阿佐海岸鉄道、由利高原鉄道が健闘。ローカル私鉄輸送密度ランキング最新版

野岩鉄道は厳しく

全国のローカル私鉄の最新の輸送密度が公表されました。2021年のデータで、コロナ前に比べ、阿佐海岸鉄道と由利高原鉄道が利用者を増やしています。一方、野岩鉄道は半減です。ランキング形式で見てみましょう。

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輸送密度の低い50路線

国土交通省は鉄道統計年報の2021年度版を公表しました。全国の鉄道各線の輸送密度が掲載されています。

地方私鉄の路線について、輸送密度が低い順からランキングにしてみました。参考として、2019年度の数字も掲載し、新型コロナからの回復率もみてみます。

なお、鉄道統計年報は公開まで時間がかかるため、最新の数字が2022年度でないことにご留意ください。また、鉄道会社によっては、路線ごとの輸送密度が掲載されていないこともあり、その場合は会社全線の数字を表示しています。

阿佐海岸鉄道

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輸送密度ランキング2021年度版

前置きが長くなりましたが、輸送密度の低い私鉄路線ワースト50は、以下の通りです。

地方私鉄輸送密度ランキング2021年度
順位 路線名 2021年度 2019年度 回復率
1 南阿蘇鉄道 50 61 82%
2 秋田内陸縦貫鉄道 166 260 64%
3 紀州鉄道 178 205 87%
4 錦川鉄道 215 268 80%
5 阿佐海岸鉄道 225 135 167%
6 三陸鉄道 232 410 57%
7 わたらせ渓谷鐵道 238 375 63%
8 長良川鉄道 249 364 68%
9 野岩鉄道 262 540 49%
10 津軽鉄道 280 380 74%
11 由利高原鉄道 281 264 106%
12 いすみ鉄道 294 385 76%
13 明知鉄道 342 517 66%
14 若桜鉄道 344 383 90%
15 大井川鐵道 355 692 51%
16 山形鉄道 385 403 96%
17 弘南鉄道大鰐線 400 498 80%
18 道南いさりび鉄道 421 479 88%
19 会津鉄道 451 628 72%
20 北条鉄道 493 700 70%
21 富山地鉄立山線 510 872 58%
22 京都丹後鉄道 514 738 70%
23 東海交通事業城北線 520 540 96%
24 のと鉄道 538 735 73%
25 樽見鉄道 551 598 92%
26 銚子電気鉄道 558 593 94%
27 肥薩おれんじ鉄道 586 665 88%
28 天竜浜名湖鉄道 618 756 82%
29 平成筑豊鉄道 647 828 78%
30 土佐くろしお鉄道 658 848 78%
31 松浦鉄道 685 804 85%
32 くま川鉄道 708 1,104 64%
33 信楽高原鐵道 736 986 75%
34 小湊鉄道 739 1,073 69%
35 山万ユーカリが丘線 764 1,092 70%
36 岳南電車 764 1,004 76%
37 井原鉄道 781 1,023 76%
38 えちごトキめき鉄道日本海ひすいライン 820 968 85%
39 北越急行 824 1,293 64%
40 島原鉄道 909 1,192 76%
41 真岡鐵道 939 1,122 84%
42 阿武隈急行 1,076 1,456 74%
43 富山地鉄不二越線 1,109 1,269 87%
44 万葉線 1,110 1,380 80%
45 上田電鉄 1,117 1,415 79%
46 芝山鉄道 1,144 1,434 80%
47 一畑電車 1,155 1,602 72%
48 智頭急行 1,199 2,472 49%
49 スカイレールサービス 1,218 1,456 84%
50 熊本電気鉄道 1,312 1,946 67%
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輸送密度ワーストは南阿蘇鉄道

私鉄各社のなかで、2021年度の輸送密度がもっとも低かったのは、南阿蘇鉄道の50。ただし、2016年熊本地震の影響で同線が立野~中松間が不通になっているときの数字です。運行している中松~高森間の営業キロを基に計算すると123になります。それでもワーストであることに変わりはありません。

南阿蘇鉄道は、2023年に全線で運転を再開していますので、今後、輸送密度の数字は回復するでしょう。

実質ワーストは秋田内陸縦貫鉄道

南阿蘇鉄道は区間運休という特殊要因がありますので、実質的なワーストは、次に輸送密度が低い秋田内陸縦貫鉄道ということになります。2021年度の輸送密度は166です。

