ローカル鉄道「特定線区」の全詳細。地域モビリティ検討会『提言』を読み解く

輸送密度1,000人未満全区間リスト付き

国土交通省の「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会」が提言をまとめました。輸送密度1,000人未満のローカル線について、「特定線区再構築協議会」を設けて協議するというのが骨子です。指定された路線はどうなるのか。提言を読み解いていきましょう。

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地域モビリティ検討会の『提言』

国土交通省は、ローカル鉄道路線の見直し方を検討するため、「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会」(以下、地域モビリティ検討会)を開催してきました。

その第5回会合が2022年7月25日に開催され、とりまとめとなる『提言』が公表されました。

『提言』では、ローカル鉄道を取り巻く現状や、特定地方交通線など過去の路線廃止の状況を振り返りながら、各地のローカル線の再生事例を紹介。それらを踏まえて、今後の鉄道ローカル線の方向性を示しました。内容の詳細をみていきましょう。

芸備線

大臣指針を再確認

『提言』では、大原則として、JR各社が引き続き「現に営業する路線の適切な維持に努めるべき」としました。「単に不採算であることや一定の輸送密度を下回っていることのみで、路線の存廃を決定すべきではない」とも強調しています。

これは、平成13年の国土交通省告示(大臣指針)を維持する姿勢を再確認したものです。大臣指針では、「現に営業している路線の適切な維持」を明記しており、その尊重をJR各社に改めて求めた形です。

とはいえ、これはいわば建前です。『提言』では、「国鉄改革後35年という年月を経て、ローカル鉄道を取り巻く環境が劇的に変化」したことを踏まえて、「その在り方について検討していくべき」とも明記しました。

大臣指針の建前を維持する姿勢を保ちながらも、国鉄改革から時を経て利用者が激減した路線については廃止を含めた検討をして良い、とお墨付きを与えた形です。

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輸送密度2,000人

具体的なポイントとしては、輸送密度2,000人未満の路線について、地域公共交通活性化再生法などに基づく法定協議会を設けて、地域モビリティのあり方について検討を進めることを求めています。

輸送密度2,000人は、1980年に制定された国鉄再建法に基づくバス転換基準(4,000人)の半分で、第一次特定地方交通線の選定基準となった数字です。その数字を下回った路線については、法定協議をするように求めているわけです。

ただ、輸送密度2,000人未満を基準とした協議は、特定の路線の存廃を議論するものではありません。

特定線区再構築協議会

最も注目すべきポイントは、輸送密度1,000人未満の路線を対象に「特定線区再構築協議会(仮称)」の設置を求めたことです。

特定線区再構築協議会は、複数の自治体や経済圏・生活圏にまたがるなどの事情によって、合意形成に広域的な調整が必要と認められる場合に、鉄道事業者または沿線自治体の要請を受けて設置するものです。

つまり、一自治体内で完結するような路線は対象外です。また、自治体との連携が比較的取りやすい第三セクター鉄道線区も除きます。こうした路線については、地域公共交通活性化再生法の協議会などで話し合うことになります。

端的にいえば、特定線区再構築協議会は、複数自治体をまたがるJRのローカル線について、JR側から法定協議を求めることができる仕組みです。

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3年間の実証事業

特定線区再構築協議会の設置目的は地域公共交通の再構築であり、必ずしも鉄道廃止を前提としません。協議内容は、おおざっぱに言って「鉄道輸送の高度化による活性化」か、「バス転換による利便性確保」のどちらの方針を採るかを決めることです。

そのための実証事業として、以下のような取り組みをおこないます。

・列車の増便、接続改善、二次交通の充実などの利便性向上策や、運賃の見直し、地域の観光資源の活用による利用者の増加。
・鉄道車両、駅、駅前広場などの利活用による増収や利便性向上。
・技術や安全に関わる規制の運用の見直しによる経費削減。
・新たな輸送サービスの導入による利便性向上。
・DXなど新しい技術を活用したスマート化投資による経費削減。

