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長良川鉄道に乗ってみた。部分廃線議論、郡上八幡以北は厳しそうで

高速バスとは勝負にならず

長良川鉄道が部分的な廃線を検討しています。具体的な区間は明らかではありませんが、郡上八幡以北が検討になりそうです。状況を見に行きました。

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三セク転換から40年

長良川鉄道は、岐阜県の美濃太田~北濃間72.1kmを結ぶ第三セクター鉄道です。路線名は越美南線です。国鉄時代に特定地方交通線に指定され、1986年に第三セクターに転換されました。以後40年近く、地元が鉄路を支え続けています。

ところが、最近になって、部分的な廃止議論が沸き上がってきました。同鉄道の社長を務める関市の山下清司市長が、一部の地域の廃線を検討をしていることを議会で明かし、廃線検討がにわかに注目を集めるようになったのです。

どの区間が廃線の検討区間になるかは未定です。最末端の美濃白鳥~北濃間は対象になりそうですが、それに加えて郡上八幡~美濃白鳥間も検討対象になる可能性もありそうです。

状況を確認するために、2025年5月中旬の平日に、乗りに行ってきました。

長良川鉄道

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車内は蒸し暑く

乗車したのは、美濃太田11時35分発の北濃行き普通列車です。車両はナガラ3形で、2000年製。製造から四半世紀を経て、痛みも目立ちます。

ロングシートのクッションはへたっており、補修の縫い目も目立ちます。空調は効いておらず、車内は蒸し暑く、快適とはいえません。

ただ、窓を開けることができ、気持ちのいい風が入ってきます。

長良川鉄道

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終着駅で折り返し案内

美濃太田出発時、車内には十数人の旅客がいました。地元客が多数ですが、外国人旅行者のグループの姿もあります。大荷物ではなく、日本在住の外国人のようでした。

美濃太田から美濃関までは、頻繁に乗り降りがありました。美濃関で過半が降車し、数人が乗車。美濃市でまとまって降車するまでは、入れ替わりながら、十数人の旅客が座席を埋めている状況でした。

美濃市から先は7~8人の客となり、郡上八幡で外国人旅行者たちも下車。美濃白鳥で、わずかに1人残っていた地元客も降車。残った乗客は、鉄道好きの旅行者とおぼしき数人です。13時40分、終点・北濃駅に到着。美濃太田駅から2時間あまりかかりました。

終点到着前の車内アナウンスで、「折り返し列車は14時05分の発車です」との案内が。乗客のほぼ全員が、乗車を目的とした鉄道ファンであることを、鉄道会社も理解しているようです。

長良川鉄道

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転車台を見学し

北濃駅には、小さなカフェが併設されていますが、それを除けば、駅周辺に民家はほとんどなく、商店も見当たりません。延伸予定があったとはいえ、なんでこんなところが終着駅なのか、と不思議に思うような立地です。

駅構内には、国鉄時代に使われていた転車台が残されています。それを見学すれば、他にすることもありません。25分の折り返し時間はちょうど良く、飽きた頃に折り返し列車に乗車できました。

長良川鉄道

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郡上八幡駅で途中下車

このまま乗り通せば、美濃太田と岐阜で乗り継いで、名古屋に18時ごろに到着します。その経路で帰京する予定でしたが、車窓から見えた郡上八幡城が気になり、郡上八幡駅で途中下車してみました。

駅前でタクシーを拾って城まで行こう…、と思ったら、駅前広場にタクシーはいません。鉄道駅で客待ちしても、ほとんど利用者がいないのでしょう。

長良川鉄道

日本最古の木造再建天守

10分ほど歩いて、町中のタクシー会社に立ち寄ると空車があったので、山の上にあるお城に連れて行ってもらいます。

郡上八幡城は、昭和8年に再建された、日本最古の木造再建天守です。

近年の木造再建天守と違い、内部構造は江戸建築を再現していませんが、昭和前期の木造建築としてみれば貴重です。

観光客はまばらで、待つこともなく入城でき、快適に見学できました。

長良川鉄道・郡上八幡城

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高速バスで名古屋へ

見学後、山麓に降りて城下町をひとめぐりし、城下町プラザというターミナルから、スマホで直前予約したデマンドタクシーに乗車。町外れの高速バス停まで運んでもらい、16時21分発の名古屋行きのバスを捕まえます。

エアコンの効いたバスで、リクライニングシートを少し傾け、快適に名古屋駅へ。定刻より5分ほど遅れて、17時40分頃に名古屋駅新幹線口に到着しました。

高速バス

観光したほうが早かった

もし、北濃駅から乗車した列車で、郡上八幡駅で降りず、乗り続けた場合、どうなっていたでしょうか。郡上八幡出発は15時03分で、時刻表をたどると、名古屋駅到着は17時58分です。

一方、高速バスは郡上八幡16時21分発で、名古屋駅新幹線口17時35分着が定時です。

【鉄道】
郡上八幡15:03→16:37美濃太田16:59→17:33岐阜17:37→17:58名古屋

【高速バス】
郡上八幡インター16:21→17:35名古屋駅

つまり、郡上八幡で観光して高速バスに乗った方が、長良川鉄道に乗り続けるより、早く名古屋駅に到着できるわけです

具体的な所要時間でみてみると、郡上八幡~名古屋間は高速バスで1時間14分なのに対し、鉄道の場合なら乗り継いで2時間55分です。

郡上八幡駅のほうが市街地にやや近いという利点はありますが、城下町プラザ(城下町の中心地)からみれば、駅1.6km、バス停2kmで、大差ありません。

エアコンが効いて、リクライニングシートで、乗り換えなしの高速バスと、ロングシートで、エアコンも効いておらず、3倍近い時間がかかる鉄道。快適性でも速達性でも、勝負は明らかでした。

