宮古と室蘭を結ぶフェリー、通称「宮蘭航路」が、2020年3月を以て運航休止します。2018年6月に就航してから、2年もたずに撤退に追い込まれました。
室蘭~八戸航路に変更
宮蘭航路は、岩手県宮古市と北海道室蘭市を結ぶ定期フェリーです。川崎近海汽船が2018年6月に運航を開始しました。当初は毎日1便が両港を10時間で結んでいましたが、利用が伸び悩み、2018年10月に南下便が八戸に寄港する変更を行ったうえで、週6便運航となっています。
同航路について、川崎近海汽船は、2020年3月31日限りで宮古寄港を当面休止すると発表しました。2020年4月以降は、室蘭~八戸航路として運航しますが、詳細な運航計画は未発表です。
見込みを大幅に下回る
川崎近海汽船によりますと、三陸沿岸道路を利用した北海道と東北・首都圏を結ぶ新たなルートと期待して宮蘭航路を開設したものの、「収益の柱であるトラックの乗船台数が当初見込みを大幅に下回るなど厳しい航路運営」が続いてきました。
2020年以降は、硫黄酸化物(SOx)の排出削減を目的とした船の環境規制が厳しくなり、燃料コストの増加が見込まれています。そのため、宮蘭航路の運営はさらに厳しさを増すことが予想され、同社は航路休止を決断しました。
なぜ就航したのか
宮蘭航路の計画が最初に明らかになったのは、2015年3月のことです。計画の背景として、厚生労働省の改善基準告示の「トラックのフェリー特例」がありました。これは、トラックがフェリーを利用する際の労働時間の取り扱いを定めたものです。
当時の通達では、運転手の乗船時間のうち2時間を労働時間とし、残りを休息時間とする扱いになっていました。運転手が勤務の途中でフェリーに乗船する場合には、フェリー乗船時間のうち2時間を拘束時間とし、その他の時間を休息時間として取り扱うことになっていたのです。1日に必要とされる休息時間は8時間のため、フェリーにトラックが連続10時間以上乗ればクリアできました。
本州・北海道航路の大動脈として八戸~苫小牧航路(八苫航路)がありますが、航海時間は8時間。基準に2時間足らず、連続してトラックを運転させることができませんでした。これに対し、宮蘭航路は航海時間を10時間として設計し、基準を満たせるようにしました。北海道を運転してきたドライバーがフェリー内で10時間休憩し、宮古で下船したらすぐに東京へ向けてハンドルを握ることができるのです。
それに加え、三陸沿岸の高速道路(三陸自動車道)が急ピッチで建設されていて、しかもそのほとんどの区間が無料でした。完成すれば東京までの高速代が安く付き、その点でも八苫航路に対して優位性があるとみられました。
特例が見直され
こうした事情を背景として宮蘭航路が計画されたのですが、前提となる「トラックのフェリー特例」が、運航開始の前に見直されてしまいます。2015年9月1日から、トラックドライバーのフェリー乗船時間を全て休息時間とする取り扱いに変わってしまったのです。
航海時間8時間の航路なら、トラックの運転手は下船後すぐに運転できるようになりました。すなわち、航海時間8時間の八苫航路が特例にぴったり適応する形になったのです。このため、宮蘭航路は開設後に八苫航路からトラック客を奪うことができず苦戦します。
宮蘭航路は、就航当初から乗船率が伸び悩み、2018年10月には早くも八戸寄港を開始。2019年4月には、ゴールデンウィークや夏休みにぶつけて、料金40%オフの大幅割引を実施します。こうした利用促進策にも関わらず乗船率は伸び悩んだようで、最終的に運航休止に追い込まれました。
再開の可能性はあるか
川崎近海汽船は、今回の措置を「宮古寄港を当面休止」と表現しています。そして「今後は、三陸沿岸道路の全線開通や本州/北海道間の貨物動向を注視しながら再開に向け検討を継続して参ります」とも付け加え、運航再開に含みを残しました。
2020年度中には三陸自動車道の仙台~宮古間で未開通区間がなくなり、東北道富谷JCT から宮古南ICが高速道路のみでつながる予定です。このうち鳴瀬奥松島IC以北が無料区間ですので、仙台~宮古間で高速代がほとんどかかりません。この点で運送会社にはメリットがあり、宮蘭航路に期待する声が、2021年以降に出てくることも予想されます。
一方で、八苫航路は便数が多く利便性が高いですし、東北道は三陸道より休憩施設が豊富で、片側1車線区間もなく、走りやすそうです。となると、三陸沿岸道路開通後に、宮蘭航路を求める声はそれほど多くは出ないかもしれません。
宮古から撤退するものの、北海道側は室蘭発着を維持しました。三陸沿岸の活性化も期待された新航路は、はたして復活できるのか。今後も注目です。