熊本空港アクセス鉄道計画の全詳細。肥後大津ルートでJR九州と合意

最後にハードルも

熊本空港アクセス鉄道について、熊本県とJR九州が肥後大津ルートにより建設する方針で合意しました。開業目標は2034年度です。わかっている範囲で、計画の詳細をみてみましょう。

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三里木分岐から肥後大津分岐へ

熊本空港アクセス鉄道は、JR豊肥線と熊本空港(阿蘇くまもと空港)を結ぶ鉄道新線計画です。蒲島郁夫熊本県知事が2018年12月の県議会本会議で建設を進めることを表明し、2019年2月にJR九州と基本合意しました。その後の調査で、三里木駅から分岐するルートの整備効果が高いとし、三里木ルートでの検討を進めてきました。

しかし、豊肥線は熊本~肥後大津間を一つの運行系統としているため、JR九州は途中駅の三里木から分岐する案に難色を示します。

さらに、台湾の半導体企業TSMCが原水駅近くに進出するという環境の変化も重なり、熊本県がルートを再検討しました。2022年9月に、肥後大津ルートの事業効果が高いという試算結果を明らかにして、三里木分岐案から肥後大津分岐案に軸足を移していました。

熊本空港アクセス鉄道ルート案
画像:熊本県
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「JR線」として運行

熊本県の蒲島郁夫知事は、2022年11月29日にJR九州の古宮洋二社長と会談。肥後大津分岐案で合意し、熊本空港アクセス線は肥後大津ルートとなることが、事実上決定しました。12月県議会での議論を経て正式決定します。

合意に際して交わされた確認書では、空港アクセス線と豊肥線が直通運転をすることや、運営方式を「JRへの委託」または「上下分離でJRが運行」とすることが記されました。いずれの形でも「JR線」として運行する方針で合意したといえます。

上下分離の施設使用料や、赤字が発生した場合の対応などは、別途協議します。約410億円と見込まれている整備費は、JRが受益の範囲で最大3分の1を負担します。事業費や需要予測が変動した場合は、双方が誠意を以て対応します。

熊本空港

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熊本駅から最短44分

熊本県のこれまでの調査などによりますと、肥後大津~熊本空港間の距離は約6.8km。正確なルートは明らかではありませんが、肥後大津駅の東側で豊肥線から分岐して南下、白川を渡ってから河岸段丘を登り、空港の南側にあるターミナルビルに接着するとみられます。

熊本空港アクセス線ルート
画像:GoogleMap。経路は筆者による予想

熊本駅からは、空港を通り過ぎてからぐるりと回り込む形になるので、大回りです。そのため、熊本駅~熊本空港駅の距離は29.4kmにも達します。最初に候補とされた三里木ルートが24.6kmなので、それより4.8kmも走行距離が長くなります。

肥後大津ルートでの熊本駅~熊本空港駅間の所要時間は、約44分を見込みます。快速運転をした場合は約39分です。

豊肥線は単線のため、列車により所要時間にばらつきがあります。現行のダイヤでは、熊本~肥後大津間で35分~44分程度かかっているので、調査結果の「快速39分、普通44分」は最速パターンでしょう。

現実には各駅停車での運用が多いでしょうから、標準的な所要時間で、熊本駅~熊本空港駅間が50分近くかかりそうです。市街地に近い新水前寺駅からは、40分程度でしょうか。

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ほぼ全列車が空港乗り入れか

運行系統としては、JRと直通運転をするので、熊本~熊本空港がひとつの系統となります。

現在の肥後大津発着の列車のうち、どのくらいが空港まで乗り入れるかは決まっていませんが、肥後大津に発着する列車は毎時2~5本にすぎませんので、おそらくはほぼ全列車が熊本空港に乗り入れそうです。

実現すれば、日中毎時2本、ラッシュ時は毎時3~4本程度の列車が熊本駅と空港を結ぶことになるわけで、飛行機利用者には便利になるでしょう。

採算性の基準を満たさず

ただ、熊本空港アクセス鉄道は、まだ建設が本決まりになったわけではありません。

熊本県の調査結果によれば、建設による費用便益費は30年で1.03、50年で1.21と、基準となる1.0を上回っています。しかし、収支採算性では、基準となる40年以内の黒字転換は達成できません。

収支採算性の数字は、国交省の「空港アクセス鉄道等整備事業費補助」(補助率18%)に採択されることを前提にしています。鉄道事業の補助金の採択基準は、「累積資金収支が開業40年以内に黒字化」ですので、現在の事業計画では採算性の基準を満たしません。

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最後のハードル

そこで、熊本県は、総事業費の3分の1を国が補助することを求めています。県も同等の3分の1を補助をすれば、累積資金収支は40年以内に黒字転換し、採算性の基準を満たします。

国と県が3分の1ずつ負担するというスキームは公共事業ではよくありますし、鉄道事業では「都市鉄道利便増進事業費補助」や「地下高速鉄道整備事業費補助」が国3分の1の補助率です。「空港アクセス鉄道等整備事業費補助」が、これらと同様の補助率になれば、熊本空港アクセス鉄道は実現できる、というわけです。

蒲島知事は、国に補助金の制度変更を働きかけていく姿勢を示しています。政府はインバウンドに力を入れていますので、空港アクセスの向上は国策に沿う事業であり、制度変更は不可能ではないのでしょう。というよりも、その見通しがある程度立っているからこそ、JR九州と確認書まで交わしたと考えるのが自然です。

ということで、熊本空港アクセス鉄道は、最後のハードル「補助率変更」を越えれば建設に向け動き出します。開業時期は未定ですが、県によれば早ければ2034年度末に運行を開始したいとのこと。順調に計画が進むことを期待したいところです。(鎌倉淳)

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