長良川鉄道地図
画像:地理院地図

 
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激減する高校生

長良川鉄道の利用者は、2023年度で約75万人。このうち、約48万人が定期利用者で、そのほとんどが沿線の高校生とみられます。つまり、主たる利用者は高校生で、名古屋へ向かう旅行者とは客層が異なります。

したがって、高速バスとの比較に、あまり意味はないようにも思えます。

しかし、長良川鉄道で一部廃線の動きが浮上したのは、近い将来に、高校生の激減が見込まれているからです。高校生が減る以上、利用者数を維持するには、他の旅客を増やさなければなりません。

そのターゲットになり得るのが、インバウンドを中心とする観光客です。観光客に鉄道を選択してもらうことが、長良川鉄道の存続に必要になってくるでしょう。

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観光地はあるものの

多くの地方ローカル線と違い、長良川鉄道には、郡上八幡という、それなりに有力な観光地があるのが強みです。

近隣の高山はインバウンドで賑わっていて、高山線特急「ひだ」は、平日でも混雑しています。高山がオーバーツーリズムに陥りつつあるなか、郡上八幡の注目度が、これから高まっていく可能性はあるでしょう。

また、終点・北濃の先には奥美濃のスキー場エリアが広がります。スキー・スノボを目当てに訪日する外国人観光客も少なくありません。

こうした観光地をうまくPRできれば、クルマを運転しないインバウンド利用者を増やせる余地はあるかもしれません。

ただ、名古屋方面からは線形が悪く、時間がかかりすぎます。できるできないは別として、名古屋直通の特急列車を走らせたとしても、長良川鉄道に、特急「ひだ」の盛況を望むのは難しい気もします。

奥美濃のスキー場への連絡バスを整備したとしても、ローカル線に2時間も乗るスキーヤーやスノーボーダーは、まずいないでしょう。

そう考えると、インバウンドを含む観光客輸送の増加も、簡単ではなさそうです。

郡上八幡の街並み

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美濃関以北が厳しそう

乗車した印象では、美濃太田駅から美濃市駅までは平野部で、沿線に住宅も多く、今後も一定の利用者が見込めそうです。しかし、美濃市駅を出ると、一転して谷間のローカル線となり、過疎区間が続き、利用者は限られそうです。

実際、長良川鉄道の乗降客数を見てみると、1位から10位までのうち、7駅が美濃市駅以南です。美濃市駅以北では、梅山(美濃市の次駅)、郡上八幡、美濃白鳥が入るだけです。

順位 駅名 乗降客数(人/日)
1位 美濃太田 839
2位 関口 497
3位 関  320
4位 梅山 302
5位 郡上八幡 233
6位 関下有知 216
7位 富加 165
8位 美濃市 151
9位 美濃白鳥 126
10位 関富岡 97
※「国土数値情報(駅別乗降客数データ)」(国土交通省国土政策局、2022年)より

美濃太田駅の乗降客数に比べ、郡上八幡駅は4分の1、美濃白鳥駅は7分の1程度です。

印象からも、数字からも、郡上八幡以北どころか、美濃市(または梅山)以北が厳しいのではないか、という気もします。長良川鉄道の全線の輸送密度は341(2022年度)ですが、美濃市以北に限れば200程度でしょう。

一方で、美濃市以北は長良川に沿っていて、美しい車窓を楽しめます。車窓を活かして、観光列車も運転しています。観光客に「乗って楽しんでもらう」ためには、この区間こそが生命線になるわけです。速達性では高速バスに敵わないものの、乗って楽しんで郡上八幡へ向かうという周遊ルートを構成するなら、この区間は外せません。

長良川鉄道

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郡上八幡~美濃白鳥間はどうなる?

当面の存廃の焦点となりそうな郡上八幡~美濃白鳥間は、郡上八幡以南に比べ、観光輸送の期待が乏しいのが現実です。絶対的な輸送人員が少ないこともあり、高校生人口の激減を見据え、廃止の方針が示されても不思議ではありません。

一方で、現在の郡上市は、7ケ町村が2004年に合併して誕生したという事情にも配慮しなければならないでしょう。郡上八幡以北を廃止すると、旧白鳥町と旧大和町の区域から鉄路を奪うことになります。

郡上市
画像:岐阜県

ただ、美濃白鳥駅の乗降客数は126人、郡上大和駅に至っては20人に過ぎず、利用状況をみれば、バスで十分運びきれる人数です。

結局のところ、長良川鉄道の将来像は、地元自治体である郡上市が、利用実態を踏まえて政治的に判断するほかなさそうです。今後の地元の協議が、どういう結論に落ち着くか、外部からは見通せません。(鎌倉淳)

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旅行総合研究所タビリス代表。旅行ブロガー。旅に関するテーマ全般を、事業者側ではなく旅行者側の視点で取材。著書に『鉄道未来年表』(河出書房新社)、『大人のための 青春18きっぷ 観光列車の旅』(河出書房新社)、『死ぬまでに一度は行きたい世界の遺跡』(洋泉社)など。雑誌寄稿多数。連載に「テツ旅、バス旅」(観光経済新聞)。テレビ東京「ローカル路線バス乗り継ぎの旅」ルート検証動画にも出演。