弘南鉄道大鰐線が存続へ。運転士不足でバス転換難しく。弘前市長が表明

支援を継続へ

弘南鉄道大鰐線について、沿線自治体の弘前市長と大鰐町長が存続に前向きな姿勢をみせました。バスの運転士不足により、代替交通の確保が困難であることを理由に挙げています。

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2021年度から長期支援

弘南鉄道は青森県弘前市を起点に弘南線、大鰐線の2路線を持つローカル私鉄です。弘南線は弘前~黒石間16.8kmを結び、大鰐線は中央弘前~大鰐間13.9kmを結びます。

両線とも利用者の減少が続いていて、2021年度の輸送密度は弘南線が1,897、大鰐線が400です。沿線自治体は2021年度から10年間に渡る長期支援計画を立案し、両線の運行費や設備投資費を補助してきました。

ただ、利用状況が悪い大鰐線については、2023年度末に経営改善などの状況とその後の見込みを評価したうえで、「2026年度以降のあり方を事業者と協議する」としました。

要するに、弘南線は2030年度まで支援するが、大鰐線については、2023年度末までに経営改善の見通しが立たない場合、2025年度末での支援打ち切りも視野に入れる、という話になっていたわけです。

弘南鉄道大鰐線

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注目の2023年度決算は?

そのため、弘南鉄道の2023年度末決算は、高い注目を浴びていました。

6月21日に発表された決算では、弘南線の赤字額は9662万円で、支援計画での収支見通しの2480万円を7000万円以上も上回りました。

大鰐線の赤字は、その弘南線を上回る1億3068万円。収支見通しの1億80万円より約3000万円上回っています。

2023年度の弘南鉄道では、大鰐線が8月に脱線事故を起こし、その後に見つかった異常により、両線とも9月から11月または12月にかけて長期運休をしました。それが赤字拡大に影響したようです。

決算が見通しより悪く、しかも前年より収支が悪化していることから、大鰐線の存続は厳しい局面を迎えました。

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弘前市長の判断は

こうしたなか、6月25日に、沿線自治体の弘前市の桜田宏市長と大鰐町の山田年伸町長が弘前市役所で会談し、大鰐線に関する意見交換を非公開で行いました。

各社報道によりますと、意見交換では、新型コロナや脱線事故に伴う長期運休の影響もあり、支援計画を策定した当時とは前提条件が大幅に異なっていることから、評価基準などを見直す必要があることを確認したということです。

会談後の記者対応で、桜田弘前市長は、「地域住民の方々の交通弱者の方々の足は守らなければいけない、というのが行政の役割」としたうえで、「弘南鉄道大鰐線に代わる交通手段があれば良いですが、現時点で路線バス自体はドライバー不足で減便になっている状況、またタクシーもドライバーがコロナ禍以降なかなか戻って来ていない状況を考えれば、廃止に向けた議論というのは状況を全く認識していない」と述べ、廃止した場合、代替手段の確保が難しいという認識を示しました。

さらに、「そういうのを踏まえれば、存続ということを頭に置いていかなければいけないと思っています」と踏み込み、大鰐線存続へ前向きな姿勢を強調しました。

大鰐町の山田町長も、「町でも限られた予算がありますので、しっかりと支援していけるところに道筋を見つけていきたいと思っています」と応じ、「予算の範囲」という上限を設けたものの、支援に応じる意向を示しています。

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事前調査も背景に

大鰐線は弘前市に11駅、大鰐町に3駅があります。つまり、ほとんどが弘前市内の路線です。運行費の補助も約8割を弘前市が負担しています。

したがって、存廃にも弘前市の意向が重視されるのは当然で、大鰐町としては「予算の範囲で付き合う」という姿勢になるのでしょう。

弘前市では、大鰐線を廃止してスクールバスを運行した場合の試算も行っていて、1億3745万円がかかることがわかっています。

バスの場合は国からの運営費補助もあります。鉄道の赤字額と、単純に数字だけを比較するわけにはいきません。ただ、代替手段の確保にも相応の費用がかかることは確かです。そのうえ、バスの運転士不足があり、そもそも代替バスを運行できる確実な見通しは持てません。

弘前市が大鰐線に存続に前向きな姿勢をみせたのは、そうした事前調査を背景にしたものとみられます。したがって、政治的なパフォーマンスではなく、実際に大鰐線は存続の方向で調整が進められているとみてよさそうです。

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多少の赤字には目をつむり

大鰐線は、2013年に弘南鉄道が廃止方針を明らかにし、その後、撤回した経緯があります。2021年度からの長期支援計画では、弘南線を10年間無条件に支援する一方、大鰐線は5年更新という形で、差を付けました。

このため、大鰐線の存廃は、近年、注目を浴びてきました。しかし、人口減少などによる深刻なバス運転士不足に直面し、情勢は大きく変化しました。

バス転換が事実上不可能になるなか、一定の利用者がいる鉄道路線は、多少の赤字には目をつむり、存続せざるを得ない状況になってきたといえそうです。

大鰐線の輸送密度は400と決して高くありませんが、それでも鉄道を維持するという判断がなされるのであれば、今後、他のローカル線維持に関する議論にも影響しそうです。(鎌倉淳)

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