富士山に登山鉄道は必要か? 山梨県が2年後メドに構想案

何のために作るのか

富士山麓から五合目までを結ぶ「富士山登山鉄道」構想に動きがありそうです。山梨県が検討会を設置することを明らかにしました。登山鉄道が実現した場合、富士山観光はどう変わるのでしょうか。

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山麓と5合目結ぶ

山梨県の長崎幸太郎知事は、富士山登山鉄道について有識者を交えた検討会を立ち上げ、2年後をメドに構想案をまとめる考えを明らかにしました。

長崎知事は、2019年1月の知事選で、登山鉄道構想の検討を公約に掲げて当選。その実行に向けて、動き出した形です。

富士山登山鉄道については、2015年に、地元観光業者らでつくる富士五湖観光連盟の呼びかけで発足した「世界遺産富士山の環境と観光のあり方検討会」で議論されました。この検討会では、富士山の環境保全のため、山麓と吉田口5合目を結ぶ登山鉄道を建設するよう提言する最終報告書を取りまとめています。

山梨県が設置する検討会でも、この最終報告書が議論の叩き台にされるとみられますので、その内容を見てみましょう。

富士登山鉄道イメージ
画像:世界遺産富士山の環境と観光のあり方検討会報告書より

総延長約27km

この報告書では、スバルラインを鉄道線路に転用し、山麓と5合目を結ぶルート案を示しています。スバルラインを鉄道用地とするのは、自然環境負荷を考慮し、開発行為を最小限に抑えるためです。

報告書に掲載された路線イメージを見ると、山麓のターミナル駅を東富士五湖道路の富士吉田インター付近に設置する構想のようです。そこからスバルライン上をたどり、富士山吉田口5合目が終点となります。グーグルマップで測ったところ、総延長は約27kmです。

富士登山鉄道計画図
画像:世界遺産富士山の環境と観光のあり方検討会報告書より

山麓ターミナル駅から河口湖駅までは約2km、富士山駅まで約3km離れています。

グーグルマップによれば、山麓駅の標高は約880m。富士山五合目は約2,310mです。標高差は約1,430mですので、1,000mにつき約53mの高さを登ることになります。つまり、平均53パーミルの登山鉄道となります。当然、5合目に近づくにつれ傾斜は厳しくなります。

スバルラインの最大勾配は78パーミルです。箱根登山鉄道には最大80パーミルという勾配がありますので、スバルラインに線路を敷設しても、なんとか鉄道で登り切れるとみられます。

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路面電車

スバルライン上はアスファルト上に軌道を敷設して、自動車も通れるようにします。つまり路面電車の形態ですが、これは、緊急車両が走行できるようにするためです。また、途中、県道716号など他の道路と交差する部分に関しては、立体交差化します。

夏季のピーク時輸送に対応するため、線路は複線とします。スバルライン上の橋梁については、現状では鉄道設計基準に適合しないため、現在の橋梁を残したまま、外側に新たな橋梁を構築し、架け替えます。

富士登山鉄道構造図
画像:世界遺産富士山の環境と観光のあり方検討会報告書より

なぜ鉄道が必要なのか

では、富士山5合目までの鉄道が必要な理由はなんでしょうか。報告書では次のような現状の課題を挙げています。

まず、観光ピーク時の7、8月は、スバルラインはマイカー規制によりバスやタクシーしか入れませんが、それでも、1日あたり300台を超すシャトルバス・観光バスが5合目へ乗り入れて混雑しています。これが大気汚染の一因になっています。

シャトルバスは高頻度で運行されているものの、最混雑時には山麓の駐車場や5合目でバスを待つ長蛇の列が生じています。

また、夏季のシャトルバスは5合目と山麓駐車場間をノンストップで運行しているため、途中の停留所を利用してトレッキングコースとバスを組み合わせるような、柔軟な観光ルートを採ることができません。

逆に、オフシーズンの冬季(1~3月)は、スバルラインの路面凍結により、5合目へアクセスできる日が限られます。冬季は空気が澄んでいるので、富士山からの眺望は美しいのですが、バスの運行が不安定なために、観光資源として生かしきれていません。