こうした実証事業をおこなったうえで、協議開始後、最長3年以内に、沿線自治体と鉄道事業者が合意の上、方針を決定します。

クロスセクター評価

鉄道存廃を決めるためには、鉄道の価値を評価しなければなりません。その手法として、路線の収支だけを見るのではなく、地域のさまざまな分野の費用や効果に及ぼす影響も含めたクロスセクター評価の活用を求めています。

たとえば、バス転換が、車両や運転士の安定的な確保の点できわめて困難だったり、定時性や速達性の著しい低下が見込まれたり、渋滞を悪化させるなど道路交通への悪影響が明らかだったり、鉄道が観光戦略で必要不可欠な要素だったりといった場合、鉄道を運行することに公共政策的な意義が認められます。

こうした場合は、鉄道の徹底的な活用と競争力の回復に取り組んでいくべきとしています。

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50人を下回る線区

一方で、すべての列車のすべての区間において、イベント時などを除いた平常時の乗客数が50人(大型バス1台で輸送可能の規模)を下回っている場合などは、物理的にバス転換が容易、としています。

バスは鉄道と比べて投資・運営経費が低く、利用者のニーズに応じたルートの変更や、停留所の新設・移転、増便などを柔軟におこなうことができます。バスで事足りる場合は、公共政策的にバスに優位性があるわけで、積極的に導入する選択肢を検討すべきとしています。

対象外となる線区

特定線区再構築協議会の対象線区は、前述したように、輸送密度1,000人未満です。ただし、隣接する駅間のいずれかの区間において一方向1時間当たりの最大旅客輸送人員が 500人を上回っている場合は除外します。これは、バス転換した場合に、50人乗りの大型バスが10台程度必要になるためです。

基幹的な鉄道ネットワークを形成する線区についても、「我が国全体の経済成長や地球環境問題への対応、災害対応や安全保障等の観点から重要な役割」を果たしているとして、特定線区再構築協議会の対象外となりました。

具体的には、以下のような路線です。

・特急列車等の優等列車が、拠点都市(都道府県庁所在地またそれに準じる地域ブロックの中心都市)間を相互に連絡する区間を含む区間で設定されており、相当程度の利用がある線区。
・貨物列車が現に走行しており、全国一元的な貨物鉄道輸送サービスの一部として重要な役割を果たしている線区。
・災害時や有事において貨物列車が走行する蓋然性が高い線区など、国とJR各社との間で、我が国の基幹的な鉄道ネットワークを形成する線区として確認した線区。

これらの線区については、存続へのお墨付きが与えられた形です。それでも、普通列車を対象とした協議会を開催するなどの取り組みを求めました。

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新たな支援策

鉄道会社と沿線自治体が協議した結果、鉄道を残すと決まった場合には、国として新たな支援策を整えます。

まず、鉄道運賃に「協議運賃制度」を導入できるようにします。これは、協議会での合意を得ることを条件に、認可運賃を超えた運賃の設定を可能にするものです。

また、地域公共交通活性化再生法に基づく「鉄道事業再構築事業」の要件を見直し、上下分離を制度的に導入しやすくします。現状の要件は、経営難の鉄道会社の救済という形になっていますが、今後は、鉄道の利便性・持続可能性向上を目的として導入できるようにします。

このほか、経費削減に資する新たな設備や車両の導入を促進したり、まちづくりとの連携やデジタル投資などへの投資を支援します。

具体的には、交換設備の新設、新駅設置や既存駅移設、省エネ型の新型車両の導入、駅や車両の快適性向上のための改修、バスなどとの共同運行・接続の改善に資する駅などの改修、ホームと車両の段差解消、駅のバリアフリー化、駅の合築化、観光列車の導入支援などが挙げられています。

デジタル投資としては、ワンマン運転化、駅のスマート管理(多機能化を含む)、QR決済などのチケットレスシステムの導入、デジタル案内システムの導入などを挙げています。

