九州運輸局がまとめた「鉄道維持・活性化」報告書の中身

ローカル線に処方箋なし

九州運輸局が、九州7県を走る鉄道の存続や活性化に関する調査報告書をまとめました。地域公共交通の活性化に向けて、地域と鉄道事業者の向き合い方を提言する内容です。

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九州の鉄道の特徴

九州運輸局がまとめた報告書は「九州における鉄道の維持・活性化のあり方」。九州各県の鉄道沿線自治体109市町村へのアンケートや、JR九州や西日本鉄道などの鉄道事業者、有識者への聞き取りを基にしています。いわゆる在来線が対象で、新幹線や路面電車、地下鉄は対象としていません。

九州は、福岡や北九州といった大都市と、県庁所在地をはじめとした地方都市が適度に分散し、さらに中山間地域が広がります。九州の鉄道は、そうした都市間を結ぶ幹線と、幹線から枝状に伸びる地域鉄道がネットワークを形成しています。

そのため、福岡圏では鉄道の利用者数が数十万人を数える一方で、1日数千人にとどまる鉄道路線もあります。報告書では、九州各線の鉄道旅客数を下表のようにとりまとめました。各路線の駅乗降客数を基にしているので、輸送密度とは数字が異なります。

九州の鉄道利用者数
画像:九州における鉄道の維持・活性化のあり方

九州の鉄道利用者数地図
画像:九州における鉄道の維持・活性化のあり方

すべての市町村が鉄道存続を求める

運輸局が沿線市町村に対しておこなったアンケートでは、すべての市町村が鉄道の存続を求めました。ダイヤの事前調整やまちづくりへの協力などで、鉄道事業者との連携が必要と考える市町村は、92%に達しています。

公共交通網形成計画を策定している市町村のうち、鉄道の役割を位置づけているのは80%、計画策定時に鉄道事業者がメンバーとして参加しているのは65%、計画に鉄道活性化事業を位置づけている自治体は56%でした。

市町村のなかには、その鉄道の現状に対する認識が曖昧なケースもありました。年間利用者数を認識していない市町村が27%。住民の鉄道の利用目的を把握していない自治体が、49%です。鉄道の利用実態について、詳細な情報やデータを有していないわけです。

また、鉄道の存続に取り組みが必要と考えている市町村は86%にとどまりました。大都市圏とみられますが、鉄道維持に向けた取り組みまでは必要ない、と考えている市町村が一定数存在することを示しています。

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鉄道事業者への聞き取り

鉄道事業者に対する聞き取りでは、鉄道事業の見通しや、利用者データの収集・公表、沿線自治体の取り組みについて尋ねています。

鉄道事業の見通しは路線によって異なりますが、一部で通勤利用者やインバウンドの利用者が増えているものの、少子高齢化が進む沿線では今後も厳しいという評価でした。

利用者データについては、機密性の高いものが多く、安易には外部に提供できないといった指摘がありました。また、データ提供依頼に対応していると作業が煩雑になり困難という声や、「独自の分析による批判や経営改善手法の提案が増え、業務に支障をきたす」「乗降数を見せたところで何も変わらない」という意見もありました。

鉄道の維持に対する取り組みとしては「事業の効率性を高める」ことはもちろん、「イベントや地元高校との連携、企画列車、パークアンドライド、インバウンドの誘致」「各種メディアへの露出増加」「応援団やサポーター、民間団体の協力」などを挙げる事業者もありました。

有識者の指摘

有識者への聞き取りによる指摘としては「地方公共団体は、鉄道はすぐに廃線とならないという感覚を持っている」「鉄道はやめない、つぶれない、という認識がどこかにある」といった内容がありました。

また、「鉄道事業者は観光列車の関係以外に地域に入り込めていない」「規模の大きな会社においては、企業全体として採算が取れているイメージが先行し、必ずしも鉄道事業に関する姿が伝わっていない場合がある」などという指摘もありました。

鉄道そのものの存在意義についても、「鉄道はあくまで道具」「存続自体を目的化することではなく、公共交通でどのような地域とするか、何を実現するかを目的とすべき」などという意見が記されています。

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鉄道の維持・活性化のあり方

こうしたアンケート、聞き取りを基に、報告書では、「九州における鉄道の維持・活性化のあり方」として、次のように示しています。

・鉄道事業者、地方公共団体、利用者、地域の方々が「主体的に」「共創」し鉄道に取り組むこと
・地域の目指す姿を確立し、その実現に向けて鉄道を柔軟なアイデアで使い倒すこと
・「存続」を目的化せず、鉄道のあり方について正面から捉えた議論を行うこと
・イベントをやって満足せず、恒常的な取り組みとして継続すること
・コミュニケーションを大事にし、お互いの信頼関係を構築すること

鉄道の維持・活性化のあり方

報告書全体をおおざっぱにまとめると、鉄道事業者と沿線自治体の意思疎通が希薄な点を大きな課題として捉えています。そして、沿線市町村が地域交通計画に鉄道をきちんと位置づけ、維持・活性化の方策を示すことを求めています。

報告書のわかりにくい点として、大都市の郊外鉄道とローカル線では、鉄道の性格や役割、課題が全く違うのに、整理せずに処理をしてしまっていることです。少なくとも、福岡圏とそれ以外では、データの扱いを分けた方が、よりわかりやすい内容になったのでは、と感じられました。

全体としては、地方都市の郊外鉄道や、ローカル線を主対象にした内容となっています。正直なところ、その内容に目新しさはなく、現状把握にとどまっていて、ローカル線の維持・活性化へ向けた新たな処方箋が示されたわけではありません。

ただ、国交省の出先機関である地方運輸局が、市町村に対して鉄道維持・活性化への努力を強く求めたことについては、今後の鉄道維持に関し、意味があるのかも知れません。(鎌倉淳)

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