金沢市LRT/BRT計画の詳細。北陸鉄道の維持策も議論へ

金沢港~有松間

金沢市で、新しい交通システムとして、LRTまたはBRTの導入を進める議論が始まりました。計画の詳細をみてみましょう。

広告

長年にわたり議論

金沢市では、長年にわたり、市街地に新しい交通システムを導入する検討がおこなわれてきました。2017年2月には、「新しい交通システム検討委員会」が提言書をとりまとめ、「金沢港-金沢駅-香林坊-野町駅の都心軸」を基本ルートと定めています。この提言書は「地上走行を基本としたシステム」の導入が望ましいと指摘、導入に向けた環境整備を整えていくべき、とまとめました。

これを受け、金沢市では2017年度から「金沢市都心軸交通環境整備検討委員会」を設置し、交通量などの調査や、バス専用レーンの時間帯の拡大などの実験をおこなってきました。

こうした施策を経て、2021年5月25日に新たな有識者会議として「新しい交通システム導入検討委員会」を設置。次世代型路面電車(LRT)とバス高速輸送システム(BRT)を候補として、導入に向けた本格的な議論を開始します。

金沢駅

金沢港~有松間

導入検討委員会では、導入ルートを金沢港から金沢駅、香林坊、野町付近を経て有松に至る約8.9kmとして議論します。2017年提言では、野町までだったものを、有松まで延長するわけです。

金沢市新しい交通システム
画像:金沢市

これは、新たな交通システムを導入する場合、バス路線との乗継拠点の整備が必要になり、野町ではその整備面積が不足するためです。新たな交通システム導入後、野々市・松任、額・四十万、円光寺方面からは、有松ターミナルで乗り換えることを想定します。

LRTは中央側1車線を走る中央走行方式を候補とします。BRTは、中央側1車線を専用走行道とする中央走行方式と、歩道側1車線の既存バスレーンを強化する路側走行方式の二つを候補とします。

LRT、BRTとも中央走行方式の場合、停留場は交差点流出部に千鳥に配置します。BRTの路側走行方式の場合は、既存のバス停を活用します。

広告

LRT計画詳細

LRTの計画を詳しく見てみましょう。まず、金沢港~金沢駅間は、50m道路の中央帯側をLRTが走行します。金沢駅付近については後述しますが、地下で駅を横断する形が有力です。金沢駅~南町間は中央2車線をLRTが走行します。

南町~広小路間は、地下埋設物の関係で中央2車線に軌道を敷くことができないため、片側2車線をLRTが走行します。このうち、犀川大橋については、国指定登録有形文化財に指定されていて拡幅ができないため、片側に寄せた単線となります。広小路~有松間は、中央2車線をLRTが走行します。

武蔵~広小路間は、一部の停留所付近において道路拡幅が必要になります。広小路~有松間は道路拡幅が必要になります。広小路付近では野町駅へ乗り入れる単線が分岐し、分岐区間では道路拡幅が必要となります。

金沢市新しい交通システム
画像:金沢市
広告

BRT計画詳細

次に、BRTについてみてみます。中央走行方式の場合、金沢港~金沢駅間は50m道路の中央帯側をBRTが走行します。金沢駅~有松間は、中央2車線を、BRTと並行バス路線が走行します。一部の停留所付近において、道路拡幅が必要になります。

金沢市新しい交通システム
画像:金沢市

BRTの路側走行方式の場合、既存のバス専用レーンの機能を強化する形です。金沢港~金沢駅間は、50m道路の歩道側をBRTと並行バスが走行します。金沢駅~有松間は、歩道側2車線をBRTと並行バス路線が走行します。一部バス停留所付近の部分改良が必要となります。

金沢市新しい交通システム
画像:金沢市
関連記事

右折車線の問題

LRT、BRTともに、中央走行方式の場合、右折車線をどう確保するかという問題が生じます。中央車線に専用走行路を確保すると、現在、市中心部で右折車線が確保されている交差点のうち、武蔵、香林坊、片町を除く全ての交差点において、右折車線の確保が困難になります。

また、国道上のタクシーベイについても、方式により、1~4箇所の移設が必要になります。

金沢市新しい交通システム
画像:金沢市
広告

金沢駅の東西接続

LRT、BRTとも、金沢駅の東口と西口の接続方法には、地下接続案と地上接続案があります。

所要時間が短く、定時性が高く、整備効果が高いのは地下接続案です。しかし、整備費用は高額になります。駅の地下2階に停留所を作るので、他の交通機関との乗り換え時に上下移動の負担がかかるのも難点です。

