宮蘭フェリーは生き残れるか。旅客が好調も、トラックは大不振

トラック不振は深刻

川崎近海汽船が運航する宮古~室蘭間のカーフェリー(宮蘭航路)の利用状況が公表されました。旅客利用は好調なものの、メインターゲットであるトラック利用が不調。これを受けて、10月6日から南下便は八戸に寄港するスケジュール変更を行いました。

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トラックがメインターゲット

宮蘭フェリーは、2018年6月22日に開設された新しい航路です。航行時間を10時間に設定し、厚生労働省が定めるトラック運転手の休憩時間に関するルール(改善基準告示)に対応。船内で8時間休憩できるフェリーとして、トラックをメインターゲットに誕生しました。

室蘭発が夜行便、宮古発が昼行便です。就航時のスケジュールは以下の通りでした。

■宮蘭フェリー時刻表(就航時)
室蘭20:00→宮古06:00
宮古08:00→室蘭18:00

宮蘭フェリー
画像:宮古市

トラックが大不振

運航する川崎近海汽船は、初年度の輸送目標を旅客17,000人、乗用車8,800台、トラック18,000台としています。これに対し、岩手県が発表した2018年8月末までの利用実績は、計126便で旅客8,764人、乗用車2,465台、トラック621台となっています。

運航開始から2カ月余りで、旅客輸送は初年度目標の51.5%の実績を残し、乗用車も28%と堅調な数字でした。しかし、トラックは初年度目標のわずか3.4%にとどまり、大不振と言わざるをえません。

好調な旅客や乗用車にしても、観光客による「開業ブーム」に湧いた結果と考えることもできます。実需であるトラック輸送がまったく振るわない点は、路線の将来を考えると深刻です。

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南下便は八戸寄港

こうした事態を受けて、川崎近海汽船では2018年10月6日より運航スケジュールを変更。南下便は八戸寄港とし、週1日の運休日も設けました。新スケジュールは以下の通りです。

宮蘭フェリー時刻表(2018年10月6日改正)
室蘭20:50→03:30八戸04:00→07:55宮古(日曜休航)
宮古09:25→19:25室蘭(月曜休航)

新スケジュールでは、室蘭発の時刻を21時前と遅くして、八戸に午前3時半に着くよう設定しました。トラックの利用を促すダイヤ改正です。船体整備の時間を確保するため、トラック利用の少ない日曜日の南下便を休航にしています。

一方、宮古発の北上便のスケジュールには、あまり手を入れていません。南下便のテコ入れに注力し、北上便は「あきらめた」という雰囲気すら漂います。

南下便に利用者が集中

なぜ、川崎近海汽船はこうしたスケジュール変更に踏み切ったのでしょうか。8月末までの利用実績の内訳を見てみると、その理由が見えてきます。

利用実績では、夜行である室蘭発の南下便が旅客7,013人(1便当たり111人)、乗用車1,622台(同26台)、トラック402台(同6台)です。

昼行である宮古発の北上便は、旅客1,751人(同60人)、乗用車843台(同13台)、トラック219台(同3台)です。南下便のほうが、断然利用者が多いのです。

計算すると、南下便に旅客の80%、乗用車・トラックの65%が集中していることになります。

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北上便の不人気の理由

クルマを持たない旅客の利用者が、南下便に集中した理由は、室蘭、宮古での二次交通の接続の良さでしょう。

室蘭発の場合は、16時のバスで札幌を出て、フェリーに泊まり、早朝、宮古港からの連絡バスに乗れば、盛岡に9時20分に着くことができます。青春18きっぷを持っていれば、宮古駅から普通・快速列車を乗り継いで、当日中に東京にたどり着くことも可能です。

一方、クルマなしの旅客が北上便に乗るには、宮古に前泊する必要があります。室蘭では札幌行きのバスに接続するものの、札幌着は21時すぎ。前夜に宮古に到着し、丸一日をかけて札幌まで移動するわけで、時間の使い方としては効率的ではありません。

こうした事情で、クルマなしの旅客は室蘭発の南下便に集中したのでしょう。

トラック不振の理由

トラックの利用に関しては、南下便も北上便も不振です。その理由は、仙台方面と宮古港を結ぶ高速道路が、整っていないからとみられます。

三陸沿岸道路は急ピッチで整備が進められているものの、気仙沼や釜石周辺で未開業区間が残っています。高速道路だけで宮古から仙台まで行くことができず、長距離トラックには走りづらいのです。

そのため、南下便はルートを変更し、高速道路で仙台・東京と結ばれている八戸に寄港するわけです。トラック利用者を八戸で降ろすのです。

折り返しの北上便も八戸に寄港させたいところですが、そうすると往復の所要時間が24時間で収まらず、一船体で航路を回せません。しかたなく、北上便は、ガラガラ覚悟で室蘭に直行するわけです。半分回送みたいなものでしょう。

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タグボートの問題

宮古港にタグボートが1隻しかないことも問題になっています。

フェリーの離接岸時はタグボートによる曳航が必要で、就航にあたり、川崎近海汽船側は2隻の配備を求めました。しかし、岩手県は予算を理由にこれに応じず、1隻の配備にとどまりました。

海が荒れるときにはボート2隻による曳航が必要で、1隻だと運航に制約がでます。朝日新聞10月5日付によりますと、この影響で運航をあきらめたケースが、この3カ月に20便以上に達したとのことです。

もともと宮古港は天候に左右されやすく、この問題は就航前から懸念されていました。

岩手県議会の議事録を見ると、以下のようなやりとりが残っています。
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○柳村岩見委員 フェリーの信用度というのは、就航したかしないか、時間に来たかということで、時間に入られない、あるいは来ることができなかった、出ていくことができなかったということがフェリーの信頼信義につながるそうです。それが99.何%という就航率だといったときに、フェリーの信頼性が、そこで確保されるのかということの押し問答の中で、2隻要求していたと思うのです。皆さん、行政側のほうは、性能がいいやつだから1隻でいいという話で推移してきたと思うのだけれども、今はどうなりましたか。

○照井港湾課総括課長 フェリー就航時に、タグボートを2隻常備してほしいというお話
をフェリー会社からいただいて、その後フェリー会社とも調整を進めてきて、フェリー会
社も納得した上でタグボート1隻と、岸壁には牽引用の装置(補助係留装置)をつけるということで了解をいただいているというところでございます。
(平成29年8月1日県土整備委員会会議記録)
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3カ月で20便の欠航となると、就航率は9割を割る計算です。就航率の低いフェリーという評判が定着すれば、利用者が敬遠する理由にもなります。

とくに、宮古港は代替となる八戸港まで遠いので、天気の悪いときは、最初から宮蘭フェリーを避けて、八苫フェリーのある八戸港に向かう利用者が増えてしまうでしょう。

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三陸沿岸道路の全通は2年後

このままの乗船率が続けば、航路の存続は危ぶまれます。何より待たれるのは、三陸沿岸道路の仙台~宮古間の全通です。

三陸沿岸道路の宮古以南で、最後までの未開通で残りそうなのは歌津~本吉間2.0kmで、開業予定は2020年度です。すなわち、遅くとも2021年春までには、三陸沿岸道路の仙台~宮古間が全通します。

全通すれば、宮蘭フェリーのトラック利用も大きく増えることが期待されています。

ただ、それも就航率が高ければ、という前提です。就航率が9割程度の不安定な航路では、トラックは使いづらく、利用者は増えない恐れがあります。

宮蘭フェリーが生き残るには、タグボートの増備による安定運航も重要な課題になりそうです。(鎌倉淳)

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