整備新幹線方式と、それ以外の都市鉄道建設スキームの最大の違いは、建設費用にかかる国と自治体の負担のあり方です。

整備新幹線方式では、貸付料を除いた建設費を国3分の2、地方自治体が3分の1を負担します。

一方、都市鉄道では、国・地方自治体の負担は同額が基本で、残りは建設主体が自己調達し建設するスキームとなっています。おおむね国、地方自治体、建設主体が3分の1ずつとなることが多いです。

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貸付料

貸付料も大きなポイントです。整備新幹線の貸付料は、営業主体がその新幹線開業によって得られる 30年分の「受益」の範囲内です。30年間の受益の総額を、30で割った金額が、1年あたりの貸付料となります。

整備新幹線の「受益」とは「新幹線を整備した場合の収益-新幹線を整備しなかった場合の収益」で計算します。

しかし、沖縄の場合はJRの既存鉄道路線がないため、こうした考え方を直接当てはめることはできません。どのような方法や貸付料の考え方があり得るか、「今度の検討課題」としています。

B/Cに影響せず

運用上の主な論点・課題としては「全幹法による新幹線整備もB/Cをはじめとした事業評価を実施」していることを指摘したうえで、「新規事業のB/Cはすべて1以上」と確認しています。

さらに「仮に全幹法のように上下分離方式としてもB/Cには大きく影響せず、引き続きB/Cは課題」としました。国の補助率の大小によってB/Cに大きな影響はなく、整備新幹線方式であっても、B/Cが1を上回らないと事業化できないということです。

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予算確保

予算については、「現在の新幹線鉄道も予算制約等から順番待ち状態」として、整備新幹線方式にしたところで、すぐに予算が確保できるわけではないことを示唆しています。

「大都市圏の都市鉄道整備も予定される中で、沖縄鉄軌道等の費用便益比(B/C)には課題があるため、高い優先度をもって推進できるか」と、はっきり疑問を呈しました。

建設区間短縮も

今回の調査報告書には、整備新幹線関連以外で目新しい記述に乏しいのですが、あえて注目点を探すと、建設区間を短縮した場合の事業評価について試算をおこなっている点でしょうか。

これまでは、「糸満~名護間」で試算していましたが、今回の調査では、糸満~那覇間を建設しない「那覇~名護間」の試算も実施しています。

その結果は、旭橋~名護間を国道330号線ルートで結んだ場合、スマートリニアメトロで建設し、さまざまな費用削減策を講じれば、概算事業費は5,900億円で、B/Cが0.8になるというものです(下表検討5)。依然として1には届きませんが、やや現実感のある数字になっています。

一方、もう一つの指標である累積損益収支(採算性)は、40年間で5,690億円の赤字となっています。黒字化にはほど遠いですが、基本パターン(下表検討1)に比べれば、半額くらいにまで改善しています。

このとき、那覇~名護間の所要時間は快速で63分、那覇~うるま具志川間の所要時間は普通で34分です。

沖縄縦貫鉄道の試算
令和4年度 「沖縄における鉄軌道をはじめとする新たな公共交通システム導入課題詳細調査報告書」より
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沖縄県調査では1.0超も

那覇~名護間については、沖縄県も独自の調査でB/Cを算出しています。

2020年に公表された「沖縄鉄軌道費用便益分析に係る検証委員会資料」の調査結果(2019年度検討)によりますと、330号ルートで年間観光客数が1,350万人を超えた場合に、所得接近法で試算すると、B/Cが1.0を超えるとしています。

内閣府調査よりもB/Cが高く出ているわけです。

沖縄県鉄軌道調査
沖縄鉄軌道費用便益分析に係る検証委員会資料「費用便益分析結果について」(2020年)より

B/Cが異なる理由

沖縄県調査と内閣府調査でB/Cに大きな違いが出たのは、両者の試算の前提条件が異なるためです。

まず、内閣府調査では、年間観光客数を1,200万人と試算していますが、沖縄県調査では1,200万人のほか、1,350万人と1,400万人で調査しています。B/Cが1を超えたのは1,350万人以上です。

また、B/Cの分母となる便益のうち、時間価値には、時間と費用との関係を推定する「選好接近法」と、移動に要する時間の機会費用を労働時間(所得)の損失と考える「所得接近法」があります。

鉄道の新規事業のB/Cを試算する場合に使われる「鉄道プロジェクトの評価手法マニュアル」では、選考接近法を用いることになっています。したがって、内閣府調査では選考接近法を使用しているとみられます。

一方、沖縄県では、ゆいレール以外に鉄軌道がないという特殊事情を理由に両方の方式で試算し、所得接近法で計算した場合にB/Cが「1」を超えたと発表しています。選考接近法では、観光客が1,400万人でも「1」に届きません。

さらに、沖縄県調査では貨物車も便益に加えています。開業目標年度も異なります。こうした両者の試算の前提条件の違いが、結果の違いにつながっています。

そういう前提ではあるものの、沖縄県調査では、B/Cについては基準をクリアできる試算結果がでているわけです。

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収支採算性には触れず

ところで、整備新幹線スキームによる補助率の高さが威力を発揮するのは、収支採算性です。収支採算性の分析は、補助制度などの前提条件により、結果が異なるためです。

整備新幹線スキームによる高い国の補助が得られるのであれば、沖縄縦貫鉄道が収支採算性の課題をクリアできる可能性が出てきます。

したがって、内閣府調査でも、収支採算性がどういう結果になるのかが気になりましたが、残念ながら、整備新幹線スキームにおける収支採算性については、具体的な記述がありませんでした。

整備新幹線と全く同じ補助スキームで建設した場合、那覇~名護間の建設で採算性(累積損益収支)がどの程度になるのか、仮定の枠組みで構わないので、数字を見てみたかったところです。

物足りない内容

全体を通してみると、今回の内閣府調査の結果は、過去の調査の補足が多く、見るべき点はあまりありませんでした。すでに必要な調査はやり尽くしているので、重箱の隅をつつくしかないのでしょう。

新たなテーマとなった整備新幹線スキームについては、現状の制度説明に多くのページが割かれていて、論点整理の段階にとどまっています。

議論をするのは政治の役割で、調査としてはここまでなのかもしれませんが、物足りない調査報告にも感じられます。

最近の沖縄県内のバス、タクシー、レンタカーの不足状況や、観光客の急増、道路渋滞の激しさをみれば、沖縄での鉄軌道の必要性は高まっているといえます。本気で作る気があるのならば、調査ばかりしていないで、そろそろ動き出す姿勢をみせてほしいところです。(鎌倉淳)

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