金沢市新しい交通システム
画像:金沢市

地上接続案は、東口広場と西口広場にそれぞれ停留所を設け、金沢駅を迂回してつなぎます。

LRTを地上接続する場合、東口、西口の停留所がともにスイッチバック式になります。また、迂回ルートで走行空間の確保が必要となります。さらに、一度路上に軌道を敷いてしまうと、将来的な地下接続への移行が困難です。

こうしたことから、LRTの地上接続は現実的ではありません。先に「LRTは地下で横断する形が有力」と書いたのは、こうした理由からです。

金沢市新しい交通システム
画像:金沢市

BRTの接続案

BRTの場合も、東口広場と西口広場に停留所を設け、金沢駅を迂回するのは同じです。地上接続でも東西のバスターミナルを活用できますし、当面は金沢駅を迂回しても、将来的に地下接続に変更する工事は可能です。そのため、BRTの場合は、地上接続で暫定開業することも検討に値します。

そのほか、東西で系統を分離する分離案や、東側のみ整備する案もありますが、整備効果が低くなります。LRTの場合は、後述しますが東側のみでの部分開業は困難です。

広告

導入車両

導入車両については、LRTは福井鉄道フクラムの3車体3台車式車両を想定します。最大乗車人数は155名で、ピーク時の運行本数は3分間隔の毎時20本です。犀川大橋が単線になるため、これが運行本数の上限になります。

BRTは新潟市ツインくるの連節バスを想定します。最大乗車人数は93名で、ピーク時の運行本数は2分間隔の毎時30本です。

さらに、脱炭素社会を実現する必要があるとし、より環境負荷の低い車両の導入可能性についても検討します。

バス路線の並走路線

新しい交通システムとしてLRTやBRTが開業した場合、並走路線を中心にバス路線を再編します。しかし、LRT、BRTとも、最大輸送能力の関係上、金沢市中心部のバス利用者全てを新しい交通システムで運ぶことは不可能で、バス並走路線は残ります。

市中心部での並走路線は、現行で毎時往復149本ありますが、LRTを導入した場合、LRT40本、路線バス53本に再編します。乗り継ぎ旅客のため、有松周辺と広小路周辺に、乗継拠点を整備します。

金沢市新しい交通システム
画像:金沢市

BRTを導入した場合、BRT毎時60本、路線バス75本に再編します。有松周辺に、乗継拠点の整備が必要となります。

金沢市新しい交通システム
画像:金沢市
広告

道路交通への影響

LRT、BRTとも、専用走行帯を設けた場合に、金沢市中心部で一般車線が4車線から2車線に減少することになります。その場合の道路交通への影響を、ピーク時間帯についてみてみます。

まず、LRTまたはBRTについては、現況の路線バスより所要時間が減少し、北行きの有松~武蔵間で、中央走行方式で約8分、路側走行方式で約3分の減少となります。南行きに関しても、中央走行方式で約3分減少しますが、路側走行方式では変わりありません。

路側走行方式で現状のバス専用レーンよりも北行の所要時間が短縮する理由は、優先信号が設定されることや、バスレーン遵守度が上がることによるものです。

一般車の走行については、有松~武蔵間で北行が3分、南行が1分、所要時間が増えると見込みます。さらに、LRT、BRT経路と並行する本多通りでは渋滞が増えると予想され、一般車の北行所要時間が2~3分程度増加します。

金沢駅以西に関しては、現在の自動車需要が変わらなくても、混雑は激しくならないとしています。

金沢市新しい交通システム
画像:金沢市

部分開業は可能か

新しい交通システムを導入する場合、段階的な整備も選択肢に入ります。ただ、LRTについては、東側区間(金沢駅東口~有松間)のみの部分開業では車庫用地などの課題が多く困難です。金沢港~金沢駅(地下接続)~有松間の全線一斉開業が必要となります。

LRTは、都市計画決定、軌道特許、環境アセスメント、地域公共交通計画といった整備前の手続きに相当の期間が必要です。さらに、工事期間が他の方式に比べ長く、車線減少による自動車への影響が長期化します。用地取得の進捗状況により、整備期間が延びる可能性もあります。

BRTについては、部分開業が可能です。中央走行方式の場合は、専用走行路の区間整備による一部開業、乗り継ぎ拠点の整備、金沢駅東西接続という段階を踏みながらサービスを拡充していくことができます。