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環境負荷が低く、運行も安定

こうした課題を克服する手段として、鉄道の導入が提言されているわけです。

すなわち、鉄道は環境負荷が低く、大気汚染を発生させません。また、自動車に較べれば冬季の運行も安定しているため、冬季の5合目観光誘客に大きな力を発揮します。

さらに、鉄道はアクセスの過程自体が一つの観光目的となるような楽しみを提供することができます。鉄道そのものが観光名所になるということです。

また、鉄道ではシートベルトを締めて座っている必要もないため、観光客を楽しませる車内サービスも行いやすくなります。

駅を中心とした地域の新たな賑わいを創出したり、5合目付近の一体的整備も狙います。

噴火などの災害時には、鉄道の高い輸送力を使えば、多くの人を一気に下山させることもできます。

5合目へバスで直行できない

報告書を読むと、なるほど、富士山登山鉄道には大きな利点があるのがわかります。ただ、利用者からみれば不便になりそうな部分もあります。

まず、富士山吉田口5合目へバスで行くことができなくなりますので、各地から吉田口5合目へ直行するバスは全て廃止され、山麓ターミナル駅で登山鉄道に乗り換えとなります。

新宿から吉田口5合目への直通バスもなくなりますし、登山ツアーのバスも山麓ターミナル駅止まりとなります。鉄道が24時間運行しないなら、たとえば早朝に吉田口5合目で登山開始する場合に、前泊する必要が出てきます。

富士登山に限れば、吉田口のアクセスが不便になるため、登山者は、相対的に利便性が高まる富士宮口を利用する人が増えるかもしれません。

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乗り換えが増える

登山鉄道の起点が富士吉田インター付近に設けられるなら、富士急行で訪れた観光客は、河口湖駅(または富士山駅)で下車した後、バスで山麓ターミナル駅へ移動し、登山鉄道に乗ることになります。

現状なら、新宿直通の特急「富士回遊」で河口湖駅に到着後、バスに乗り換えれば5合目へ直行できます。しかし、富士山登山鉄道ができたら、河口湖駅から山麓ターミナル駅までバスに乗り、さらに富士山登山鉄道に乗り換えるという手間が増えます。

富士山登山鉄道を河口湖駅発着にすれば、こうした手間は解消できます。山麓ターミナル駅想定位置から河口湖駅までは2kmほどですし、できれば河口湖駅に接着させたいところでしょう。ただ、当然のことながら、市街地に鉄道を敷設するとなると、事業のハードルは高くなります。

なんであれ、観光客からすれば、新たな登山列車に乗る楽しみは増えるものの、富士山5合目を目的地とする移動は不便になりそうです。

運賃はどうなる?

運賃面も気になります。報告書では、スイスの登山鉄道を参考事例としてあげています。よく知られている通り、たしかにスイスの登山鉄道は素晴らしいですが、運賃は高額です。ユングフラウ鉄道は、終点まで乗ったら往復1万円以上します。

富士山への鉄道敷設には、5合目入込客の総量を規制する意味もあるようです。となると、運賃はある程度高めに設定される可能性が高く、富士山5合目へ行くことが、「贅沢な旅」になってしまうかもしれません。

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なぜ鉄道なのか?

報告書は登山鉄道建設を提言する形でまとめられていますが、正直なところ、絶対に鉄道が必要、と納得してしまうほどの内容ではありません。

大気汚染をなくすならトロリーバスで十分な気もしますし、ハイブリッドバス専用のBRTにしてしまう手もあるでしょう。要するに、環境配慮型のバス車両専用道にしてしまえばいいだけです。

駅を拠点とした観光エリアやトレッキングルートの整備は、バスターミナルを拠点としても可能でしょう。

緊急時の避難に鉄道の輸送力は優位かもしれませんが、山麓から散らばって逃げられるバスのほうが機動力がありそうな気がします。

結局のところ、報告書を読んだ限りでは、登山鉄道がバスよりも絶対的な優位な点は、「冬季運行の安定性」くらいに感じられます。

そして、それこそが、富士山登山鉄道の最大の目的なのでしょう。つまり、富士山麓エリアを通年対応の観光地にしていくための、強力な観光資源が鉄道というわけです。

深い議論を

富士山登山鉄道は、夢があって素晴らしい話だと思います。

ただ、鉄道贔屓な筆者が見ても、「鉄道でなくてもいいのでは」と思う部分があるのも事実です。

なによりも、鉄道事業化で最もハードルが高い、事業費と採算性に関しての議論は、これからです。山梨県が公的機関として調査検討をするのであれば、「なぜ鉄道でなければならないのか」の議論を深めることを期待したいところです。(鎌倉淳)

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