2019年度からの回復率は64%にとどまります。2019年度も260と低い数字でしたが、新型コロナで落ち込んで、回復も遅れています。

いまのところ、地元では存廃に関する具体的な動きは出ていないようですが、この数字が続けば、今後は厳しい議論になるかもしれません。

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錦川鉄道は「あり方」検討

3番目に低いのが錦川鉄道の178。沿線の岩国市は、廃線の可能性を含めて今後のあり方の検討を始めています。2025年度以降に方針が決まりますが、この数字を見ると、なかなか厳しそうです。

4番目の紀州鉄道は、言わずと知れた不動産会社の路線で、広告的な意味合いもあって運行していて、存廃の議論は生じていないようです。

阿佐海岸鉄道はDMVで大幅増

5番目が阿佐海岸鉄道。225と低い数字ですが、2019年度に比べると67%の大幅増です。

同社は2021年12月にDMVの本格運行をはじめています。年度途中からの本格運行で、これだけ輸送密度が増えたわけです。この調子なら、2022年度以降はさらに数字が改善しそうです。

実際、同社の決算をみると、2021年度の旅客運輸収入が1107万円のところ、2022年度は1577万円まで42%も増やしています。輸送密度にあてはめれば、2022年度は300を超えていてもおかしくはありません。

採算性や費用対効果はともかくとして、利用者増という点においては、DMV化は一定の成功を収めているようです。

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三陸鉄道も厳しく

6番目が三陸鉄道。2019年にJR山田線釜石~宮古間を引き受けたのですが、その後の輸送密度は低下しており、232と厳しい水準です。

つづいて、わたらせ渓谷鉄道238、長良川鉄道249。いずれも国鉄の特定地方交通線を引き継いだ路線が並びます。

野岩鉄道は大幅減少

9番目には野岩鉄道が入りました。輸送密度は262です。同社は東武鉄道と直通運転をしており、浅草直通の特急列車が走ります。東京直通の列車が走るのは、地方の第三セクターとして、他に例をみません。

にもかかわらず、輸送密度がこれだけ低い数字になってしまっているのは驚かされます。対2019年度比49%というのは、ランキングに掲載した路線では最低です。主力の観光客が戻ってきていないのでしょう。

野岩鉄道は、2021年度末にあたる2022年3月ダイヤ改正で運行本数を4割削減するなど、大減便に踏み切りました。この輸送密度の落ち込みを見れば、その決断も理解できます。

上表にはありませんが、特急を運転しているローカル私鉄は、新型コロナで苦戦している路線が多いです。対2019年度比で、智頭急行49%、富士急行51%、伊勢鉄道53%、伊豆急行56%です。新型コロナ禍の収束とともに、回復を期待したいところです。

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由利高原鉄道の増加要因

11番目の由利高原鉄道は、阿佐海岸鉄道を除けば、唯一、対2019年度比で輸送密度が増加しました。2019年度の264が、2021年度に281となってます。

由利高原鉄道は、公募で就任した新社長が通学定期を半額にする施策をとりました。この施策が成功し、通学で使う高校生が増え、輸送密度が増加したようです。

半額施策の影響で、通学定期収入は2019年度の約1200万円から、2021年度は1000万円に減少しています。それでも、人口減少とコロナ禍をはねのけて、利用者が増えたことの意味は大きいでしょう。

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大井川鐵道など厳しく

以下、目に付いた路線を見てみると、大井川鐵道は2019年に比べて大きく数字を落とし、355となりました。同社は2022年9月に水害で被災していますので、この後も厳しい状況が続くとみられます。

若桜鉄道344と山形鉄道385は、輸送密度は300台後半で厳しいですが、回復率は90%以上と堅調です。東海交通鉄道や樽見鉄道といった、大都市に近い三セクも堅調です。

弘南鉄道大鰐線は400。同線は、沿線自治体の支援を受けていますが、決まっているのは2025年度までです。それ以降は支援が打ち切られる可能性があります。

経営難のローカル私鉄の代名詞になっている銚子電気鉄道は558。低いことは低いですが、他路線の数字が低下しているなかでは、比較的健闘している方かもしれません。

千葉県では、いすみ鉄道が294、小湊鉄道が739となっています。小湊鉄道は、五井近辺はもっと数字が高いでしょうから、末端部の数字はかなり厳しそうです。(鎌倉淳)

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