高知の路面電車、部分廃止が議論に。とさでん交通、設備更新に遅れ

レールの更新に292年

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200円区間が基本

2022年12月に開かれた、検討会の第1回議事録を見ると「路面電車を高知の文化。残すことは、文化的、観光的に意義がある」というような、心情的には残したいという意見が多くみられました。一方で、「軌道延長は検討すべきで、200円区間を基本に考えざるをえない」という現実論も出ています。

200円区間というのは、東西線の曙町東町~介良通間と南北線の全線です。おおむね、終日毎時9本以上の運行本数が確保されている市街地区間です。

とさでん交通

部分廃止が議論に

質疑では、「他社と比較すると、現状の2億3000万円の設備投資額なら、軌道距離は5kmから15km程度」「レール交換など本来実施したいレベルより遅れており、車両はそれぞれ規格が異なり、専用の部品のため高額という事情もある」といった説明もありました。

こうした議論の流れを聞き、用意された資料を見る限り、すでに部分廃止の議論が始まっていると受け止めざるをえません。

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半減で適正規模?

どこからどこまでを廃止し、どこを残すか、といった具体的な検討には至っていませんが、対象が末端部であることは間違いありません。

意見の一つにすぎませんが、「200円区間」だけを存続させるとなると、軌道距離は約12kmです。現状の半分ですが、それでも函館市や熊本市水準の規模です。人口30万人の高知市としては、適正に感じられます。

郊外部のなかでも伊野線の伊野~朝倉間は、2021年1月のダイヤ改正で、約20分間隔を約40分間隔とする大減便をおこなっています。新型コロナによる利用者激減を受けた改正ですが、40分間隔ともなると、道路上に軌道を維持する必要性が問われても仕方のない状況です。

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公共交通をどう維持するか

路面電車の経営主体であるとさでん交通は、土佐電気鉄道・高知県交通・土佐電ドリームサービスの3社を経営統合して、2014年に発足した会社です。3社が運行していた軌道・バス路線を引き継いでいます。

とさでん交通の株式は、全て地方自治体が保有しています。高知県が50%、高知市が34.97%、南国市が6.18%、いの町が2.99%などです。全株を地方自治体が保有しているのですから、事実上の公営企業です。民間資本が入っていないため、第三セクターですらありません。

つまり、高知において路面電車をどこまで残すかは、民間企業の論理ではなく、地域公共交通をどういう形で維持していくかという、地方自治の問題になっています。

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人口減少を見据えて

会議での検討対象は路面電車だけでなく、路線バスも含まれています。詳細は省略しますが、路線バスも厳しい状況で、とくに乗務員不足は深刻です。

そのため、「路面電車のバス転換」といった単純な話でもなく、人口減少を見据えて、効率的な公共交通ネットワークをどう維持していくかが検討のテーマになっています。

たとえば、滋賀県が導入を予定する交通税を念頭に置いた、費用分担に関する議論も出ています。滋賀県に倣うなら、新税を設け、補助金で設備更新をおこなって路面電車全線を維持する、という判断がされないとも限りません。

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放置できない

なんであれ、高知の路面電車の設備更新の遅れは、いつまでも放置できる状況ではなさそうです。

一気に全路線を廃止することは考えづらいですが、全線の維持が必要かどうかは意見が分かれるでしょう。維持するなら自治体が大きな負担をしなければなりませんが、その費用を納税者が負担するとなると、反対論が出ても不思議ではありません。

最終的にどういう結論に落ち着くか、難しい議論になりそうです。(鎌倉淳)

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