丘珠空港の利活用を検討する委員会が報告書をまとめ、滑走路を1800m、2000mの2段階で整備することを提案しました。滑走路が1,800mに延伸された場合、丘珠空港はどう変わるのでしょうか。
札幌駅から5km
丘珠空港は、JR札幌駅の北東約5kmに位置する空港です。正式名称は「札幌飛行場」で、防衛省が設置管理し、民間機も利用できる共用飛行場です。1942年(昭和17年)に陸軍航空隊が飛行場を設置したことに始まり、1961年(昭和36年)に民間との共用飛行場となりました。
札幌中心部から近いため、潜在的な利便性は高いとみられています。しかし、滑走路長が1,500mと短いことや、施設規模が小さいこと、騒音問題などから、現在は十分に利活用されているとはいえません。
そのため、札幌市では、丘珠空港の活用策のための検討をすすめていて、有識者と市民委員による「札幌丘珠空港利活用検討委員会」を設置し、活用方法を議論してきました。その報告書がまとまり、2020年6月12日に公表されました。
滑走路の長さは
今回の報告書の内容を見る前に、経緯を振り返っておきます。丘珠空港の活用については古くから検討されていますが、最近では2016年に設置された北海道と札幌市による「丘珠空港の利活用に関する検討会議」において深く議論され、2018年に最終報告書がまとめられています。それについては「丘珠空港をどう活用するか。滑走路延伸など課題を整理」に詳細を書きました。ポイントとなったのは、現行1,500mの滑走路の延伸問題です。
滑走路を1,800mに延伸した場合、DHC8-Q400のような高性能ターボプロップ機のほか、ERJ-170/175といった70席クラスのリージョナルジェット機が通年就航可能となります。180席クラスのA320-200型機も就航可能ですが、無雪期に限られます。用地の問題については、1,800mに延伸する場合、滑走路を両方向へ延伸すれば大規模な支障物件移転をしなくてすみます。
滑走路を2,000mに延伸した場合、DHC8-Q400、ERJ-170/175が通年就航可能になるほか、B737-800型機も重量制限付きで通年就航可能となります。ただし、2,000mに延伸するには、大規模な支障物件移転が発生します。
要するに、1,800mでも2,000mでも、B737-800やA320-200といった180席クラスのポピュラーな機材の就航には支障があり、通年で問題なく飛べるのは70席クラスのリージョナルジェット機までです。そのため、2,000mにする意義はそこまで大きくなく、大規模な支障物件移転がない、1,800mが有望とみられていました。
この2018年3月の報告書を受けて、札幌市は2018年度に有識者、地域住民、空港関係者からなる「丘珠空港利活用検討関係者会議」を設置。滑走路延伸の必要性について「共通認識」を確認しました。つづいて同市が2019年度に設置したのが、「札幌丘珠空港利活用検討委員会」で、今回まとまったのは、その報告書です。
2,000mが望ましいが
前置きが長くなりましたが、「利活用検討委員会報告書」では、「滑走路の延伸」と「空港ターミナルエリアにおける機能充実の検討」の二つの提案がなされました。重要なのはもちろん、「滑走路の延伸」についてです。
報告書では丘珠空港の役割を「医療・防災機能」や「持続可能な発展・まちづくりを支える機能」としたうえで、「滑走路を延伸することによる空港機能の強化が必要である」と明記しました。
滑走路の長さについては、「1,800mとした場合でも前述の役割を概ね果たすことができるが、2,000mとした方がより将来の拡張性が大きくなる」とし、2,000mを推奨する一方で、「2,000mとした場合は事業量及び支障となる物件が多くなることから事業費が高くなり、また、工期が長くなる」との懸念も示しました。
結論として、「2,000mが望ましいと考えるが、一旦 1,800mで早期供用開始を目指し、残りは時間を掛けて 2,000mでの実現可能性を検証していくという 2ステップでの整備を国に要望していくことを提案する」としました。
2段階整備は実現するか
「まず1,800m、次に2,000m」という2段階整備を目標に掲げたわけです。と書けば聞こえはいいですが、「2,000m事業化はとても大変そうなので、とりあえず1,800m滑走を目指し、将来の延長の余地をわずかに残しておく」という、お役所的な結論にまとまったともいえます。
委員からは「1,800mにして、何年か後にこんな短いものを作って、という問題が起きないようにしてもらいたい」「滑走路に関する問題は、今回が最後の機会。利活用の問題の最後の機会なので、悔いが残らないよう 2,000mで決めた方がよい」という意見もありました。議事録を見ても2,000mを強く推進する委員がいて、議論をまとめるための「2段階提案」という結論にも感じられます。
実際問題、1,800m滑走路が実現した場合、それが完成形になる可能性は小さくありません。2段階整備論による「2,000m滑走路」は、将来の可能性としてゼロではない、という程度の話で、「限りなく断念に近い先送り」と見られても仕方ないでしょう。
ターミナルの機能充実は?