BRTでも、地域公共交通計画などの整備前の手続きは必要ですが、LRTに比べれば少ないです。開業前に先行して連節バス車両を購入し、既存バス路線の輸送力向上に充てることもできるでしょう。工事期間もLRTに比べると短くなります。とはいえ、工事期間中に、車線減少による自動車への影響は避けられません。また、用地取得の進捗状況により、整備期間が延びる可能性があります。

BRTの路側走行方式の場合も、中央走行方式と同様で、段階的な整備が可能です。工事期間が短く、自動車への影響は小さくなります。道路拡幅などによる用地取得が発生しない点で優位性があります。

広告

需要と収支

想定需要については、2060年の想定人口の低位推計(人口34万人)と中位推計(人口43万人)の両方で試算しています。1日あたりの想定利用者数は、LRTで低位30,000人、中位38,000人。BRTで低位25,000人、中位31,000人となりました。

収支予測は、公設型上下分離方式で算出しています。LRT、BRTとも車両や線路・道路施設は公共が整備します。車両の保守は運行主体がおこないます。LRTの場合、車両に加えて施設の保守も運行主体の負担になります。運賃は、LRT、BRTともに200円、他路線バスとの乗継割引は100円と仮定します。

こうした前提で単年度収支を試算すると、人口の低位推計で、LRTの場合、年3.9億円~6.7億円の黒字、BRTの場合は4.6億円~7.0億円の黒字となりました。営業段階での黒字が達成できるという試算です。

実現性はあるか

駆け足で見てきましたが、以上が、金沢市の「新しい交通システム」の導入案の概要です。LRT、BRTとも、専用走行道を前提としていて、決して広くはない金沢市のメインストリートの1車線を公共交通に供出するという点では、野心的な計画です。

が、実現性となると疑問符が付きます。とくにLRTに関しては、金沢港~有松までの一括開業が必要で、金沢駅は地下経由、犀川大橋は単線で、広小路~有松間では道路拡幅が必要と、ハードルはかなり高いでしょう。市街地の道路拡幅には十年単位の時間がかかることもあり得るため、正直なところ、実現性が高いとは言い難いです。

それに比べると、BRTは部分開業が可能、金沢駅は迂回ルートで暫定開業可能、道路拡幅も一部区間のみとなると、開業へのハードルはぐんと下がります。解決の難しそうな課題は、中央走行方式における右折レーンの減少くらいでしょうか。

BRTの路側走行方式の場合は、既存のバス優先レーンを強化する形のため、導入ハードルは低いでしょう。しかし、専用走行路をきっちりと確保できるわけではなさそうです。となると、現状の路線バスを連節バスにするだけの話にすぎません。連節バスは乗降に時間がかかるため、かえって所要時間が増える可能性があり、単に導入するだけでは中途半端でしょう。成功しているとは言いがたい新潟BRTの二の舞を演じてしまいそうな予感すらします。

こうしたことから、「新しい交通システム」と銘打つのであれば、中央走行方式のBRTがベター、ということになりそうです。検討委員会では今年度中に新たな交通システムの方向性をとりまとめることにしていますが、中央走行方式のBRTを段階的に整備する、といった結論に落ち着くのではないでしょうか。

北陸鉄道の救済策は

気になるのは、金沢市内を走る北陸鉄道浅野川線、石川線の両線です。新型コロナウイルス感染症による影響で両線の利用者が激減し、窮地に陥った北陸鉄道は、上下分離などの抜本的な救済策を求めています。

今回の検討委員会では、北陸鉄道の両路線について検討対象としていません。しかし、両線を「市内の公共交通の基幹」と位置づけ、持続可能性を確保しなければならないと判断しており、金沢市がこれまで「新しい交通システム」として議論してきた観点とは別の視点での検討が必要になるとしています。

具体的には、両線の利用者の都心部(香林坊・片町等)へのアクセス改善を通じた需要拡大策などの検討が必要となるとし、LRTやBRTの活用を含むとしました。ただ、他の自治体との議論も必要なので、関係市町が参加する別の枠組みで議論することになります。

北鉄の救済策はこれからですが、金沢市内にBRTを導入するのであれば、北鉄金沢駅との接続改善や、BRTの野町駅発着便の設定などが検討されそうです。

金沢市内にLRTを導入するのであれば、両路線をLRT化するといった大がかりな構想も浮上するでしょう。実現すれば画期的ですが、ここまで書いてきた通り、LRTの実現性は低そうなので、そこまでの大構想にはならない可能性が高そうです。(鎌倉淳)

広告