自然災害の復旧支援の拡充

自然災害を被った線区の復旧支援も拡大します。

沿線自治体が上下分離方式を導入して復旧させる際に、鉄道輸送の高度化を図る場合には、鉄道施設災害復旧事業費補助にくわえ、国による支援内容の拡充を検討します。

これまでの災害復旧事業の原則は、既存の施設を「旧に復する」ことでしたが、この新方針によれば、復旧時に高速化などを施す場合に、国の補助が受けられるようになります。

さりげなく盛り込まれましたが、非常に重要な新方針です。肥薩線復旧を念頭に置いたものとも受け止められます。

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廃線後の協力求める

特定線区再構築協議会で廃線が決まった場合、基本的にはバス転換となります。

『提言』では、JR各社に対し、鉄道を廃止しても地域公共交通の持続的な運行や利便性の確保に最大限の協力をすることを求めました。

具体的には、転換バスの「路線・停留所やダイヤの設定といった検討」に加え、「自らの運行、グループ会社による運行、地元企業への運行委託、基金への出捐」などを挙げました。

さらに、「その他の鉄道区間との乗継利便性、運賃の連続性の確保や、観光を含めた地域振興」にも引き続き協力することを求めています。

JRに対し、鉄道廃線後も、鉄道があったときと同じような扱いをするよう要求した形です。

「特定BRT」の導入

それを具体化するために、新たに「特定BRT」(仮称)というメニューを掲げました。

これは、一定の要件を満たした場合に、BRT(バス)転換に手厚く支援を行うというものです。

要件例は以下の通りです。

・鉄道事業者が自ら運行するか、運行に対して同様の強い関与を行うこと。
・鉄道乗り継ぎ駅における乗り継ぎの利便性が確保されていること(駅構内乗り入れによるホームでの対面乗換の実現など)。
・鉄道と同等の運賃水準、鉄道との通し運賃が設定されていること。
・デジタル技術などの新技術を活用して定時性・速達性が確保されていること。
・鉄道と同等またはそれ以上の便数の実現や、バス停の新設、高校・病院等への立ち寄りなどにより、総合的に鉄道が運行していた時と比較して利便性が向上していること。
・時刻表に引き続き鉄道路線に準じる形で掲載されること。
・社会環境の変化等がない限り、長期にわたる運行が行われること。
・法定協議会で地域公共交通計画を作成し、本事業が位置づけられていること。

こうした要件を満たした場合、「特定BRT」となり、バス車両の導入、鉄道との対面乗り換え化のための駅の改修、専用道の整備、QR決済などのチケットレスシステムの導入、デジタル案内システムの導入、自動運転化や隊列走行化などを国が支援します。

特定BRTの制度と要件は、『提言』が例示しただけの段階で確定したものではありません。鉄道と同等以上の利便性と持続可能性、シンボル性を備えたバスシステムを、JRやその関連会社が持続的に運行することを目的とした制度のようで、「特定線区」の廃線を地元が受け入れやすくするための仕組みとみられます。

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BRT化か上下分離か

以上が、地域モビリティ検討会の『提言』の概要です。

簡単にまとめると、基幹路線を除くJR輸送密度1,000人未満の区間を「特定線区」と位置づけ、法定協議会をJRの発議で開催できるようにする、ということです。3年間を期限とした実証事業のメニューも用意されていますが、この輸送密度で鉄道を維持するのは困難で、実際には多くの路線でバス転換(BRT化)が行われるとみられます。

検討会の途中の議論では、輸送密度2,000人未満が「特定線区」となる雰囲気もありました。しかし、朝日新聞7月26日付によれば、「自治体や与党の反発も想定され」最終的に1,000人未満となったとのことです。それでも100線区以上ありますので、国交省もラインを下げたのでしょう。

バス転換のメニューとして目新しいのが「特定BRT」です。これまで通り「JR線」の扱いながら、バス車両で運行する仕組みです。時刻表にも掲載されるので、シンボルとしての路線は維持され、地元としては受け入れやすいでしょう。そのため、今後、JRの地方ローカル線の「特定BRT転換」が進むとみられます。

1,000に近い輸送密度がある路線は、地元が出資のうえ、上下分離を実施して、JRが引き続き運行するという形もあり得るでしょう。これまで、地方のJR線を上下分離とする例は、災害復旧や新幹線の並行在来線といったケースくらいでしたが、新たなルールが整備されれば、導入する区間も増えていくでしょう。

次ページ「輸送密度1,000未満の区間全リスト」に続きます

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