空港ターミナルエリアにおける機能充実については、多数の案が出ました。報告書では、「ターミナルビルに保育所やスーパー、イベント会場」「ターミナルエリアにパイロット養成学校、防災機能貯蔵庫、国際的な予防医療拠点や研究開発施設等」「栄町駅からロープウェイを整備」といった例が示されています。
報告書としての結論は曖昧で、「ターミナルエリア全体の建物施設群をまちづくりの一つの核とする」「空港アクセスとしての 2 次交通を、どう地域住民の利便性も含めて親和的に作り上げるか」について、「難しい面があるが少しずつどう実施していくことが出来るか、という検討を行っていく必要がある」という、腰の引けた表現にとどまっています。
丘珠空港の将来像
今後、札幌市では、これまでの議論を元に、「丘珠空港の将来像(案)」を作成した上で、空港周辺地域住民との対話を行い、将来像の取りまとめを行う予定です。これまでの議論の中身からみて、「2,000m滑走路という理想」を示した上で、「1,800m滑走路の整備」という現実的な方向性でまとまりそうです。
では、1,800m滑走路が実現したとして、どのような飛行機が就航可能になるのでしょうか。札幌市の資料から、もう一度おさらいしてみましょう。
DHC8-Q400の通年就航が可能になり、道内路線の機材大型化が期待できます。DHC8-Q400というのは、カナダ・ボンバルディア製の、高性能ターボプロップ機(いわゆるプロペラ機)で、70席程度です。
リージョナルジェットも通年運航可能になり、たとえばフジドリームエアラインズ(FDA)の静岡線で、ERJ-170による冬季運航が実現するかもしれません。
札幌市が示した「将来像の目安」では、1,800m滑走路が実現した場合、現行の最新機種・ATR42-600型機が1日24便(12往復)、Q400とERJが合わせて24便(同)程度の就航を見込んでいます。1日あたり最大72便(36往復)が就航可能で、年間旅客数は113万人、旭川空港クラスの規模になるとみています。
LCCは就航できるか
丘珠空港のような大都市圏の小さな第二空港は、LCC向けとも思えます。では、1,800m滑走路で、LCCの就航は可能になるのでしょうか。
LCCは180席クラスの航空機を使うのが一般的で、具体的にはA320-200型機か、B737-800型機を使う会社がほとんどです。
このうち、A320-200型機は、無雪期なら丘珠空港に就航可能になりますので、同機を使っているピーチやジェットスターは夏期スケジュールでは就航可能になります。一方で、B737-800型機は通年就航不可です。同機を使っているスカイマークは、滑走路が延長されても、新機材を入れない限り、丘珠空港に就航することはできません。
現実的には、通年運航できない空港にLCCが就航するとは考えづらいので、滑走路が1,800mになっても、ピーチやジェットスターを含めLCCの就航は期待薄でしょう。
LCC以外の本州路線については、北海道新幹線の札幌延伸が予定されているので、東北新幹線沿線の都市との路線に大きな期待は持てません。可能性があるとすれば、ERJを使った、関東甲信越以西の路線拡大でしょうか。つまり、FDAの定期路線拡大はありそうです。
丘珠空港の滑走路の1,800m延伸が本決まりになった場合、事業計画の決定から供用開始まで6年を見込んでいます。そのため、供用開始は早くても2020年代後半になりそうです。(鎌倉淳)